49 / 66
49★私に触れないで④
しおりを挟む
「ただし、私を欺いた時は………わかっているな?」
「もちろんでございま――」
す、と最後まで言えなかった。
目の前。テーブルの上に、音もなく神獣テオスカトリが顕現していたからだ。
無視しなければ。
それはもう、本能的な直感だった。
神殿前で出会った時と変わらない、体長3メートルはありそうな大型の獣。
ソレは皇帝とベアトリーチェの間にあるテーブルの上で静かに鎮座しており、神殿前で出会った時のような唸り声は上げていなかったものの、黄金色の瞳でこちらを伺うように見つめていた。
黒曜石のような輝きをもつ黒毛に金の斑紋をもち、山羊のような金の角が威厳を示す黒豹。
神殿前では威嚇するように広げられた太陽色の翼も、いまは大人しく閉じられている。
帝国の王たる《カドミウム家》を守護する《神獣・テオスカトリ》。
顕現する前兆がまるでなかった。
皇帝が自分を試すために出現させたのだろうか?
『………グルグルル………』
何の音だ?
神獣から聞こえる音。黄金色の瞳に敵意はないようだ。つまり、威嚇ではない―――まさか、喉を鳴らしている?
「……もちろんですわ。陛下を欺くなど、そのような命知らずではございません」
気にするな。
神獣越しに皇帝陛下へ笑みを作るも、神獣が邪魔で皇帝陛下の表情がうかがい知れない。早く消えてくれ――と、思う前に神獣がのそりと動いた。
テーブルからベアトリーチェの膝上に、大きな手をのせる。爪は立てていないようで、痛みはない。神獣だからだろうか、重さは感じない。
そのまま、テオスカトリは黒豹を思わせる大きな鼻を、クンクンと鼻を鳴らしながらベアトリーチェの首元を嗅いだ。
背筋に、つうっと冷たい汗が流れる。
噛みつかれたら、おしまいだと息を飲んだ瞬間、目の前の神獣が瞳をまん丸にさせながら大きな口を開け、口腔内に白く輝く鋭い牙が光ったかと思うと、べろんと首筋を舐められた。
「―――………!」
「おい、止めろ」
いつの間にか隣に移動していたらしい皇帝が、ベアトリーチェと神獣の間に手を差し込み、そのまま大きな手で神獣の口を覆うと、ぐぐぐぐっとベアトリーチェから引き剥がすように押しのけた。
「もちろんでございま――」
す、と最後まで言えなかった。
目の前。テーブルの上に、音もなく神獣テオスカトリが顕現していたからだ。
無視しなければ。
それはもう、本能的な直感だった。
神殿前で出会った時と変わらない、体長3メートルはありそうな大型の獣。
ソレは皇帝とベアトリーチェの間にあるテーブルの上で静かに鎮座しており、神殿前で出会った時のような唸り声は上げていなかったものの、黄金色の瞳でこちらを伺うように見つめていた。
黒曜石のような輝きをもつ黒毛に金の斑紋をもち、山羊のような金の角が威厳を示す黒豹。
神殿前では威嚇するように広げられた太陽色の翼も、いまは大人しく閉じられている。
帝国の王たる《カドミウム家》を守護する《神獣・テオスカトリ》。
顕現する前兆がまるでなかった。
皇帝が自分を試すために出現させたのだろうか?
『………グルグルル………』
何の音だ?
神獣から聞こえる音。黄金色の瞳に敵意はないようだ。つまり、威嚇ではない―――まさか、喉を鳴らしている?
「……もちろんですわ。陛下を欺くなど、そのような命知らずではございません」
気にするな。
神獣越しに皇帝陛下へ笑みを作るも、神獣が邪魔で皇帝陛下の表情がうかがい知れない。早く消えてくれ――と、思う前に神獣がのそりと動いた。
テーブルからベアトリーチェの膝上に、大きな手をのせる。爪は立てていないようで、痛みはない。神獣だからだろうか、重さは感じない。
そのまま、テオスカトリは黒豹を思わせる大きな鼻を、クンクンと鼻を鳴らしながらベアトリーチェの首元を嗅いだ。
背筋に、つうっと冷たい汗が流れる。
噛みつかれたら、おしまいだと息を飲んだ瞬間、目の前の神獣が瞳をまん丸にさせながら大きな口を開け、口腔内に白く輝く鋭い牙が光ったかと思うと、べろんと首筋を舐められた。
「―――………!」
「おい、止めろ」
いつの間にか隣に移動していたらしい皇帝が、ベアトリーチェと神獣の間に手を差し込み、そのまま大きな手で神獣の口を覆うと、ぐぐぐぐっとベアトリーチェから引き剥がすように押しのけた。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
悪役令嬢がガチで怖すぎる
砂原雑音
恋愛
年の離れた弟が生まれ、嫡子ではなくなってしまったベル。学院卒業後はどこかに嫁に、という両親の想いを他所に職業婦人になる将来を目指す。学院入学のため田舎の領地を出て王都へやってきたが、入学式当日に前世の記憶が蘇った。前世で日本人だったベル。そしてこの世界は、前世のベルが読んでいた恋愛小説の舞台だった。
※レーティングは保険です※表紙はchatGPTさんが描いてくれました※

困りました。縦ロールにさよならしたら、逆ハーになりそうです。《改訂版》
新 星緒
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢アニエス(悪質ストーカー)に転生したと気づいたけれど、心配ないよね。だってフラグ折りまくってハピエンが定番だもの。
趣味の悪い縦ロールはやめて性格改善して、ストーカーしなければ楽勝楽勝!
……って、あれ?
楽勝ではあるけれど、なんだか思っていたのとは違うような。
想定外の逆ハーレムを解消するため、イケメンモブの大公令息リュシアンと協力関係を結んでみた。だけどリュシアンは、「惚れた」と言ったり「からかっただけ」と言ったり、意地悪ばかり。嫌なヤツ!
でも実はリュシアンは訳ありらしく……
(第18回恋愛大賞で奨励賞をいただきました。応援してくださった皆様、ありがとうございました!)
転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした
ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!?
容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。
「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」
ところが。
ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。
無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!?
でも、よく考えたら――
私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに)
お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。
これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。
じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――!
本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。
アイデア提供者:ゆう(YuFidi)
URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

転生先は推しの婚約者のご令嬢でした
真咲
恋愛
馬に蹴られた私エイミー・シュタットフェルトは前世の記憶を取り戻し、大好きな乙女ゲームの最推し第二王子のリチャード様の婚約者に転生したことに気が付いた。
ライバルキャラではあるけれど悪役令嬢ではない。
ざまぁもないし、行きつく先は円満な婚約解消。
推しが尊い。だからこそ幸せになってほしい。
ヒロインと恋をして幸せになるならその時は身を引く覚悟はできている。
けれども婚約解消のその時までは、推しの隣にいる事をどうか許してほしいのです。
※「小説家になろう」にも掲載中です

家族と移住した先で隠しキャラ拾いました
狭山ひびき@バカふり200万部突破
恋愛
「はい、ちゅーもーっく! 本日わたしは、とうとう王太子殿下から婚約破棄をされました! これがその証拠です!」
ヴィルヘルミーネ・フェルゼンシュタインは、そう言って家族に王太子から届いた手紙を見せた。
「「「やっぱりかー」」」
すぐさま合いの手を入れる家族は、前世から家族である。
日本で死んで、この世界――前世でヴィルヘルミーネがはまっていた乙女ゲームの世界に転生したのだ。
しかも、ヴィルヘルミーネは悪役令嬢、そして家族は当然悪役令嬢の家族として。
ゆえに、王太子から婚約破棄を突きつけられることもわかっていた。
前世の記憶を取り戻した一年前から準備に準備を重ね、婚約破棄後の身の振り方を決めていたヴィルヘルミーネたちは慌てず、こう宣言した。
「船に乗ってシュティリエ国へ逃亡するぞー!」「「「おー!」」」
前世も今も、実に能天気な家族たちは、こうして断罪される前にそそくさと海を挟んだ隣国シュティリエ国へ逃亡したのである。
そして、シュティリエ国へ逃亡し、新しい生活をはじめた矢先、ヴィルヘルミーネは庭先で真っ黒い兎を見つけて保護をする。
まさかこの兎が、乙女ゲームのラスボスであるとは気づかづに――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる