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第58話 新参者の四天王
しおりを挟むシグマたちが凌ぎを削ったという「人魔大戦期」の勢力図が分からなくなった私である。
基本的な認識としては「魔王軍と人間達」VS「邪神教」というもので間違いないのだが、いくらかイレギュラーな関係もあったらしいことが分かった。
「マーリンが死に追いやられたのは大戦が終わった後のことでしたから……」
過去を思い出すようにアドルが言う。
どうやら、アドルの話によればマーリンがシグマたちに殺されたのは「大戦終了後」であったらしい。
つまり、先代魔王と先代のメルヴィナ達が邪神教の親玉である「フェイリス」を廃城に封印した後に起こった出来事というわけだ。
その辺の歴史の話は、長くなるのでまた別の機会に教えてくれることになる。
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ひとまず、スターチアの報告はいくつかの問題点が浮き彫りになったところで終わった。
彼女の話で明確になったことは、
・教国が魔王軍を敵と誤認してること。
・フェイリスが未だ復活しておらず、邪神教もピンチだということ。
・かつての大魔導士マーリンが邪神教側で暗躍している可能性が高いこと。
の以上3点である。
そして、それ以上の議論は「精鋭隊」の報告がきちんと終わってからということになった。
「どこまで話したかしら?」
私は自らの報告の途中で議題が変わってしまったことを思い出す。
たしか、私達が森の中で「四天王」に襲われたところまで話したはずである。
会議場で手をあげるスターチアが「魔王妃様方が四天王に襲われたところまでお聞きしました」と申し訳なさそうに話す。
まあ、あの場合私が魔王に絡んでしまったことも悪かったので誰が悪いというわけでもないのだが。
「そうね、私とガウェインが襲われた四天王の一人は「フォルトゥナ」と名乗る小さな女の子だったわ」
私は小声で「私よりは大きかったけどね」と付け足す。
フォルトゥナが岩と氷の魔法を高速詠唱して攻撃してきたことや、彼女が「隠蔽魔法陣」と同様の効果を広範囲に発揮していたことを私は報告する。
すると、それを聞いたシグマやヴァネッサが「フォルトゥナ?誰それ?」と困惑しているのが見えた。
大戦時から生きる面々や魔王ですら理解が及んでいないらしく、私もその様子に困惑する。
「もしかして、四天王もバハムート以外は世代交代してるのかしらね?」
遠い目をしたヴァネッサが「あれから500年経ってるものね……」と頬に手を当てて色っぽく言う。
それを聞いた私は「たしかに」と思ったが、彼女の横に座るシグマがヴァネッサの意見を否定するように発言した。
「いや、少なくとも「竜人ティアマト」と「戦闘狂アレス」の二名は四天王のままであった」
自信満々で発言するシグマは「実際に儂とニャルラがその二人と接敵した」と付け加える。
私もシグマたちが四天王と闘っていたことはフォルトゥナ経由で知っていたため、そこまで驚きはしなかった。
しかし、アドルを始めとした大戦当時から生きる者たちは「厄介な奴がまだ二人も生きていたか……」と意気消沈した様子である。
どうやら、彼らの話を聞くに「フォルトゥナ」は比較的新しい四天王であるとのことだった。
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一通り調査の結果を報告した私は、話を聞いていた魔物たちから質問を受ける。
「それで、魔王妃様とガウェインはどうやってそのフォルトゥナって子を倒したわけ?」
四天王を倒したのが信じられないといった様子のヴァネッサが私に言う。
同じく四天王の強さをよく知っている竜人ドレイクも「邪神教も人材不足というわけか?」と鼻で笑っていた。
私達が倒れていた現場を実際に見たシグマも「ガウェインの傷口も致命傷を裂けていたし、ワタアメも生きていたからのう」とフォルトゥナの甘さを指摘する。
当事者の私としても、いくら追手のシグマたちが来ないとはいえフォルトゥナが少し油断しすぎではないかと思う節はあった。
しかし、彼女から感じたおぞましいほど強力な魔力と、広範囲を隠蔽する魔法の能力は本物だと感じざるを得ない。
「それなんだけどね、隠していたわけではないのだけれども……」
そして私はヴァネッサの質問に答えるために、自らがアルテミシアであることを話すことにした。
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