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【第一章】ハートの女王は靡かない
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***
結局、エガリテに押し切られるような形で、トランプ王国王と王妃との食事会に参加した。
シャツとズボンだけで。
否、本当ならば「正装を」「採寸を」「いますぐ仕立て屋を」とエガリテに懇願されたのだが、すぐにでも日本に帰るつもりの自分に服を仕立てさせるなんて、もったいないことはできないし――あと、単純に風呂で疲れすぎて面倒だったのだ。
結果、自分は国王との食事会にシャツとズボンだけの軽装備でのぞむという不敬の極みを披露してしまったわけなのだが。
豪華な食事の席につくと、国王は両腕を広げて立ち上がり、泣きながら伊久磨の登場を喜び、王妃は何度も「どうぞあの子をよろしくお願いいたしますわ」と涙ながらに伊久磨を拝みだすわで、誰も伊久磨の軽装に言及する者はいなかった。
そして、一番気になっていた第一王子のジェニだが――彼は執務多忙のため、個別に食事をとるとのことだった。
聞くと、ジェニはほぼ毎日そのような状態で、執務室にこもり、空白期間を埋めるかのように昼夜問わず執務に没頭しているという。
目覚めてから、年頃であるのも関わらず仕事に没頭する――そんな息子を不憫に思ったのか、トランプ国王と王妃は、伊久磨を心から歓迎し、「クイーン様、結婚式はいつにしますか? 最短で十日後はどうです?」「国全体でお祝いしましょう!」「歴史に残る祝日にしましょう!!」と、伊久磨の返答を聞かずにどんどん話を進めていくし、頼りのエガリテは「こんな楽しい食事会は生まれて初めてですわ~!!」と、料理に何か入っていたのではと疑うくらいのぶっちぎりハイテンションで、何の助け舟もだしてくれなかった。
そんな、お祭り状態の食事会の最中、執事の一人がエガリテに近づき、何かを耳打ちする。
「――伊久磨様。お兄様は夜なら時間がとれるようですが、今夜でよろしいですか?」
「え?」
どうやら、エガリテは事前に使いを送り、多忙なジェニにアポイントをとっておいてくれたようだ。
「お疲れでしたら、また時間の調整をしますが……」
「いえ! 今夜でよろしくお願いします」
相談するならば、早いに越したことはない。
一刻も早く家に帰りたいし、こんなに歓迎してくれている彼らの手前、あまり長引かせるのはよくないと判断したからだ。
そう、伊久磨がエガリテにお願いすると、エガリテは「承知いたしましたわ」とにっこり微笑んだ。
***
食事会は思ったよりも長引いた。
というのも、主役である伊久磨を歓迎する食事会。そこに王子ジェニが参加しないとはどういうことか、と論点がどんどんずれていき――最終的には、彼が今、どんな仕事をしているのかという話まで根掘り葉掘り聞かされてしまった。
個人情報どころか、ほぼ国家機密レベルだろうに。とは思うが、もはや家族と思い込まれてしまっているのか、何の躊躇もなく王も王妃も話してくれた。
どうやら、この世界には魔獣――ではなく。
愚者〈ジョーカー〉と呼ばれる≪悪魔に心を奪われし者たち≫と呼ばれる魔物が存在しているらしい。
しかもその愚者は、まるではやり病のように、触れるだけで人から人へと感染し、愚者の勢を増やしていくそうだ。
愚者と化した者たちは、見た目は不死者のように肌が変色し、衣服にこだわりがなくなり、痛みを感じない。
彼らに倫理感はなく、本能のままに人を襲い、悪魔に魅入られたように何でも食す。
愚者ももとは人間。
同族であった者たちだけに、獣のように「討伐して終了!」とはいかない上、防衛策を誤ると、大事な国民が愚者の勢に飲み込まれてしまうという、非常に繊細な問題らしい。
そんな愚者の勢を抑え込める≪能力≫を持っているのが、まさに第一王子であるジェニただ一人らしいのだ。
彼は弱冠19歳でありながら、国の防衛大臣も兼任しており、騎士団の指導だけでなく戦場にも積極的に出陣し、愚者らを制圧しているらしい――あの若さで、なんて凄い子なんだ。
そんなこんなで、ジェニのもとへと案内される頃には、月は高い位置へと昇っていた。
巨大な扉の前。
執事が4回ノックし、声をかける。
「ジェニ様、愛宕伊久磨様をお連れしました」
「入れ」
すぐに中から返答があったものの、どうしてよいかわからずに立ち止まっていると執事が代わりに扉を開けてくれた。
目線だけで「どうぞ、中へお入りください」と促される――どうやら、ここから先は一人らしい。
中に入ると窓から見える月明かりのみで、あたりは薄暗いベールに包まれていた――ここは、王子の寝室だったらしい。
「……失礼します」
一歩、二歩踏み入れると、そっと背後の扉がしまった。執事の足が遠のいていく音に、心細さを感じていると。
「遅かったな」
ハッと、声が聞こえた方向に目線を向けると、風呂上がりなのか、バスローブ姿のジェニがこちらをじっと見つめていた。
180㎝以上はある、立派な体躯だ。
一年前まで昏睡状態だったとは思えないほど、筋肉がしっかりついており、腕を組んだ二の腕も男らしい太い血管が浮き上がっている。
黄金色の髪はしっとりと濡れ、毛先から落ちる水滴ですら神秘的。アイスグレーの瞳は、月明かりを反射して、月夜のオオカミの瞳のように神々しい。
美の彫刻家が、生涯かけて創った神の像が動き出しました、と言われても信じてしまうくらい、彼は見惚れてしまうほど、野性的で、暴力的な美しさだ。
バスローブ姿なのに、昼にもつけていた黒革の手袋をまだつけたままにしているのが気になったが、それ以上に。
……ちょ――っと、待とうか。
想定以上に、刺激が強いな?
よく考えたら、彼はマッチングアプリで≪マッチングした相手≫であり。
≪実際に会って≫≪親との挨拶≫も済まし、≪結婚の話≫まで出ている相手だった。
全部不可抗力的な出来事だったとはいえ、そんな相手の寝室に、しかも深夜にのこのこ来てしまったのか、自分は~!!
今更ながらに、今自分の置かれている状況の危うさに心が怖気づいてきた。
落ち着け。相手は19歳で、未成年。
今時、成人は18歳からだといわれようが関係ない。酒もたばこも20歳からなら、自分の中では20歳からが成人なのだ。
自分は27歳、成人したいい大人で男。
相手も男。
大丈夫。シチュエーションはマズくても、何も起こらない。
強制的に≪そういうことをする部屋≫に閉じ込められたわけでもない。いざとなれば裸足で逃げ出せるし、壁を突き破るくらいの腕力も胆力もある。大丈夫だ。何も起こらない!
起こるはずがない。
起こしてはいけない。起こしたらそれは犯罪だ!!
胸の上に両手を置き、自戒を込めてそうぶつぶつ念じる。心なしか、聖痕が痛んできた気する。
「――あの女と一緒にいたのか」
「へ?」
無の境地に至ろうと精神統一している最中、声をかけられてジェニを見る。彼は、男らしい眉をこれでもかと顰め、睨むようにこちらを見ては唸る。
「あの、女とは……?」
「あの女はあの女だ」
まさか――エガリテ王女のことか!?
嘘だろう。自分の妹だぞ。しかも、彼女はあんなに兄を慕っているというのに。
「……お前にはまだハートの女王としての自覚が足らんようだな」
なんか怒ってる~!!
地を這うような声が聞こえたかと思ったら、男がずんずん近づいてきて、なぜかイラついたように黒革の手袋を脱ぎ捨てて床にたたきつけた。
無意識に、両手の甲を見る。
そこには何も浮かび上がっていない――と気を取られている内に、バッと手首を掴みあげられた。
「俺がいながら孕ませられでもしたらどうするつもりだ!!」
……これは。
どこから。
つっこめばいいんだろう。
まず、実の妹に対して≪あの女≫と呼び捨てる事を、王子としてあるまじき言動だと窘めるべきだろうか。いや、不敬罪で罰せられるのがオチなので、そこは飲み込もう。
次に。
「は、はらませ……?」
「そうだ」
何をいってるんだ、こいつは。
信じられないものを見るような目で見上げると、男の不機嫌パラメーターがどんどん上がり。
「まさか、お前……知らずにあの女といたのか?!」
「あの……一体なにが」
「あの女は俺と同じ ≪キング≫ だぞ?!」
キング?
「き……キング?」
思ったことをそのまま声に出してしまったら、「なんだ、聞いてないのか?」と更に顔をしかめられた。こんなに凶悪な顔をしているのに、映画の中の俳優を見ているようだ。美形っていうのは恐ろしいな。
「この世界にはキング、クイーン、従者、が存在する。お前がクイーンであるように、俺とあいつは≪キング≫だ」
「でも、エガリテさんは女性ですよね?」
「関係ない」
「へ?」
「キングは王族だけに伝わる特殊な≪第二の性≫だ。しかも、あの女の能力は――」
そこでジェニが一旦、言葉を止める。
どうしたのかと思って見つめていると、この上なく嫌そうな顔して目をそらし。
「――とにかく、あの女がやろうと思えばお前を妊娠させることも可能だということだ」
「???」
わからない。しっかり聞いていても脳が理解できない。
そういう世界なのか。
「……ただ」
ジェニが掴んだままの伊久磨の手首をじっと見つめている。
女性のように細くも、美しくもない手をなぜ見つめているのだろう。黒革の手袋を脱いだ彼の手は、近くで見ても大きく、節張っていて男っぽい手だった。
「キングは《脳》に、クイーンは《心臓》に。聖痕が近い位置にあればあるほど《上位性》を示す」
手首をつかんでいた手が、するりと手の甲に移動する。少しだけかさついた男らしい手に握られて、不快感を抱くどころか、知らずに呼吸が早くなる。
どうしてだ?
心臓が、痛い。
「俺のは、どこにあると思う?」
※すみません。次回がR15シーンでした。(文字数が長くなり分割しました)本当にごめんなさい。
10/18の夜22時に更新します。
結局、エガリテに押し切られるような形で、トランプ王国王と王妃との食事会に参加した。
シャツとズボンだけで。
否、本当ならば「正装を」「採寸を」「いますぐ仕立て屋を」とエガリテに懇願されたのだが、すぐにでも日本に帰るつもりの自分に服を仕立てさせるなんて、もったいないことはできないし――あと、単純に風呂で疲れすぎて面倒だったのだ。
結果、自分は国王との食事会にシャツとズボンだけの軽装備でのぞむという不敬の極みを披露してしまったわけなのだが。
豪華な食事の席につくと、国王は両腕を広げて立ち上がり、泣きながら伊久磨の登場を喜び、王妃は何度も「どうぞあの子をよろしくお願いいたしますわ」と涙ながらに伊久磨を拝みだすわで、誰も伊久磨の軽装に言及する者はいなかった。
そして、一番気になっていた第一王子のジェニだが――彼は執務多忙のため、個別に食事をとるとのことだった。
聞くと、ジェニはほぼ毎日そのような状態で、執務室にこもり、空白期間を埋めるかのように昼夜問わず執務に没頭しているという。
目覚めてから、年頃であるのも関わらず仕事に没頭する――そんな息子を不憫に思ったのか、トランプ国王と王妃は、伊久磨を心から歓迎し、「クイーン様、結婚式はいつにしますか? 最短で十日後はどうです?」「国全体でお祝いしましょう!」「歴史に残る祝日にしましょう!!」と、伊久磨の返答を聞かずにどんどん話を進めていくし、頼りのエガリテは「こんな楽しい食事会は生まれて初めてですわ~!!」と、料理に何か入っていたのではと疑うくらいのぶっちぎりハイテンションで、何の助け舟もだしてくれなかった。
そんな、お祭り状態の食事会の最中、執事の一人がエガリテに近づき、何かを耳打ちする。
「――伊久磨様。お兄様は夜なら時間がとれるようですが、今夜でよろしいですか?」
「え?」
どうやら、エガリテは事前に使いを送り、多忙なジェニにアポイントをとっておいてくれたようだ。
「お疲れでしたら、また時間の調整をしますが……」
「いえ! 今夜でよろしくお願いします」
相談するならば、早いに越したことはない。
一刻も早く家に帰りたいし、こんなに歓迎してくれている彼らの手前、あまり長引かせるのはよくないと判断したからだ。
そう、伊久磨がエガリテにお願いすると、エガリテは「承知いたしましたわ」とにっこり微笑んだ。
***
食事会は思ったよりも長引いた。
というのも、主役である伊久磨を歓迎する食事会。そこに王子ジェニが参加しないとはどういうことか、と論点がどんどんずれていき――最終的には、彼が今、どんな仕事をしているのかという話まで根掘り葉掘り聞かされてしまった。
個人情報どころか、ほぼ国家機密レベルだろうに。とは思うが、もはや家族と思い込まれてしまっているのか、何の躊躇もなく王も王妃も話してくれた。
どうやら、この世界には魔獣――ではなく。
愚者〈ジョーカー〉と呼ばれる≪悪魔に心を奪われし者たち≫と呼ばれる魔物が存在しているらしい。
しかもその愚者は、まるではやり病のように、触れるだけで人から人へと感染し、愚者の勢を増やしていくそうだ。
愚者と化した者たちは、見た目は不死者のように肌が変色し、衣服にこだわりがなくなり、痛みを感じない。
彼らに倫理感はなく、本能のままに人を襲い、悪魔に魅入られたように何でも食す。
愚者ももとは人間。
同族であった者たちだけに、獣のように「討伐して終了!」とはいかない上、防衛策を誤ると、大事な国民が愚者の勢に飲み込まれてしまうという、非常に繊細な問題らしい。
そんな愚者の勢を抑え込める≪能力≫を持っているのが、まさに第一王子であるジェニただ一人らしいのだ。
彼は弱冠19歳でありながら、国の防衛大臣も兼任しており、騎士団の指導だけでなく戦場にも積極的に出陣し、愚者らを制圧しているらしい――あの若さで、なんて凄い子なんだ。
そんなこんなで、ジェニのもとへと案内される頃には、月は高い位置へと昇っていた。
巨大な扉の前。
執事が4回ノックし、声をかける。
「ジェニ様、愛宕伊久磨様をお連れしました」
「入れ」
すぐに中から返答があったものの、どうしてよいかわからずに立ち止まっていると執事が代わりに扉を開けてくれた。
目線だけで「どうぞ、中へお入りください」と促される――どうやら、ここから先は一人らしい。
中に入ると窓から見える月明かりのみで、あたりは薄暗いベールに包まれていた――ここは、王子の寝室だったらしい。
「……失礼します」
一歩、二歩踏み入れると、そっと背後の扉がしまった。執事の足が遠のいていく音に、心細さを感じていると。
「遅かったな」
ハッと、声が聞こえた方向に目線を向けると、風呂上がりなのか、バスローブ姿のジェニがこちらをじっと見つめていた。
180㎝以上はある、立派な体躯だ。
一年前まで昏睡状態だったとは思えないほど、筋肉がしっかりついており、腕を組んだ二の腕も男らしい太い血管が浮き上がっている。
黄金色の髪はしっとりと濡れ、毛先から落ちる水滴ですら神秘的。アイスグレーの瞳は、月明かりを反射して、月夜のオオカミの瞳のように神々しい。
美の彫刻家が、生涯かけて創った神の像が動き出しました、と言われても信じてしまうくらい、彼は見惚れてしまうほど、野性的で、暴力的な美しさだ。
バスローブ姿なのに、昼にもつけていた黒革の手袋をまだつけたままにしているのが気になったが、それ以上に。
……ちょ――っと、待とうか。
想定以上に、刺激が強いな?
よく考えたら、彼はマッチングアプリで≪マッチングした相手≫であり。
≪実際に会って≫≪親との挨拶≫も済まし、≪結婚の話≫まで出ている相手だった。
全部不可抗力的な出来事だったとはいえ、そんな相手の寝室に、しかも深夜にのこのこ来てしまったのか、自分は~!!
今更ながらに、今自分の置かれている状況の危うさに心が怖気づいてきた。
落ち着け。相手は19歳で、未成年。
今時、成人は18歳からだといわれようが関係ない。酒もたばこも20歳からなら、自分の中では20歳からが成人なのだ。
自分は27歳、成人したいい大人で男。
相手も男。
大丈夫。シチュエーションはマズくても、何も起こらない。
強制的に≪そういうことをする部屋≫に閉じ込められたわけでもない。いざとなれば裸足で逃げ出せるし、壁を突き破るくらいの腕力も胆力もある。大丈夫だ。何も起こらない!
起こるはずがない。
起こしてはいけない。起こしたらそれは犯罪だ!!
胸の上に両手を置き、自戒を込めてそうぶつぶつ念じる。心なしか、聖痕が痛んできた気する。
「――あの女と一緒にいたのか」
「へ?」
無の境地に至ろうと精神統一している最中、声をかけられてジェニを見る。彼は、男らしい眉をこれでもかと顰め、睨むようにこちらを見ては唸る。
「あの、女とは……?」
「あの女はあの女だ」
まさか――エガリテ王女のことか!?
嘘だろう。自分の妹だぞ。しかも、彼女はあんなに兄を慕っているというのに。
「……お前にはまだハートの女王としての自覚が足らんようだな」
なんか怒ってる~!!
地を這うような声が聞こえたかと思ったら、男がずんずん近づいてきて、なぜかイラついたように黒革の手袋を脱ぎ捨てて床にたたきつけた。
無意識に、両手の甲を見る。
そこには何も浮かび上がっていない――と気を取られている内に、バッと手首を掴みあげられた。
「俺がいながら孕ませられでもしたらどうするつもりだ!!」
……これは。
どこから。
つっこめばいいんだろう。
まず、実の妹に対して≪あの女≫と呼び捨てる事を、王子としてあるまじき言動だと窘めるべきだろうか。いや、不敬罪で罰せられるのがオチなので、そこは飲み込もう。
次に。
「は、はらませ……?」
「そうだ」
何をいってるんだ、こいつは。
信じられないものを見るような目で見上げると、男の不機嫌パラメーターがどんどん上がり。
「まさか、お前……知らずにあの女といたのか?!」
「あの……一体なにが」
「あの女は俺と同じ ≪キング≫ だぞ?!」
キング?
「き……キング?」
思ったことをそのまま声に出してしまったら、「なんだ、聞いてないのか?」と更に顔をしかめられた。こんなに凶悪な顔をしているのに、映画の中の俳優を見ているようだ。美形っていうのは恐ろしいな。
「この世界にはキング、クイーン、従者、が存在する。お前がクイーンであるように、俺とあいつは≪キング≫だ」
「でも、エガリテさんは女性ですよね?」
「関係ない」
「へ?」
「キングは王族だけに伝わる特殊な≪第二の性≫だ。しかも、あの女の能力は――」
そこでジェニが一旦、言葉を止める。
どうしたのかと思って見つめていると、この上なく嫌そうな顔して目をそらし。
「――とにかく、あの女がやろうと思えばお前を妊娠させることも可能だということだ」
「???」
わからない。しっかり聞いていても脳が理解できない。
そういう世界なのか。
「……ただ」
ジェニが掴んだままの伊久磨の手首をじっと見つめている。
女性のように細くも、美しくもない手をなぜ見つめているのだろう。黒革の手袋を脱いだ彼の手は、近くで見ても大きく、節張っていて男っぽい手だった。
「キングは《脳》に、クイーンは《心臓》に。聖痕が近い位置にあればあるほど《上位性》を示す」
手首をつかんでいた手が、するりと手の甲に移動する。少しだけかさついた男らしい手に握られて、不快感を抱くどころか、知らずに呼吸が早くなる。
どうしてだ?
心臓が、痛い。
「俺のは、どこにあると思う?」
※すみません。次回がR15シーンでした。(文字数が長くなり分割しました)本当にごめんなさい。
10/18の夜22時に更新します。
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