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第四章 三人目のハル・ウェルディス
魔性
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ラナダーンが組み敷いたのは、少年のようにしなやかな細身の肢体だった。
白い肌は上気して鮮やかに色づき、触れればしっとりと掌に吸い付く。
あどけなささえ感じさせる、年齢を読ませない顔は良く作られた人形のようだが、縋りつくように見上げる潤んだ瞳や、涙の粒を載せて震える睫毛は、どんな造り物も持ち得ない瑞々しさを備えていた。
高まると白い頬が薔薇色に色づき、濡れて開いた唇からは甘い吐息が漏れて、男の目と耳を愉しませる。
儚さを感じさせる透き通った声は、昇り詰めるその瞬間には命の全てを迸らせるように高く放たれ、恍惚のたびに潤む瞳は二度三度と男の情欲を誘う。
――一度でも触れれば病みつきになる、魔性の肉体だった。
「これが好きか。……こうやって、奥まで乱暴に突き上げられるのが」
十分に猛った武器で蜜壺を突いてやれば、声もなく喘ぎ、苦悶するように眉を寄せる。だが偽ることのできない媚肉は歓喜してラナダーンの牡に絡みつき、吸い付くように断続的に絞ってきた。
小振りな尻が淫靡に蠢き、自らの好い場所を突かせようと擦りつけてくる。どこまでも淫らで欲深い肉だ。
――溺れるな。
誘われるように腰を打ち付けながら、ラナダーンは己に言い聞かせた。
これは北方人だ。ファラスの御使いの如き姿をしているが、犬に等しい卑しい生まれで、色香で国王を惑わせた男妾だ、と。
だがそう言い聞かせねばならぬ時点で、十分に溺れかけているのだとラナダーンは自嘲した。
溺れるなという方が無理というものだ、この魔性には。
「……あ、ああぁ……いやぁ……ッ、また……い、く……ぁ、あ、あッ! ぁあ――――ッ……!」
薄い腹の上に溜まった蜜を指に取り、それを胸の飾りに塗りつけてやれば、慎みを知らない奥侍従は身悶えしながら極まっていく。
嫌だと言いながら強請るように胸を突き出すのだから、これを虐めてくれと言っているのだ。
指で強めに弾いてやれば媚肉が痙攣するように何度も締まり、きつく抓ってやれば腰が揺れてラナダーンを追いあげる。
中を精で満たせと、熱い肉壺が訴えた。
「あぁ!……もう、中が蕩ける……ぁッ、好い……い、ぃぁああ!……いく、逝くぅ――!……ッ」
びく、びく、と全身を跳ねさせながら白い体が再び昇り詰めていく。男としての用をなさない部分から蜜が零れ、血の気を上らせた美しい顔が陶然と緩んだ。
男に生まれておきながら女の悦びに啼き狂う姿を見れば、ここまで狂わせたのは自分なのだという優越感にも満たされる。
絡みつく肉襞は貪欲で、そうまで強請るのならばくれてやらねばなるまいと思わせた。まるで底なしの沼だ。
自分がこの肉体に引きずり込まれていくのをラナダーンは感じた。
身を退こうとしたが、逃すまいと媚肉が絡みついてくる。
どこにそんな力があるのか、すらりとした両足に腰を捕らえられ、骨の細い両手に縋りつかれると、もう振り解けなかった。
――これは、ただの戯れだ。
ラナダーンは逃れられない自分に言い募った。これは束の間の余興だ。溺れるだけ溺れても、為すべきことさえ忘れなければいいのだ。
そう言い聞かせれば、今まで感じたことのないような征服感が押し寄せてきた。
王の奥侍従を奪い取るのは、玉座を奪い取るための前座だ。
これはいずれ全てが手に入るということの予兆なのだと。
「……シェイド……!」
名を呼べば、それに応えるように肉壁が締め付けてくる。
ラナダーンは低く呻きながら、二度目の精を思うさま中に叩きつけた。
涙の浮かぶ目で煤けた天井を見つめながら、シェイドはヒクヒクと唇を震わせていた。
ラナダーンに抱かれて、いったいどれほど絶頂を味わっただろうか。
指先まで痺れるほどの深い快楽を味わいすぎて、力が入らない。ジハードと体を合わせた時と同じ、身も心も満たされるような法悦の連続だった。
「……国王に会いたいか」
その声に、シェイドは緩慢に顔を傾け、潤んでぼやける視界で声の主を探した。
ジハードがそこにいる。――いや違う、これは別人だ。そんな問答を頭の中で行わなければならないほど、思考が乱れて纏まらない。
「会いたい……」
半ば嗚咽するように、シェイドは素直な望みを口にした。
今すぐ会いたかった。会って、自分が仕えるべき主を確かめておかなければ、何のためにここにいるのかわからなくなってしまいそうだ。
「会いたい……会わせて、ください……」
縋るように伸ばした手は、力が入らずに震えていた。
その手をラナダーンが握った。
「なら行くぞ。国王がどう過ごしているか、見てみればいい」
服の乱れを整えたラナダーンが、床に落ちていた掛布を拾ってシェイドの体を包み込んだ。そのまま軽々と、まるで小さな子供を抱えるように片腕抱きに抱き上げる。
不安定さに怯えて、シェイドは両腕でラナダーンの首に縋りついた。
腰が砕けてとても歩ける状態ではないから、そうする以外に方法はなかった。
それがジハードの目にどんなふうに映るかなど、気にする余裕はなかった。
ラナダーンはシェイドを抱えたまま、外で待っていたニコに合図して扉をくぐった。
悦楽の余韻で霞がかかっていた頭が、そこで急に目が覚めたようにはっきりしてきた。
砦の内情を知る、千載一遇の機会だと分かったからだ。
無力を装ってラナダーンに身を預け、見るともなしにぼんやりと目を開けている風を装い、シェイドは視界に入ってくるものを何一つ見逃すまいと意識した。
閉じ込められた部屋の位置、見張りの人数、砦の規模――、脱出のために知っておくべきことは無限にある。
続きの間には見張りが一人と、通路を進んだ先にある階段の下にも一人いた。
閉じ込められていたのは兵舎のような建物の四階に相当する部屋で、一階部分は傭兵たちの詰め所になっているらしい。傭兵で溢れる一階の通路を通り過ぎる時、ラナダーンに抱えられて進むシェイドを見て、見覚えのある数人がいやらしい嗤いを浮かべた。
傭兵の頭であるコーエンの姿も、その中にあった。
髭の男は握り拳の間から出した指先を出し入れして、性交を示唆するようなしぐさを送ってくる。今し方までラナダーンに抱かれていたことも、傭兵たちに知られたのだろう。
傭兵たちの間を通り抜け、一旦建物の外に出たラナダーンは、シェイドを抱いたまま中庭を突っ切って塔へと進んだ。
中庭の周囲は高い城壁に覆われており、とても登って逃げられる高さではない。
確かこの壁の向こう側には外堀もあるはずだ。登れたとしても、今度は降りることができないだろう。
シェイドが閉じ込められている兵舎と塔の間は、歩けば結構な距離があった。
砦の中の守護する場所も割り当てが決まっているのだろう。居住区として使っている兵舎の警備には傭兵が就いていることが多かったが、塔の近くを守るのはベラードの領兵だった。
入り口には帯剣し矢筒を背負った領兵が二人。
螺旋状の階段を上っていくと、二階と三階部分は無人だったが、四階には領兵のための小さな詰め所があった。椅子と寝台が三つ置いてあることから、少なくとも三人はここに詰めている様子だ。
五階に続く螺旋階段には、俄か拵えの柵が設けられている。この先が国王の幽閉場所になっているらしい。
柵の鍵を開けさせて、ラナダーンが力強く階段を上り始める。
息が苦しく感じるほど胸が高まっていくのを、シェイドは感じた。
白い肌は上気して鮮やかに色づき、触れればしっとりと掌に吸い付く。
あどけなささえ感じさせる、年齢を読ませない顔は良く作られた人形のようだが、縋りつくように見上げる潤んだ瞳や、涙の粒を載せて震える睫毛は、どんな造り物も持ち得ない瑞々しさを備えていた。
高まると白い頬が薔薇色に色づき、濡れて開いた唇からは甘い吐息が漏れて、男の目と耳を愉しませる。
儚さを感じさせる透き通った声は、昇り詰めるその瞬間には命の全てを迸らせるように高く放たれ、恍惚のたびに潤む瞳は二度三度と男の情欲を誘う。
――一度でも触れれば病みつきになる、魔性の肉体だった。
「これが好きか。……こうやって、奥まで乱暴に突き上げられるのが」
十分に猛った武器で蜜壺を突いてやれば、声もなく喘ぎ、苦悶するように眉を寄せる。だが偽ることのできない媚肉は歓喜してラナダーンの牡に絡みつき、吸い付くように断続的に絞ってきた。
小振りな尻が淫靡に蠢き、自らの好い場所を突かせようと擦りつけてくる。どこまでも淫らで欲深い肉だ。
――溺れるな。
誘われるように腰を打ち付けながら、ラナダーンは己に言い聞かせた。
これは北方人だ。ファラスの御使いの如き姿をしているが、犬に等しい卑しい生まれで、色香で国王を惑わせた男妾だ、と。
だがそう言い聞かせねばならぬ時点で、十分に溺れかけているのだとラナダーンは自嘲した。
溺れるなという方が無理というものだ、この魔性には。
「……あ、ああぁ……いやぁ……ッ、また……い、く……ぁ、あ、あッ! ぁあ――――ッ……!」
薄い腹の上に溜まった蜜を指に取り、それを胸の飾りに塗りつけてやれば、慎みを知らない奥侍従は身悶えしながら極まっていく。
嫌だと言いながら強請るように胸を突き出すのだから、これを虐めてくれと言っているのだ。
指で強めに弾いてやれば媚肉が痙攣するように何度も締まり、きつく抓ってやれば腰が揺れてラナダーンを追いあげる。
中を精で満たせと、熱い肉壺が訴えた。
「あぁ!……もう、中が蕩ける……ぁッ、好い……い、ぃぁああ!……いく、逝くぅ――!……ッ」
びく、びく、と全身を跳ねさせながら白い体が再び昇り詰めていく。男としての用をなさない部分から蜜が零れ、血の気を上らせた美しい顔が陶然と緩んだ。
男に生まれておきながら女の悦びに啼き狂う姿を見れば、ここまで狂わせたのは自分なのだという優越感にも満たされる。
絡みつく肉襞は貪欲で、そうまで強請るのならばくれてやらねばなるまいと思わせた。まるで底なしの沼だ。
自分がこの肉体に引きずり込まれていくのをラナダーンは感じた。
身を退こうとしたが、逃すまいと媚肉が絡みついてくる。
どこにそんな力があるのか、すらりとした両足に腰を捕らえられ、骨の細い両手に縋りつかれると、もう振り解けなかった。
――これは、ただの戯れだ。
ラナダーンは逃れられない自分に言い募った。これは束の間の余興だ。溺れるだけ溺れても、為すべきことさえ忘れなければいいのだ。
そう言い聞かせれば、今まで感じたことのないような征服感が押し寄せてきた。
王の奥侍従を奪い取るのは、玉座を奪い取るための前座だ。
これはいずれ全てが手に入るということの予兆なのだと。
「……シェイド……!」
名を呼べば、それに応えるように肉壁が締め付けてくる。
ラナダーンは低く呻きながら、二度目の精を思うさま中に叩きつけた。
涙の浮かぶ目で煤けた天井を見つめながら、シェイドはヒクヒクと唇を震わせていた。
ラナダーンに抱かれて、いったいどれほど絶頂を味わっただろうか。
指先まで痺れるほどの深い快楽を味わいすぎて、力が入らない。ジハードと体を合わせた時と同じ、身も心も満たされるような法悦の連続だった。
「……国王に会いたいか」
その声に、シェイドは緩慢に顔を傾け、潤んでぼやける視界で声の主を探した。
ジハードがそこにいる。――いや違う、これは別人だ。そんな問答を頭の中で行わなければならないほど、思考が乱れて纏まらない。
「会いたい……」
半ば嗚咽するように、シェイドは素直な望みを口にした。
今すぐ会いたかった。会って、自分が仕えるべき主を確かめておかなければ、何のためにここにいるのかわからなくなってしまいそうだ。
「会いたい……会わせて、ください……」
縋るように伸ばした手は、力が入らずに震えていた。
その手をラナダーンが握った。
「なら行くぞ。国王がどう過ごしているか、見てみればいい」
服の乱れを整えたラナダーンが、床に落ちていた掛布を拾ってシェイドの体を包み込んだ。そのまま軽々と、まるで小さな子供を抱えるように片腕抱きに抱き上げる。
不安定さに怯えて、シェイドは両腕でラナダーンの首に縋りついた。
腰が砕けてとても歩ける状態ではないから、そうする以外に方法はなかった。
それがジハードの目にどんなふうに映るかなど、気にする余裕はなかった。
ラナダーンはシェイドを抱えたまま、外で待っていたニコに合図して扉をくぐった。
悦楽の余韻で霞がかかっていた頭が、そこで急に目が覚めたようにはっきりしてきた。
砦の内情を知る、千載一遇の機会だと分かったからだ。
無力を装ってラナダーンに身を預け、見るともなしにぼんやりと目を開けている風を装い、シェイドは視界に入ってくるものを何一つ見逃すまいと意識した。
閉じ込められた部屋の位置、見張りの人数、砦の規模――、脱出のために知っておくべきことは無限にある。
続きの間には見張りが一人と、通路を進んだ先にある階段の下にも一人いた。
閉じ込められていたのは兵舎のような建物の四階に相当する部屋で、一階部分は傭兵たちの詰め所になっているらしい。傭兵で溢れる一階の通路を通り過ぎる時、ラナダーンに抱えられて進むシェイドを見て、見覚えのある数人がいやらしい嗤いを浮かべた。
傭兵の頭であるコーエンの姿も、その中にあった。
髭の男は握り拳の間から出した指先を出し入れして、性交を示唆するようなしぐさを送ってくる。今し方までラナダーンに抱かれていたことも、傭兵たちに知られたのだろう。
傭兵たちの間を通り抜け、一旦建物の外に出たラナダーンは、シェイドを抱いたまま中庭を突っ切って塔へと進んだ。
中庭の周囲は高い城壁に覆われており、とても登って逃げられる高さではない。
確かこの壁の向こう側には外堀もあるはずだ。登れたとしても、今度は降りることができないだろう。
シェイドが閉じ込められている兵舎と塔の間は、歩けば結構な距離があった。
砦の中の守護する場所も割り当てが決まっているのだろう。居住区として使っている兵舎の警備には傭兵が就いていることが多かったが、塔の近くを守るのはベラードの領兵だった。
入り口には帯剣し矢筒を背負った領兵が二人。
螺旋状の階段を上っていくと、二階と三階部分は無人だったが、四階には領兵のための小さな詰め所があった。椅子と寝台が三つ置いてあることから、少なくとも三人はここに詰めている様子だ。
五階に続く螺旋階段には、俄か拵えの柵が設けられている。この先が国王の幽閉場所になっているらしい。
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