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第60話 新たなる方向
しおりを挟むというわけで、教主マクシームとも親交のある私は「私が直接教主に会いに行って、魔王軍の誤解を解いてくるわ!」と名乗りを上げるも、魔王に「とりあえず落ち着け」と諭されるのだった。
「今魔王軍に所属する者が正面から教国に行ったら、邪神教の連中の思うつぼだ」
魔王に冷静に正論を言われて私は「たしかに……」と思うのだった。
今の私は「王国の王族」でもあるが「魔王軍の魔王妃」でもある。
邪神教の魔物たちは、当然教国にも「私が魔王軍の一員であること」を何らかの手段で連絡しているだろう。
私は頭は切れるのだが、如何せん感情に流されやすいところがある点に気を付けなければならない。
冷静さを失ってしまったことについて頭を抱えている私の様子は幼い子供そのものであった。
私が狼狽えていると、魔王に代わりアドルが教国との交渉に際して生じる問題点を説明し始めた。
彼の話によると、教主と交渉する役目は私を含めた4人で行ってもらうということである。
そのメンバーは私とアリシアとガウェイン、そしてスターチアの4名であった。
私達3人は人間だし、スターチアも持ち前の変装術で完全に人間と見分けがつかない。
教主とその周りの人間に会う時に「凶悪な見た目の魔物」がいては相手を刺激することになるという。
まあ、強くなったガウェインともともとハチャメチャに強いスターチアがいれば護衛という点では問題ないだろう。
「ただ、教国に行く前に魔王妃様方には「王国」へ行ってもらいます」
アドルの口から意外な言葉が出てきたことで、私とアリシアは驚き背筋が伸びる。
私の実家であるリルシュタイン公爵家が存在する「王国」に帰れと言われたことに困惑するのだった。
アドルが言うには「王国」も「魔王軍」に王家に連なるものを誘拐された国であり、邪神教も王国と接触するはずであるということである。
「メルヴィナ様が邪神教よりも先に「王国」とパイプをつなぐべきです」
手初めに「王国」と友好関係を結んで、その後に「王国」を介して「教国」の誤解を解くということらしい。
つまり、魔王軍自体が教国と交渉するのではなく、間に一枚「人間の国」を挟んでスムーズに取引を行おうというわけだ。
そのため、王国の有力者に知人の多い私があれこれと事前準備をする必要があるというわけである。
私の横でアドルの話を聞くアリシアも「王国でしたら危険もありませんね」とホッと胸を撫でおろしていた。
「んっ?ということはシャルやランス兄様に会えるってことかしら!?」
実家の妹や兄に会えるかもしれないと一人沸き立つ私と、嬉しそうに笑う私を見て優しくほほ笑むアリシアであった。
----
「……もきゅ……もきゅもきゅ!!」
謁見の間で行われた調査報告会の翌朝、私は窓からさす心地よい日差しとワタアメの鳴き声で目覚めた。
しばらく寝てすっかり元気になったワタアメは、いつの間にか病院のベッドから私の部屋に移動していたらしい。
私とアリシアが会議から戻ってきた時には、ワタアメは既にこの屋敷で主の帰りを待っていたのだった。
「あら?朝から元気ね」
私は眠気の残る目を擦って欠伸を一つすると、腕の中でプルプルと震えているワタアメの頭を撫でる。
彼女はフォルトゥナと対峙したときのような「怯え」た感じではなく、嬉しそうに「興奮」した様子で震えているらしい。
既に起きて部屋の掃除をしていたアリシアも「ワタアメちゃんどうしたのでしょうかね?」とワタアメの様子を見て不思議そうにしていた。
私たちがワタアメの様子を見て少し和んでいると、部屋のドアがガチャりと音を立ててゆっくり開く。
「魔王妃様、医務室から連絡がありました」
屋敷の執事長であるラビアンローズが丁寧な礼を一つした後に報告する。
それを聞いたワタアメが「もきゅ!」と私の腕を中を勢い飛び出して外へと走っていく。
城内は特に危険が無く、ワタアメを自由に遊ばせておいても問題ないので私たちはラビアンローズの話をそのまま聞き続けた。
すると、彼の口から驚くべき事実が話される。
「騎士のガウェイン殿が目を覚まされたようでございます」
ガウェインが起きたという報告を受けて、私もワタアメの様に部屋を飛び出していくのだった。
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