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08 フェンネル、旅をはじめる
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「何が似ているというのですか?いい加減にしてください。無駄な会話は戒律で禁じられていますからお許しください!」
「そんなつまらないことを言う口はこれですかー?」
ほっぺをぐにぐにされた。どうしよう。対処に困る。蹴りたい。同族なら襲っていたところだ。
「君は戒律とパウエルの言葉だけに従って問題の解決がしたい。そうだね?」
「その通りです」
「戒律はさておき、パウエルが星の神チェザーレの意向に背いているとしたらどうだい?」
「えっ」
そんなことを考えたことがなかった。戒律に沿い祈りを捧げることが御前に命令された全てであり、それがチェザーレ様のためになる。そういうことではないのか?
「君は500年前にパウエルの命令に従う式神となった。だからパウエルが絶対の存在だったというのはわかる。でもボクは問題の解決を君の意思で行ってほしいと考えている。何故なら星の危機を星の住人が解決するのが修めるべき道理だからだ。そこにパウエルの企みは関係しない」
「御前を蔑ろにする意味がわかりません。なぜそのようなことをおっしゃるのですか!」
「今、君が彼の式神ではないからだ。ボクと同じで神格を持つだけの自由な獣になっているよ」
「何を言っているのです?私は御前の式神として……」
私は何故、御前に従っているのだろうか。
私は何故、御前の表情を伺うことが無かったのだろうか。
私は何故、御前との絆が無くなっていることに気付かなかったのか。そして気付いてしまったのか。何時から主従関係を間違っていたのか。
「私、式神じゃなくなっている……?」
「その様だね。君からは従属や従順に揺らぎを感じ取れない。お風呂で初めて出会ったときにも揺らぎは無かったよ。狼は状態異常の塊だったけどね」
「ヴァン……様はそういうのがわかるのですね。え、式神って状態異常なんですか?」
「少し違う。死に際した生命体に対して命の補充を約束してタリスマンを媒介に使役状態にするというのがボクの知っている知識でいう式神だ。使役状態を経た後、信頼や魅了など状態変異が重なることはままあることみたい」
「私は御前に操られていたのね」
「そこが微妙な所でねー。パウエルから邪悪や嘘といった悪しき瘴気は感じないんだ。式神使いというと動物虐待者特有の雰囲気があるけれどそういうのも無かった。これは神格に影響が起きるから誤魔化すことはできない。少なくともパウエルが君に向けていた慈愛の眼差しに間違いはなかったと断言する」
絶望一歩手前だったがすんでのところで踏みとどまった。しかし動揺が収まらない。
絶望に際して心の拠り所を失う人間を何度も目の当たりにしてきた。そんなときにこそ主義や信教が人間を救うというのに、今の私といえば寄る辺ない心細さに震えるしかない。
「だからフェンネルはボクに似ている。ボクもチェザーレに従う獣だったから」
「ヴァン……様も?」
「ヴァンで良いよー。今や君はボクと同格の存在だ。丁度いいから、500年前に起きた出来事、星の障壁、チェザーレの不審、ボクの来歴、これらを一つに繋げてお話しようか。歩きながらでいいかい?」
急いで解決するという使命感はあったが今はそれどころではない。獣として、修道士として、式神としての生涯を見つめなおすときが来たのだろう。
ヴァンは軽い調子で「置いてくよー」と歩き出した。行先を知っているのだろうか?
ヴァンが私と同じようなものであるならヴァンから何か見出すことができるかもしれない。
「そんなつまらないことを言う口はこれですかー?」
ほっぺをぐにぐにされた。どうしよう。対処に困る。蹴りたい。同族なら襲っていたところだ。
「君は戒律とパウエルの言葉だけに従って問題の解決がしたい。そうだね?」
「その通りです」
「戒律はさておき、パウエルが星の神チェザーレの意向に背いているとしたらどうだい?」
「えっ」
そんなことを考えたことがなかった。戒律に沿い祈りを捧げることが御前に命令された全てであり、それがチェザーレ様のためになる。そういうことではないのか?
「君は500年前にパウエルの命令に従う式神となった。だからパウエルが絶対の存在だったというのはわかる。でもボクは問題の解決を君の意思で行ってほしいと考えている。何故なら星の危機を星の住人が解決するのが修めるべき道理だからだ。そこにパウエルの企みは関係しない」
「御前を蔑ろにする意味がわかりません。なぜそのようなことをおっしゃるのですか!」
「今、君が彼の式神ではないからだ。ボクと同じで神格を持つだけの自由な獣になっているよ」
「何を言っているのです?私は御前の式神として……」
私は何故、御前に従っているのだろうか。
私は何故、御前の表情を伺うことが無かったのだろうか。
私は何故、御前との絆が無くなっていることに気付かなかったのか。そして気付いてしまったのか。何時から主従関係を間違っていたのか。
「私、式神じゃなくなっている……?」
「その様だね。君からは従属や従順に揺らぎを感じ取れない。お風呂で初めて出会ったときにも揺らぎは無かったよ。狼は状態異常の塊だったけどね」
「ヴァン……様はそういうのがわかるのですね。え、式神って状態異常なんですか?」
「少し違う。死に際した生命体に対して命の補充を約束してタリスマンを媒介に使役状態にするというのがボクの知っている知識でいう式神だ。使役状態を経た後、信頼や魅了など状態変異が重なることはままあることみたい」
「私は御前に操られていたのね」
「そこが微妙な所でねー。パウエルから邪悪や嘘といった悪しき瘴気は感じないんだ。式神使いというと動物虐待者特有の雰囲気があるけれどそういうのも無かった。これは神格に影響が起きるから誤魔化すことはできない。少なくともパウエルが君に向けていた慈愛の眼差しに間違いはなかったと断言する」
絶望一歩手前だったがすんでのところで踏みとどまった。しかし動揺が収まらない。
絶望に際して心の拠り所を失う人間を何度も目の当たりにしてきた。そんなときにこそ主義や信教が人間を救うというのに、今の私といえば寄る辺ない心細さに震えるしかない。
「だからフェンネルはボクに似ている。ボクもチェザーレに従う獣だったから」
「ヴァン……様も?」
「ヴァンで良いよー。今や君はボクと同格の存在だ。丁度いいから、500年前に起きた出来事、星の障壁、チェザーレの不審、ボクの来歴、これらを一つに繋げてお話しようか。歩きながらでいいかい?」
急いで解決するという使命感はあったが今はそれどころではない。獣として、修道士として、式神としての生涯を見つめなおすときが来たのだろう。
ヴァンは軽い調子で「置いてくよー」と歩き出した。行先を知っているのだろうか?
ヴァンが私と同じようなものであるならヴァンから何か見出すことができるかもしれない。
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