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第68話 異色の面子
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私の訓練を担当する人狼のロキは、自らのほかに「応援」としてラティスとオーキンスの二人を呼んでいた。
一応彼らも以前の「大戦期」を戦い抜いている古参の魔物ではある。
しかし、ラティスは「医師」でありオーキンスは「料理長」であった。
「気持ちはありがたいんだけど、医学のお勉強やご飯の準備をするわけじゃないわよ?」
私はニコニコとこちらを見て楽しそうにしてる二人を横目に、教官であるロキに小声で話しかける。
ロキの背中に控えている3人の部下たちも「お医者さんと料理長……?」と困惑した様子で間の抜けた顔をしていた。
そんな私達の様子を見たロキは悪い顔をしてニヤリと口角をあげる。
女の人狼に抱きかかえられたままのワタアメも「もきゅ?」と平和そうに首を傾げ、ロキの見せた表情に対し頭上に「はてなマーク」を浮かべていた。
「まあ、見ててくださいよ」
不敵に笑いながらそう告げたロキは、ラティスとオーキンスと何やら少し会話した後に部下へ命令を出していた。
彼らのやり取りから聞こえたのは「ラティス達と人狼たちの組手」といった内容であり、前にガウェインとビッケがやっていた危なっかしいやつである。
部下の人狼たちも口々に「本気ですか?」とロキの命令に困惑した様子を見せている。
私も部下の人狼たちと同じような意見なので「訓練で怪我でもしたらどうするのよ……」と不安の表情を見せるのだった。
組手の邪魔になるからと私とワタアメ、審判役のロキは少し彼らから距離をとる。
人狼たちは武器倉庫のようなところから訓練に使う武器のようなものを持ってこようとするが、ロキにそれを制止された。
それを見た私は「なぜ?」と思ったのだが、彼曰く「戦場で使う本気の武器でやれ」ということらしい。
その言葉を聞いた人狼たちはまたしても困惑するのだった。
「俺はいつでも行けるぜ?」
いまいち気が進まない様子の人狼たちとは対照的に準備万端の状態で棒状の獲物をブンブンと振っているオーキンスであった。
彼は横にいるラティスに武器を用意してもらったらしい。
ラティスの足元には忙しなく色を変えて光り輝く魔力が見える。
こちらも自分の武器を用意しているらしく、幾何学的な模様を何層にも描く「魔法陣」からニョキニョキと強そうな武器が生えてくる様子はなかなか見応えがあった。
「これを持つのも随分久しぶりだなー」
腕を軽く回しながら、腕程の長さの棒状の物体が複数絡み合っている獲物を握るラティス。
ユラユラと魔力がオーラの様に纏わりついた「ナニカ」はガチャガチャと音を立てながら一部が動き、ラティスの身長程度の大きさへと変形していく。
本体から強大な魔力を感じる「ナニカ」は「弓」であり、コンパウンドボウと呼ばれる少し機械じみた武器だった。
和弓のようなシンプルな形のものではなく、どちらかというとアーチェリーで使う洋弓のようなものである。
「俺の方もオッケーだよ」
完成した複合弓を握り、隙を見せない立ち姿はエルフである彼の容姿と相まって「御伽噺のワンシーン」のようであった。
隣に立つオーキンスもハルバードと呼ばれる斧のような槍のような武器を地面に立てて、彼の巨体による圧倒的な貫禄を見せつけている。
屋外の訓練場に吹き込んだ一陣の風がラティスの長い金髪を揺らし、オーキンスの足元の砂を巻き上げた。
私たちの目に映るシルエットよりも明らかに巨大に感じる彼らからは「歴戦の風格」のようなオーラが嫌というほど滲みでている。
先ほどまでは組手を躊躇していた人狼たちからもゴクリと息を飲む音が聞こえてくるようだった。
「ちょっと……これが大戦を生き抜いた魔物ってわけ……?」
組手のための空間から少し離れた位置に陣取る私はワタアメを抱いたまま、同じく隣に立つ人狼のロキに問いかけるように言う。
それに対してロキは「ええ、しかしお二人さん……ガチガチの本気ですねえ……」と言い額に伝う汗をぬぐっていた。
腕の中でブルブルと震えるワタアメを撫でながら、ふと横を見るとロキの脚も小刻みに震えていることに気づく。
私も少しは魔力感知ができるようになっていたので、ワタアメとロキが怯える理由もよく分かるのだった。
「シグマはあんなに強烈じゃなかったわよ……」
自分で口にした言葉にハッとし、私は遅ればせながらとんでもないことに気づくのであった。
そう、前回の山越え任務の時にシグマは「全く本気を出していなかった」のである。
とはいえ、初めての感覚というわけでもなかった。
森の中で出会った四天王の兎少女フォルトゥナから感じたものに近い。
あの時自分に向けられた「殺気」が今、あそこに立つ人狼たちに向けられているのだろう。
「あの子達には同情するわ……」
現場に立つ人狼の部下たちに合掌する私。
彼らの骨くらいは拾ってあげようと呑気に思いながらも、私は置かれている自分の現状を振り返っていた。
これほどの「暴力」が本気で凌ぎを削る時代、それが「大戦期」なのだろう。
私自身が少し訓練したくらいでは役に立たないとは思っていたが、これはもはやそういう次元ではない。
戦闘機に竹槍で挑む以上に絶望的な世界である。
「こんなの相手に自衛する必要があるって……冗談じゃないわ……」
うつむいて小さく震える幼女の横で「ご愁傷さまです……」と人狼が小さく呟くのだった。
一応彼らも以前の「大戦期」を戦い抜いている古参の魔物ではある。
しかし、ラティスは「医師」でありオーキンスは「料理長」であった。
「気持ちはありがたいんだけど、医学のお勉強やご飯の準備をするわけじゃないわよ?」
私はニコニコとこちらを見て楽しそうにしてる二人を横目に、教官であるロキに小声で話しかける。
ロキの背中に控えている3人の部下たちも「お医者さんと料理長……?」と困惑した様子で間の抜けた顔をしていた。
そんな私達の様子を見たロキは悪い顔をしてニヤリと口角をあげる。
女の人狼に抱きかかえられたままのワタアメも「もきゅ?」と平和そうに首を傾げ、ロキの見せた表情に対し頭上に「はてなマーク」を浮かべていた。
「まあ、見ててくださいよ」
不敵に笑いながらそう告げたロキは、ラティスとオーキンスと何やら少し会話した後に部下へ命令を出していた。
彼らのやり取りから聞こえたのは「ラティス達と人狼たちの組手」といった内容であり、前にガウェインとビッケがやっていた危なっかしいやつである。
部下の人狼たちも口々に「本気ですか?」とロキの命令に困惑した様子を見せている。
私も部下の人狼たちと同じような意見なので「訓練で怪我でもしたらどうするのよ……」と不安の表情を見せるのだった。
組手の邪魔になるからと私とワタアメ、審判役のロキは少し彼らから距離をとる。
人狼たちは武器倉庫のようなところから訓練に使う武器のようなものを持ってこようとするが、ロキにそれを制止された。
それを見た私は「なぜ?」と思ったのだが、彼曰く「戦場で使う本気の武器でやれ」ということらしい。
その言葉を聞いた人狼たちはまたしても困惑するのだった。
「俺はいつでも行けるぜ?」
いまいち気が進まない様子の人狼たちとは対照的に準備万端の状態で棒状の獲物をブンブンと振っているオーキンスであった。
彼は横にいるラティスに武器を用意してもらったらしい。
ラティスの足元には忙しなく色を変えて光り輝く魔力が見える。
こちらも自分の武器を用意しているらしく、幾何学的な模様を何層にも描く「魔法陣」からニョキニョキと強そうな武器が生えてくる様子はなかなか見応えがあった。
「これを持つのも随分久しぶりだなー」
腕を軽く回しながら、腕程の長さの棒状の物体が複数絡み合っている獲物を握るラティス。
ユラユラと魔力がオーラの様に纏わりついた「ナニカ」はガチャガチャと音を立てながら一部が動き、ラティスの身長程度の大きさへと変形していく。
本体から強大な魔力を感じる「ナニカ」は「弓」であり、コンパウンドボウと呼ばれる少し機械じみた武器だった。
和弓のようなシンプルな形のものではなく、どちらかというとアーチェリーで使う洋弓のようなものである。
「俺の方もオッケーだよ」
完成した複合弓を握り、隙を見せない立ち姿はエルフである彼の容姿と相まって「御伽噺のワンシーン」のようであった。
隣に立つオーキンスもハルバードと呼ばれる斧のような槍のような武器を地面に立てて、彼の巨体による圧倒的な貫禄を見せつけている。
屋外の訓練場に吹き込んだ一陣の風がラティスの長い金髪を揺らし、オーキンスの足元の砂を巻き上げた。
私たちの目に映るシルエットよりも明らかに巨大に感じる彼らからは「歴戦の風格」のようなオーラが嫌というほど滲みでている。
先ほどまでは組手を躊躇していた人狼たちからもゴクリと息を飲む音が聞こえてくるようだった。
「ちょっと……これが大戦を生き抜いた魔物ってわけ……?」
組手のための空間から少し離れた位置に陣取る私はワタアメを抱いたまま、同じく隣に立つ人狼のロキに問いかけるように言う。
それに対してロキは「ええ、しかしお二人さん……ガチガチの本気ですねえ……」と言い額に伝う汗をぬぐっていた。
腕の中でブルブルと震えるワタアメを撫でながら、ふと横を見るとロキの脚も小刻みに震えていることに気づく。
私も少しは魔力感知ができるようになっていたので、ワタアメとロキが怯える理由もよく分かるのだった。
「シグマはあんなに強烈じゃなかったわよ……」
自分で口にした言葉にハッとし、私は遅ればせながらとんでもないことに気づくのであった。
そう、前回の山越え任務の時にシグマは「全く本気を出していなかった」のである。
とはいえ、初めての感覚というわけでもなかった。
森の中で出会った四天王の兎少女フォルトゥナから感じたものに近い。
あの時自分に向けられた「殺気」が今、あそこに立つ人狼たちに向けられているのだろう。
「あの子達には同情するわ……」
現場に立つ人狼の部下たちに合掌する私。
彼らの骨くらいは拾ってあげようと呑気に思いながらも、私は置かれている自分の現状を振り返っていた。
これほどの「暴力」が本気で凌ぎを削る時代、それが「大戦期」なのだろう。
私自身が少し訓練したくらいでは役に立たないとは思っていたが、これはもはやそういう次元ではない。
戦闘機に竹槍で挑む以上に絶望的な世界である。
「こんなの相手に自衛する必要があるって……冗談じゃないわ……」
うつむいて小さく震える幼女の横で「ご愁傷さまです……」と人狼が小さく呟くのだった。
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