66 / 66
66☆エミリー・ウォルナットと医師ルカ・ハーレクイン②
しおりを挟む
.
「お前、ベアトリーチェ嬢とどういう関係だ?」
エミリーの前にいたのは、高名な医師などではなく。醜悪な欲をにじませた男の姿だった。その姿を認めた途端、エミリーは恐怖よりも《怒り》が勝った。
なに。
なんなのこの人。
初対面なのに、まるで自分こそがベアトリーチェ様の《特別》みたいな言い方して!!
間を置けば、置くほどイライラしてきたエミリーは、自分の顔を覆っていた男の手をバリっと剥ぐと、ルカに負けず劣らずの血走った瞳でギリッと睨んだ。
「――な、なんなんですかあなた!! いきなり!!」
「……しゃべるなと言ったはずです」
「言ってません!! なんなんです!? だれなんですあなた!!」
「だから私はルカ・ハーレクインと……」
「違います!! 名前じゃありません!! 人に尋ねる前に、あなたこそベアトリーチェ様にとっての《誰》なんですかと聞いています!!!」
フーフーッ!! と 手負いの獣のように威嚇するエミリー。
大人しそうな彼女からはまず考えられない興奮と暴走ぶりに、ルカはそれまでの気迫を引っ込め「はぁ」と長いため息をついた。
「……落ち着きなさい、僕は君の敵ではない。少々言葉遣いが乱暴になってしまったことには謝罪しますが」
「あなたみたいな男性はベアトリーチェ様にはふさわしくないと思います!!」
「人が下手に出ていれば……今のは訂正しろ。誰にものをきいているんだ。僕がベアトリーチェ嬢にふさわしくないだと?! 君に判断されるいわれはない!!」
「こ、ここここんな二面性のある男性信じられるわけないです!! お美しいベアトリーチェ様に対して下心が隠しきれていません!!」
「君に言われたくないな!! 女で少し薬草を扱えるからと言って彼女に取り入っていい理由にはならないだろう!!」
この人。知っている。
私が薬師であることを知っているのだ。
グイード様から聞いたかもしれないし、本当にベアトリーチェ様と仲が良くてベアトリーチェ様から聞いていたのかもしれないけれど、それにしたって《取り入っている》なんて表現が出る時点で様子がおかしい。やっぱり信じられない!!
というか絶対ヤバい人だわ!!
こんな人、絶対ベアトリーチェ様に近づけちゃダメだわ!!!!
「じょ、女性差別です!! 抗議します!!」
「お前に言われたくない!! 言っておくがお前の傷を手当てしたのは僕だし、お前に傷がないことがバレたら不利になるのはお前とベアトリーチェ嬢の方だぞ!? わかって僕を非難してるのか!?」
「おま、お前って言いました!! 初対面なのに!! 信じられませ……え?」
「エミリー!!!!! エミリーの声が聞こえたが?!!?!?」
ルカがとんでもなく重要な事を言ったような気がして、エミリーが急速に温度を下げたと同時に、またしても何も知らないグイード卿が乗り込んできた。
その気配を感じ取ったエミリーは、ぼふんと勢いよくベッドに後ろ向きに倒れ込み、ルカは音もなく現在地から更に5歩後退した。
「……幻聴です、グイード卿。眠れるお薬を出しましょうか?」
「いやいらん。……エミリー、顔が赤いぞ! 呼吸も荒い、大丈夫か?! 熱があるんじゃないか!?」
グイードがエミリーの傍に駆け寄り、その額に手を置く。
心配そうなグイードの背後では、再びルカが殺人的な顔をしてこちらを睨んでる。あんなに睨まなくてもしゃべらないのに。やっぱりどこまでも信用できない男だ。
エミリーはせき込むような仕草をし、グイードを見て弱弱しくうなずくと、心配しながらも反応があることに安堵したようにグイードが「よかった」という。
優しいグイードとは裏腹に、その背後ではルカが瞳だけで「茶番はいいからさっさとその男追い出せ、話が進まない」と言っている。ほんとなんなんだこの男。
「グイード卿。ウォルナット嬢を案ずる気持ちもわかりますが、騎士団の方は大丈夫なのですか?」
「…………」
それはエミリーも思った。
自分を気にかけてくれるのはありがたいが、今は一刻も早くベアトリーチェ様の安否を確認してほしいし、ベアトリーチェ様の無罪を証明してほしい気持ちでいっぱいだ。
それに、あの聖女。
リリィ・ハルモニアはどうなったのか。
もし自分が生きていることが彼女に知られたら―――ぞっとしたエミリーは救いを求めるようにルカを見た。今は誰がふさわしいとかふさわしくないとか喧嘩している場合ではない。
ベアトリーチェ様のためにも、聖女が《危険な存在》だと早急に知らせなければと思った時だ。
「捜査の方は進んでいる。聖女、リリィ・ハルモニアを拘束した」
グイードの言葉に、目を見開いた。
「お前、ベアトリーチェ嬢とどういう関係だ?」
エミリーの前にいたのは、高名な医師などではなく。醜悪な欲をにじませた男の姿だった。その姿を認めた途端、エミリーは恐怖よりも《怒り》が勝った。
なに。
なんなのこの人。
初対面なのに、まるで自分こそがベアトリーチェ様の《特別》みたいな言い方して!!
間を置けば、置くほどイライラしてきたエミリーは、自分の顔を覆っていた男の手をバリっと剥ぐと、ルカに負けず劣らずの血走った瞳でギリッと睨んだ。
「――な、なんなんですかあなた!! いきなり!!」
「……しゃべるなと言ったはずです」
「言ってません!! なんなんです!? だれなんですあなた!!」
「だから私はルカ・ハーレクインと……」
「違います!! 名前じゃありません!! 人に尋ねる前に、あなたこそベアトリーチェ様にとっての《誰》なんですかと聞いています!!!」
フーフーッ!! と 手負いの獣のように威嚇するエミリー。
大人しそうな彼女からはまず考えられない興奮と暴走ぶりに、ルカはそれまでの気迫を引っ込め「はぁ」と長いため息をついた。
「……落ち着きなさい、僕は君の敵ではない。少々言葉遣いが乱暴になってしまったことには謝罪しますが」
「あなたみたいな男性はベアトリーチェ様にはふさわしくないと思います!!」
「人が下手に出ていれば……今のは訂正しろ。誰にものをきいているんだ。僕がベアトリーチェ嬢にふさわしくないだと?! 君に判断されるいわれはない!!」
「こ、ここここんな二面性のある男性信じられるわけないです!! お美しいベアトリーチェ様に対して下心が隠しきれていません!!」
「君に言われたくないな!! 女で少し薬草を扱えるからと言って彼女に取り入っていい理由にはならないだろう!!」
この人。知っている。
私が薬師であることを知っているのだ。
グイード様から聞いたかもしれないし、本当にベアトリーチェ様と仲が良くてベアトリーチェ様から聞いていたのかもしれないけれど、それにしたって《取り入っている》なんて表現が出る時点で様子がおかしい。やっぱり信じられない!!
というか絶対ヤバい人だわ!!
こんな人、絶対ベアトリーチェ様に近づけちゃダメだわ!!!!
「じょ、女性差別です!! 抗議します!!」
「お前に言われたくない!! 言っておくがお前の傷を手当てしたのは僕だし、お前に傷がないことがバレたら不利になるのはお前とベアトリーチェ嬢の方だぞ!? わかって僕を非難してるのか!?」
「おま、お前って言いました!! 初対面なのに!! 信じられませ……え?」
「エミリー!!!!! エミリーの声が聞こえたが?!!?!?」
ルカがとんでもなく重要な事を言ったような気がして、エミリーが急速に温度を下げたと同時に、またしても何も知らないグイード卿が乗り込んできた。
その気配を感じ取ったエミリーは、ぼふんと勢いよくベッドに後ろ向きに倒れ込み、ルカは音もなく現在地から更に5歩後退した。
「……幻聴です、グイード卿。眠れるお薬を出しましょうか?」
「いやいらん。……エミリー、顔が赤いぞ! 呼吸も荒い、大丈夫か?! 熱があるんじゃないか!?」
グイードがエミリーの傍に駆け寄り、その額に手を置く。
心配そうなグイードの背後では、再びルカが殺人的な顔をしてこちらを睨んでる。あんなに睨まなくてもしゃべらないのに。やっぱりどこまでも信用できない男だ。
エミリーはせき込むような仕草をし、グイードを見て弱弱しくうなずくと、心配しながらも反応があることに安堵したようにグイードが「よかった」という。
優しいグイードとは裏腹に、その背後ではルカが瞳だけで「茶番はいいからさっさとその男追い出せ、話が進まない」と言っている。ほんとなんなんだこの男。
「グイード卿。ウォルナット嬢を案ずる気持ちもわかりますが、騎士団の方は大丈夫なのですか?」
「…………」
それはエミリーも思った。
自分を気にかけてくれるのはありがたいが、今は一刻も早くベアトリーチェ様の安否を確認してほしいし、ベアトリーチェ様の無罪を証明してほしい気持ちでいっぱいだ。
それに、あの聖女。
リリィ・ハルモニアはどうなったのか。
もし自分が生きていることが彼女に知られたら―――ぞっとしたエミリーは救いを求めるようにルカを見た。今は誰がふさわしいとかふさわしくないとか喧嘩している場合ではない。
ベアトリーチェ様のためにも、聖女が《危険な存在》だと早急に知らせなければと思った時だ。
「捜査の方は進んでいる。聖女、リリィ・ハルモニアを拘束した」
グイードの言葉に、目を見開いた。
0
お気に入りに追加
16
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

公爵令嬢は破滅フラグをへし折り愛されルートに入ります?
うちはとはつん
恋愛
乙女ゲーム内で、極悪な令嬢として転生した霧島ゆり。
ゆりは自身の転生した、悪役令嬢ユリエラ・ソルナインの数々の悪行を知り、罪悪感に圧し潰されそうになっていた。
そんな追い詰められる霧島ゆりを助けてくれたのは、街のモブキャラたちの優しさ。
そして従者である彼の眼差しだった。
悪役令嬢ユリエラの事を知らない一般のモブキャラたちは、ゆりに普通に接してくれて、その輪の中に入れてくれた。
霧島ゆりは悪役令嬢として生きながらも、みんなの優しさに心を震わせて、凶悪な生活習慣を少しずつ改善してく。
けれど悪役の生活改善を、「ゲーム世界」は快く思わないようで~。
これは悪役キャラとしての破滅のストーリーを何とか回避して、霧島ゆりがハッピーエンドに、たどり着くまでのお話です。
悪役令嬢がガチで怖すぎる
砂原雑音
恋愛
年の離れた弟が生まれ、嫡子ではなくなってしまったベル。学院卒業後はどこかに嫁に、という両親の想いを他所に職業婦人になる将来を目指す。学院入学のため田舎の領地を出て王都へやってきたが、入学式当日に前世の記憶が蘇った。前世で日本人だったベル。そしてこの世界は、前世のベルが読んでいた恋愛小説の舞台だった。
※レーティングは保険です※表紙はchatGPTさんが描いてくれました※

【完結】公爵家の妾腹の子ですが、義母となった公爵夫人が優しすぎます!
ましゅぺちーの
恋愛
リデルはヴォルシュタイン王国の名門貴族ベルクォーツ公爵の血を引いている。
しかし彼女は正妻の子ではなく愛人の子だった。
父は自分に無関心で母は父の寵愛を失ったことで荒れていた。
そんな中、母が亡くなりリデルは父公爵に引き取られ本邸へと行くことになる
そこで出会ったのが父公爵の正妻であり、義母となった公爵夫人シルフィーラだった。
彼女は愛人の子だというのにリデルを冷遇することなく、母の愛というものを教えてくれた。
リデルは虐げられているシルフィーラを守り抜き、幸せにすることを決意する。
しかし本邸にはリデルの他にも父公爵の愛人の子がいて――?
「愛するお義母様を幸せにします!」
愛する義母を守るために奮闘するリデル。そうしているうちに腹違いの兄弟たちの、公爵の愛人だった実母の、そして父公爵の知られざる秘密が次々と明らかになって――!?
ヒロインが愛する義母のために強く逞しい女となり、結果的には皆に愛されるようになる物語です!
完結まで執筆済みです!
小説家になろう様にも投稿しています。

困りました。縦ロールにさよならしたら、逆ハーになりそうです。《改訂版》
新 星緒
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢アニエス(悪質ストーカー)に転生したと気づいたけれど、心配ないよね。だってフラグ折りまくってハピエンが定番だもの。
趣味の悪い縦ロールはやめて性格改善して、ストーカーしなければ楽勝楽勝!
……って、あれ?
楽勝ではあるけれど、なんだか思っていたのとは違うような。
想定外の逆ハーレムを解消するため、イケメンモブの大公令息リュシアンと協力関係を結んでみた。だけどリュシアンは、「惚れた」と言ったり「からかっただけ」と言ったり、意地悪ばかり。嫌なヤツ!
でも実はリュシアンは訳ありらしく……
(第18回恋愛大賞で奨励賞をいただきました。応援してくださった皆様、ありがとうございました!)
転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした
ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!?
容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。
「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」
ところが。
ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。
無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!?
でも、よく考えたら――
私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに)
お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。
これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。
じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――!
本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。
アイデア提供者:ゆう(YuFidi)
URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

転生先は推しの婚約者のご令嬢でした
真咲
恋愛
馬に蹴られた私エイミー・シュタットフェルトは前世の記憶を取り戻し、大好きな乙女ゲームの最推し第二王子のリチャード様の婚約者に転生したことに気が付いた。
ライバルキャラではあるけれど悪役令嬢ではない。
ざまぁもないし、行きつく先は円満な婚約解消。
推しが尊い。だからこそ幸せになってほしい。
ヒロインと恋をして幸せになるならその時は身を引く覚悟はできている。
けれども婚約解消のその時までは、推しの隣にいる事をどうか許してほしいのです。
※「小説家になろう」にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
この話、面白いのに、お気に入りの人数が少ないのは、残念です。
神がヤバイ奴だ。
コメントありがとうございます!!そういっていただけて嬉しいです!!人を選びまくる作品だとは自覚しているのでそのお言葉だけでもう少し狂っていられます!!よろしければ今後ともよろしくお願いいたします!