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第62話 病室に集まる一同
しおりを挟むなにやらがやがやと騒がしい医務室の中へと私とニャルラは入っていった。
入ってすぐに私の目についたのは、医務室の待合所のような空間である。
そこには先ほど走って駆けつけたアリシアや医師のラティス、そしてシグマやアドルの姿があった。
シグマの影に隠れてよく見えなかったが、話声から察するにスターチアも同席しているらしい。
「お、魔王妃殿。ガウェインが目覚めたらしいぞ!」
私とニャルラが医務室に入ってきたことに気づいたシグマが声をあげた。
シグマの声掛けに続いて、他の面々も私とニャルラの方に意識を向ける。
彼らの中心に立っていたアリシアも「お嬢様!ガウェインが起きたようです!!」と嬉しそうに声をあげていた。
あらかじめラビアンローズに知らされていたことではあったが、実際に医師であるラティスから宣告されて実感が沸いたようである。
「魔王妃様、騎士君ならもうすぐそっちから出てくると思うから安心してね」
ただならぬ様子でガウェインを目で探す私を見たラティスが笑いながら言う。
ガウェインの様子が気になって仕方なかった私は、ラティスが「そっち」と指をさした方にある病室のもとへと走る。
走ると言ってもそんなに距離があるわけではないのだが、焦る幼女にとっては長距離なのであった。
いきなり走り出した私を見て驚いたニャルラも「魔王妃様!待つニャ!」と私を追いかける。
「ガウェイン!無事なのね!?」
恐らくガウェインがいるであろう部屋につながる扉を遠慮なしに開ける私。
一緒についてきたニャルラは「ガウェインはたぶんまだ本調子じゃないニャ!」と至極真っ当な意見を言って私を止めようとする。
しかし、そんなニャルラの思いも届かずにドアは開くのだった。
後ろからは「お嬢様ー!」と声をあげるアリシアや「魔王妃様は本当に勢いのある御方だ」と苦笑いのラティス達がついてきている。
そして、私達は意外と大きい病室の中へと入っていくのだった。
病室に入るとエルフの看護師さんに介助されているガウェインが目に映った。
上半身裸の状態でお腹に包帯を巻いている状態のガウェインは、今から看護師のエルフに包帯を取られるところだったらしい。
「あ、お嬢様!ご無事でしたか!!」
ベッドの上から小さな私を見つけたらしいガウェインは「ご無事で本当に良かった……」と心から安心した様子であった。
そんなガウェインの様子を見た一同は「ガウェインがそれを言うのか……」と思わずにはいられない。
事の顛末を知らないガウェインは「シグマ隊長とニャルラさんが俺たちを助けてくれたんですね!」と獣人親子の方を見て言うのだった。
「ガウェイン……よかった……」
何やら勘違いしているようだが、元気そうに動いているガウェインを再び見た私は思わず涙をこぼしていた。
病室に立ち尽くしたまま、私がポロポロと流れる涙を両手で拭っているとアリシアが私の傍に来る。
床に膝をついたアリシアは小さな私を抱えるように頭を撫でて「お嬢様……」と優しく包み込んでくれるのだった。
病室に集まった一同は、そんな小さな魔王妃を見て穏やかな時を過ごすのであった。
----
とりあえず、私も泣き止んだところでガウェインの包帯もすべて剥け終わったらしい。
一応確認のためにラティスがガウェインの患部の様子を触診で確かめる。
ラティスによれば傷口は完全にふさがっているらしいが、やはり傷跡を揉んでみると少し痛むというガウェイン。
「やっぱり、2,3日は安静にしていた方がいいかな」
半裸のガウェインに向かってそう言うラティスは「そもそも半日で目を覚ましたことに驚きだよ」と呟いていた。
医療処置も終わったことで、自由に会話ができるようになったガウェインと一同は昨日の「四天王との接触」について改めて話す。
というより、ガウェインは気を失って以降の出来事を知らないため、まずはその説明から始まった。
四天王のフォルトゥナとの接敵時の話は私が、私とガウェインを担いで城に戻ってきた話はシグマとニャルラが、魔王城での会議の話はアドルが説明する。
「……というわけです」
最後に説明役を担当したアドルの話が終わる。
そこまで私たちの話を聞いたガウェインは驚いた様子であった。
というか、一度に色々聞きすぎて戸惑っているようである。
「大丈夫ガウェイン君?」
どこからか持ってきた綺麗な植物を花瓶に挿すスターチアが優しく問いかける。
その仕草は彼女のお人形のような服装や可憐さと相まって、お伽噺のワンシーンのようであった。
ベッドの上のガウェインは、スターチアが机に置いた花瓶を見ながら「お心遣いありがとうございますスタチーさん」と返す。
こちらの上半身裸騎士もなかなか絵になっていた。
というか、なんかスターチアとガウェインの距離が近くない?
「おっ、そういえばスタチーって騎士君みたいな子がタイプだったね~」
妙に仲の良いガウェインとスターチアの様子を見たラティスが、ニヤニヤしながら二人に近づくのであった。
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