幾千の恋が煌めくこの世界で

詩季乃よる

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裏垢の本音

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裏垢を使って好きな人のアカウントをフォローした。

やり取りの中で好きなタイプを聞いて、自分がその理想になると付き合えると思ったからだ。

だけど彼女の返答は
「同じクラスの、佐藤くんって人なんだけど」

僕の親友である佐藤を好きだと言った。

あいつは悪いやつだ。女たらしで性格も悪くて。
僕は自分の恋を優先して、つい親友の悪口を言いそうになる。

なにやってんだろう…

本当にあの子のことを思うなら、恋が成就するように手伝うべきだろ。

僕は、彼女が佐藤と付き合えるようにサポートする事に決めた。

◇◇◇

知らないアカウントから突然フォローが来た。

非公開アカウントだったけど、サムネが私の好きなアニメだったからつい返してしまった。

彼は本好きだと言って色々な話をしてくれた。

ただ、会話する中で違和感があった。

私が話していない髪型や制服、学校で読んでる小説を言い当てたからだ。

多分、ミケと名乗るアカウントの人は同じ学校の人だ。

アイコンに設定しているミケというキャラは、私が子供の時に流行ったアニメで。
同じクラスでそのアニメの缶バッジをカバンにつけてて、小説が好きなのは佐伯くんだけだった。

「佐伯くんもそのアニメ好きなんだ? 私はモカが好きなんだけど佐伯くんは?」

私は急に話しかけて、裏垢の正体を探った。

「えっと、ミケってキャラが好きだけど」

思った通り佐伯くんは、突然の質問につい本当のことを答えてしまった。

そこで私は次に、なぜ私に裏垢で接触してきたのかを探った。

「同じクラスの、佐藤くんって人なんだけど」

好きなタイプを聞かれたので、返信に佐伯くんの親友の名前を出した。
もし佐伯くんが私のことを好きで接触してきたなら
「他にいい人がいるよ」と言うだろうか。

そう思ってたら
「そっか、男目線の意見なら言えるから、君が付き合えるようにサポートするよ」
と返信が来た。

なんだ、遊び半分で連絡してきたのか。

その瞬間、私は告白してもないのに好きな人にフラれた。

佐伯くんの事が好きで、裏垢でフォローしてきたのも嬉しかったのに。

◇◇◇

次の日から僕は彼女の恋をサポートする事に決めた。

「その佐藤くんって人に仲良い友達いない? もしいれば力になってくれるかも」

そう言って、リアルの僕は立花さんと話し、佐藤と上手くいくようにアシストする事にした。

◇◇◇

佐伯くんからリアルでサポートすると提案があった。

こうなったら少しの間でも佐伯くんと仲良くして、最後に本当のことを言って当たって砕けよう。

そう思って私は、裏垢での提案通り学校で佐伯くん本人に話しかけた。

◇◇◇

サポートに徹することに決めた僕は、立花さんに佐藤の好きなタイプを話し、放課後はいつ告白するか作戦を練って、休日になれば本番の時の服を見に行ったりもした。

休憩の時に一緒にスイーツを食べたり、付き合った時のために一緒にプリクラを取ったり。

デートの練習で遊園地に行ったりもした。

その時間が何よりも幸せで、僕は家に帰ると1人になったあと、いつも悲しくて涙が溢れた。

どうして佐藤なんだ。
悔しくて、それでも彼女が好きで、どうしようもない感情で頭がいっぱいになった。

◇◇◇

佐伯くんとの毎日はとても幸せだった。

彼はとても優しくて何でも相談に乗ってくれて。

本番の練習だけど、色んな所に連れて行ってくれて。

このまま告白するのが100年後になればいいのに。

私はつかの間の幸せをめいっぱい楽しんで。でも家に帰るとそれが仮の恋人だと痛感して。ベッドで1人泣く日々が続いた。

初めから本当のことを言ってたら何か変わっていたのかな。
悔やんでも仕方ない思考が、頭をぐるぐるを巡って、いつも苦しくなって眠りについた。

「今度の日曜日、近くの公園に佐藤を呼ぶよ」

佐伯くんがそう提案したので、私はそれに従った。

これで私たちの関係も終わりか。

悲しみで景色を滲ませて下校していると、目の前に佐藤くんがいた。

◇◇◇

日曜日の午後5時。

僕は公園の外で佐藤と立花さんを待っていた。

うまくいくといいな、そう本心で思いながらも、僕は彼女との時間の終わりを痛感していた。

しばらくして公園に佐藤がやってきた
「立花さんが話したいことあるって」
そう言いかけた時、佐藤の横に立花さんの姿を発見する。

「なんで……」

「立花さんが話あるんだってよ」
佐藤はそう言って僕の肩を叩くと公園から去っていった。

「え? なんで? 告白は? なんで佐藤と一緒にいたの…?」

僕が混乱していると、立花さんが口を開く。

「佐藤くんに全部本当のこと話しちゃった」

立花さんは俯いてそう言う

「本当のことって?もう告白したってこと?」
「ううん……私が好きなのは佐伯くんだってこと。それと、あなたの本当の気持ちも…」

立花さんの口から信じられない言葉が発せられた。

「どういうこと?立花さんは佐藤が好きで…僕が立花さんを好きだって聞いたってこと?」
僕がそう言うと彼女はスマホの画面を見せてくる、そこには僕の裏垢のアイコンがあった。

「気づいてたの……?」
「うん……始めから気づいてたよ。気づいてて、あなたの気持ちを知りたくて、嘘ついちゃった……」

「嘘?」
「うん、佐藤くんが好きだって話。本当に好きなのは佐伯くんなのに」
「そんな……だって……」

頭の中で色んな思いがグルグルする。だけど、1番に口に出たのは
『ごめんなさい』という言葉だった

「ごめんなさい」
立花さんは僕と同じタイミングで謝った。

「な、なんで立花さんが謝るの? 裏垢まで使って嘘ついたのは僕なのに」
「ううん、正直に言えばいいのに、私も嘘ついちゃったから」

「でもそれは僕の気持ちが知りたくてじゃないの?」
「それは佐伯くんも一緒でしょ?」
そう言うと、僕らはお互い笑い出してしまった。

「私たち不器用な人同士だね」
「うん。初めから全部本音で言えば良かったのにね」

僕は息を吸ってしっかりと立花さんの目を見ると
「ずっと好きでした。不器用で、嘘ついちゃって、迷惑かけちゃったけど……一生大切にするんで僕と付き合ってください」
そう言うと立花さんは涙を流す。

「私も嘘ついちゃって卑怯で、そんな私でもあなたと一緒にいてとても幸せで……こんな時間がずっとずっと続けばいいのにって。今こうしてあなたにそう言われてるのが夢みたいで……こんな私ですが、よろしくお願いします」

不器用な僕らは

ぎこちない素振りで握手をする

「君が好きだ」

隠さずにそう言える今を噛み締めながら

夕暮れの道を手を繋いで歩いた。
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