【完結・R18】婚活中に異世界転移したら俺様毒舌王子に粘着溺愛された話

星式香璃143

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【第一章】ハートの女王は靡かない

14.

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「……………あぁ?」


 たっぷり間をおいて、ジェニの顔面が暗黒色になった。



「お前………本当に……冗談も休み休み言えよ……」



 この流れでよくもまぁそんな事言えたな、心から尊敬する、と逆に褒められてしまった。
 いや、微塵も褒めていないのだろうが。


 ちなみに、エガリテは失神する直前のような青い顔して「わ、わたくし、何も、聞こえませんでしたわ……」とふらふらしながらソファーにもたれかかっている。



「その、ここまでの迷惑をかけておいて……本当に申し訳ないんですが」
「中途半端な敬語もやめろ」
「僕には帰らなければならない理由があるんだ」



 変に気を遣うのはやめよう、と思った。

 ジェニは「もう少しオブラートに包んでくれてもいいのにな」というくらいにまっすぐに自分へと意見してくれている。ならば、自分も同じ土俵で、真正面から向き合わなければと反省した。



「君がこの国を守りたいように、僕も、守りたいものがあるんだ」



 もう、照れてなどいられない。

 顎を掴んでいたジェニの手をそっと外し、まっすぐに目線を合わせたまま、ソファーに座って彼に向き直る。
 ジェニはソファーに座る伊久磨と目線を合わせるためだろうか。伊久磨の前で片膝をついた姿勢のまま、相変わらずの美しい顔で伊久磨の瞳を見つめる。



「――ここにいれば」

「え?」

「ここにいれば、お前の望むモノすべて手に入れられる」



 ジェニは言う。



「金も時間も腐るほどある。皆がお前を慕い、敬う。お前が外に出て、汗水を流して働かずとも、お前がこの世界に存在するというだけで国民に安心感を与えることができる―――楽して、余生を過ごすことができるんだぞ」


 静かな口調だった。
 今までの彼らしくない、というと少し失礼だろうか。

 盲目的な感情論ではなく、国や、伊久磨の今後のことも踏まえた上でのメリットだろう。
 それは、納得のできるものだったし、自分がもう少し若くて、日本という国に愛着も何も持っていなければ、喜んでこの国に永住していただろうと思う。



「大体、貴様が心から《結婚》を望んだから――あの神が動いたんじゃないのか」



 神、とは創造神アイAIのことだろう。
 
 心から望んだ結婚。
 そうだ。だからこそ自分はマッチングアプリに登録し、そして選ばれてここに来た。



「――確かにそうだよ。僕自身が、結婚したいと望んだ」

「なら」

「でも、違うんだ」


 即座に否定する。
 


「何がだ」


 何が《違う》んだ。ジェニの瞳に、怒りのような黒い何かが宿る。
 それは、とても恐ろしい光景なのだろうが、伊久磨はもう物怖じしなかった。

 正しく、今の気持ちを彼に伝えなければ。


 確かに、結婚は望んでいた。
 心からしたいと思っていた――先が長くない、祖父母のために。



「僕自身が望んだことなんだけど、僕が本当にしたくてのぞんだわけじゃ、ないんだ」

「…………どういう」

「結婚は……、じいちゃん達の、家族のためでもあったんだ」



 育ての親である二人の笑顔がみたかったから。二人が望んだから。
 この物語は、そんな他人本位なきっかけから始まったのだ。




「だから、僕は――君や、この国には釣り合ってないんだ」




 もう一度、まっすぐジェニをみて、「ジェニ」とはっきり彼の名を呼んだ。
 ジェニの指先がピクリと反応する。




「僕は国に残した家族を置いて、こちらの世界で結婚することはできない」




 きっと、今頃心配していると思うんだ。
 そう付け加える。


 銀の散歩だって途中だった。
 来週の検査だって付き添うことを祖父に伝えないといけない。
 祖母はもう、夕飯の支度は終わっただろうか。
 いつまでも帰ってこない孫のご飯を、すぐ温めて食べられるように待っているかもしれない。





「僕はすごく身勝手で、君のように………君と一緒に、この国を第一に考えてあげることが、きっとできないんだ」


「……」




 ここまで言えば、ジェニの方から突き放してくれるだろうと思っていた。

 なのに、ジェニは一向に動かない。
 まるで、全ての思考が停止してしまっているかのように。しかし、自分いくまを見定めているかのように見つめている。



 その姿に、とてつもない罪悪感と申し訳なさを感じた。
 王子の伴侶として召喚されたのが、こんな冗談みたいな自分で。
 それでもきっと、彼はちゃんと自分を娶ろうとしていたのかもしれないと、肌で感じるから。


 だからこそ、と伊久磨は意を決した。





「――君は、君とともに国を守れる人と一緒になるんだ。それは、僕じゃない」


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