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第四章 三人目のハル・ウェルディス
傭兵たちの祝宴
しおりを挟む一階にある傭兵たちの詰め所は、広い土間にあちこちから持ち寄った寝床を据えただけの寒々しい場所だった。
五十人には少し足りないが、むさ苦しい男があちこちに転がって、眠っている者もいれば酒を飲んでいる者もいる。そこへ獲物を担いだ首領が足音も高く入って行った。
戦勝を上げた将軍のように、コーエンは高々と宣言した。
「窓を閉めろ! 灯りを全部こっちへ持ってこい! 今夜はこの辛気臭いボロ城を出ていく前祝いだぞ!」
寝入り端を起こされた傭兵たちは目を擦って抗議しかけたが、床に下ろされた獲物の姿を認めると慌てて駆け寄ってきた。
窓という窓が外から見えぬように閉められ、壁際に置かれていた灯りが集められる。
見世物小屋を囲む見物客のように、鼻息を荒げた男たちがコーエンとシェイドの周りに輪を作った。――もう、逃げ場はない。
四方から好奇と欲望に満ちた視線を浴びながら、シェイドは自らの選んだ道の怖ろしさを今更ながらに噛み締めた。膝に力が入らず腰が抜けたように座り込み、床に突いた手も震える。
悪い夢を見ているのだと思いたいが、これは現実だ。
思い描いた計画は上手くいきすぎたほど思惑通りに運んだ。後は部屋を訪れたラナダーンがこの騒ぎに気付いてやってくるまで、男たちを引き付けておけばいい。
そうすれば、ラナダーン配下の領兵と傭兵たちの間で騒ぎになって、その分ジハードは安全にここを脱出することができる。
「おい、こいつらの前でさっき言ったことを証明して見せな」
不揃いになったシェイドの髪を掴んで、傭兵の頭は仲間に見せつけるように、白い顔を膨らんだ股間に引き寄せた。
男たちの視線を感じながら、シェイドは忠誠を示すようにズボンの膨らみに口づけした。
「わ……私は……コーエンに飼われる、奴隷……です……」
あちこちから控えめな口笛が飛び、頭の上でコーエンが満足そうに笑う気配がした。
「そうか。……なら奴隷らしく、まずはご主人様に口で奉仕してもらおうじゃないか」
部下を得意げに睥睨しながら、コーエンはいきり立った肉棒を取り出した。
重量感のあるそれで痩せた頬を叩く。
「口を開けろ」
一瞬何を要求されたかわからずに、シェイドは目を見開いてコーエンを見た。
まさか……と凍り付いたように見上げるシェイドを見て、周りから囃し立てるような口笛が飛んだ。
「なんだお前、もしかしてコイツを咥えたことがないってのか。お上品なことだな、王様は。だがお前は今日から俺の奥侍従だ。目ぇ瞑っててもご主人様のアレが分かるように、しっかりしゃぶって味を覚えるんだな」
「……ッ、ウ……!」
顎を掴んで開けさせられた口の中に、筋を浮かせた肉の塊が入り込んできた。今朝も尻の中を掻き回したばかりの、噎せるような匂いを放つ不浄の肉塊だ。
反射的に吐き出そうとする舌を奥へ押し込み、醜い怒張が奥まで押し込まれた。
「オッ……ェ、ッ……」
「吐くんじゃねぇぞ。歯も立てるな」
弱々しく抗うのをものともせず、コーエンは両手でシェイドの頭を掴んで股間へと引き寄せた。
喉の奥にピクピクと跳ねる肉塊が突き当たる。シェイドの全身から汗が滲み始めた。
喉を突かれると胃の腑が捩じれ、意志に関わりなく奥から何かがせり上がってくる。
緩い唾液が開いたままの唇からダラダラと流れ、腹の底から何かが溢れ出そうだ。
もうこれ以上は無理だと感じた瞬間、肉塊は歯列の縁まで退いた。
「……ッ……ふ……ぁ……!……ング、ッウ……!」
シェイドが白い額にびっしりと玉の汗をかいて息を継ぐのを、コーエンは悦に入って見下ろし、その呼吸が整うのを待たずに再び頭を引き寄せる。
絶望と苦悶の表情が浮かぶのを愉しみながら、張り出した雁の部分で舌の付け根をグリグリと抉り、硬い毛に覆われた下腹に鼻を押し付けて呼吸を塞ぐ。
「そら、ちゃんと舌を使ってご奉仕しねぇと、このまま離してやらねぇぞ」
全身に脂汗を滲ませながら、シェイドは口の中の肉塊に舌を這わせた。
匂いを嗅ぎ味を感じると、否応なしに吐き気が込み上がってくる。けれどそれを顔に出すわけにはいかない。
「舌の先を使って、隅から隅まで綺麗にするんだ。唾は吐かずに飲み込め。こいつもできねぇで一人前の奴隷だなんぞと言わせねぇからな」
「……ンゥウッ、……ハッ、……ハァッ、……」
唇まで退いて行った瞬間に、急いで舌を使う。喉の奥を突かれるのは耐えがたいほど苦しく、恐怖さえ感じるほどだ。
あれを味わうくらいなら、自分からこの肉棒を舐め回した方がいくらかましだ。
だがどれほどシェイドが従順に奉仕しても、コーエンが情けをかけることはなかった。再び頭を両手で掴み、存分に怯えさせた後で容赦なく奥まで突き入れる。
「……ウッ、ブゥッ…………!、ウェ、ッ……ェッ!」
怒張を喉奥に突っ込まれたまま頭を押さえつけられ、ついに耐えきれずシェイドはえづいた。
痙攣する胃には昼から何も入れていないが、胃液だけでも絞り出そうというかのように激しく捩じれる。
ひっきりなしに腹を波立たせ、座った姿勢で全身を跳ねさせるシェイドの口から、水っぽいものが噴き出した。
コーエンが忌々し気にシェイドを離して、床に投げ捨てた。
「下手くそが!……二度と粗相できねぇように仕置きだ!」
床に這いつくばって呻くシェイドの耳に、興奮しきった様子で『仕置きだ!』『仕置きだ!』と唱和する傭兵たちの声が聞こえた。まだ残る吐き気に荒い息を吐く身体が、四方から伸びた手に拘束され、床の上に大の字に磔られる。
涙で霞む目でコーエンを見上げれば、傭兵の頭は仲間から小さな容器を受け取るところだった。
掌に収まるほどの小さな素焼きの壺には、細い木の枝のようなものが差し込まれている。
どこかで見た造形に目が離せなくなったシェイドは、壺から引き抜かれた枝に緑色の粘液が纏わりついているのを見て、引き攣った鋭い悲鳴を上げた。
「嫌!……嫌だッ!」
全身で暴れ出したシェイドを、笑いを深めた傭兵たちが骨も折れんばかりに床に押し付ける。
コーエンは壺を仲間に持たせて、粘液が滴り落ちる木の枝をシェイドの顔の前に見せつけた。
「えらい好き者だと思ったら、もう『洗礼』を受けていやがったか。今までに何回受けた? もう三回目も終わってるのか?」
細い木の枝をコーエンが振り回すと、とろりとした粘液が胸の上に飛び散った。
マクセルの連れて来た領兵は硝子の瓶に滑らかに削られた白木の棒を刺していたが、コーエンが手に握るのは端を削っただけの木の枝だった。先端は節の部分で折り取ったらしく歪に膨らんでいる。
灯り取りの炎を受けててらてらと光るその先を、コーエンは環に貫かれた左の乳首に擦り付けた。
「こいつはな、ただの媚薬じゃねぇ。傷口に擦りこんでやると、その時一緒に味わったモンに病みつきになっちまう。……例えば、こうやって千切れそうなくらい虐められる痛みとか」
「いゃッ! アッ!…………ぁ……」
コーエンが棒の先で乳首の環を押し上げた。塞がり切らない傷口に粘液が滲みる。
ビリビリと痺れるような痛みに全身を強張らせた直後、金属を食む小さな肉粒に耐えがたい痒みが広がった。
触られなくても腫れ上がっていた肉粒は、粘液の入り込んだ傷口から熱を持ち、そこに小さな心臓が生まれたように脈打ち始める。熱くて、痒くて、堪らない。
体を悶えさせるシェイドを見下ろして、コーエンは枝の先端に輪を引っかけ、ゆっくりとそれを引っ張った。広がる傷口に秘薬が入り込み、揺らされるたびに燃えるような感覚が生じる。
「や、め……あぁッ!……あひぃ! や、ひぃいい――ッ!」
「一度受ければ淫婦になり、二度目を受ければ犬になる。……三度受ければ掃き溜めの穴とはよく言ったもんだ。どうだ、乳首だけでイケちまうだろ?」
輪に引っ掛けた木の枝が引かれ、形を変えた乳首が千切れそうなほどの痛みと陶酔をもたらした。
――頭の奥で、何かが弾ける。
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