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04 狐っ娘、神に祈る

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「”執り成し”の話だったねー。修道院の失態なのは確認済。太老猫は有象無象の大衆の祈りより修道院の祈りに期待していてね。安定供給される修道院の祈りに頼り過ぎていたと言っていた。今回、修道院の問題が発覚したのは星防衛障壁の破損によるものだ」
「しかし!修道院は貴族の作った私設修道院や他の宗教の修道院などあるではありませんか?」
「それが今回星に穴を開けられたのがシダンシ修道院の真上なんだよねー」

 それじゃ言い逃れできないわね。裏門で狼が教会の話をしていたのは言い逃れの伏線だったりしたのかな。パウエル修道会は正規12方向の修道院と多数の認可した私設修道院で成り立っている。シダンシ修道院はその中でも狼が管轄する曰くつきで重要な戒律の園だ。

「会長が言い逃れするのはいつものことだから置いておくとして、教会の資料を見ても各地での乱れも活発化している。殺人や淫欲は言うに及ばず、”征伐”や”執り成し”の悪徳代行で益を得ようとする者の多発が著しい。障壁を突破して魔的なものが紛れこんでいる可能性は高い」

 ”征伐”は理性を失った魔……とりわけ大きい問題はトロールの対処だ。これについては教会に一任している。
 ”執り成し”は貴族、都市、団体が祈る行為を修道院に代行を要請するシステムだ。神へのお執り成しを請願するということである。教会の”執り成し”は繁栄と結束と信教を強める教化に特化しているので祈りの質は大したことが無い。修道院の”執り成し”は疫病や災難の解決を懇願するものが多く、請願すると問題が解決されるので評判が良い。

 人間は教会で説教を得て、ミサを行い、敬虔な日常を過ごすものだ。そして人間の団体に必須となる信教の確立に必要となる秘蹟サクラメントやアーティファクトも修道院から提供してもらう必要がある。
 教会も自力で秘蹟の生産をしているが中立神を拝する修道会に勝る生産力はない。アーティファクトの精製は人間には不可能だ。人間は生活に欠かせない信教を成り立たせるために努力を続けている。しかし。

「シダンシ修道院へ猫を調査に向かわせたのだけど、深い眠りの森に包まれている上に苦手な香りが充満しているという報告でねー。これはもう黒確定でしょ」
「太老猫やチェザーレ様や星にとっては不幸というか災難だったけど、俺たち悲願を持つ側にとっては千載一遇のチャンス到来になった。この問題をチャンスにして地球へのアクセスができそうだ」
「星の防衛障壁や地球はわかりかねます。シダンシ修道院の執り成しに問題があり、その解決に私たちが携わるという話でよろしいでしょうか」
「そういうこと。地球には狐が山ほどいる、狼を人化できる魔術師もいる、俺もこの星へおきざりにした上司に文句が言える。良くも悪くも星を閉じさせていた防衛障壁だけど、これで事態の進展が望めるというものだ。500年難儀していた俺たちが報われる日は近い」

 御前は階下へ降り私の頭を撫でた。

「シダンシ修道院で起きている事件は不明だ。それ自体は小さなほころびのように思える。だが、問題を放置して地球へ逃げるようなことはしないよ。どのみち地球へ戻ってもこちらへ帰ってくることになるだろうからね。まずは障壁が壊れた原因を探るのが先決だ。狼たちは管轄9箇所の修道院で同様のほころびがあるか調査してもらう。教会にも同様に調査が必要だからそれも君が取り仕切ってくれ。言っておくが寝る暇はないと思いなさい」
「かしこまりました」

 狼の顔色は最終的に真っ白になった。ただの平伏したワンコである。

「俺とヴァン君と狐はシダンシ修道院に行く。俺は一足先に奥の院ごと空いた穴の応急処置へ向かうので、次に会うのは事件が解決した後だといいな」
「かしこまりました。私は構わないのですが猫も入れない場所なのに大丈夫なのでしょうか?」
「俺は神格でなんとかなる。ヴァン君は受肉して一時的に君と同じ式神のような扱いになっているから大丈夫。猫はダメだが人間は行き交いできるみたいだよ」
「そのために助修士の服を着ていたのですね。前に居た修道院はどうですか?」
「それについては説教がある」

 ニッコリ笑うと御前は私を担いで階上へ戻っていった。ああ、どうかお怒りになりませぬように。お慈悲を。

「夜明けとともに出発で良いだろう。ヴァン君はどうする?」
「朝まで猫と戯れているよー」
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