幼女公爵令嬢、魔王城に連行される

けろ

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第56話 ニャルラの提案

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 魔王の話を聞いて「邪神教としても大事な時期にわざわざ危険を冒す必要ってあるのかしら」と言うヴァネッサ。
 長くなったが、今回の事件で一番大事なポイントがそこなのである。
 忙しく、慎重さを求められるタイミングでの邪神教のこの行動には意味があるのだ。

「意味があったのよ。フェイリスの復活を確実に成功させるためにね」

 フェイリスの復活がまだ終わっていなかった以上、邪神教にも待ち伏せをする必要があったのだと私は言う。
 それに対してスターチアが「魔王妃様方の対応に四天王を3人も割いていた邪神教は、人間達を刺激しない方がよかったのではないですか?」とお手本のような分析を披露した。
 たしかに彼女の言うとおりである。
 だが、それはあくまでも「人間達が攻めてこない」という前提のもと成り立つ話であった。
 おそらく、邪神教もそれくらいのことは考えているだろう。
 であるならば、それを承知の上で教国にちょっかいを出す必要が邪神教側にあったということになる。

「たぶん、教国側からも邪神教に対する調査が入っていたんじゃないかしら」

 グレイナル山脈側からは魔王軍が、教国の方からは人間達が邪神教のエリアを調査していたのではないかと私は推測した。
 人間達の対応にも戦力を裂かなければいけない状況が成立していなければ、教国には手出ししないのが得策であるからだ。
 つまり、余裕そうに「フェイリス様の復活は止められねえ!!」とか言っていた邪神教であるが、その実かなりギリギリの状況だったわけである。
 そこで、邪神教は「聖少女エレナ」と「魔王軍の隊長達」を使って上手い事両者をつぶし合わせる方法を考えたというわけだ。

「でも、何回も蒸し返すけど「待ち伏せ」が失敗したら「フェイリス復活」も失敗するわけよね?」

 そんなハイリスクハイリターンな作戦をとるしかない状況だったわけ?と納得のいかない様子のヴァネッサ。
 それに対してアドルが「結果的にはそういうことになりますね」と答える。
 玉座で難しそうな顔をする魔王も「にわかには信じられぬが」と自分たちの結論に半信半疑である様子であった。
 待ち伏せが必要だった理由までは私も考えたけれど、もしも自分がその作戦にOKを出す立場だったと考えると魔王と同様難しい顔をせざるを得ない。
 大勢の同胞の命を預かる身としては運任せの作戦にGOサインは出せないのだ。
 なんとなくスッキリしない状況に会場は沈黙に包まれる。
 そんな時、ここにきて初めてニャルラが発言のために手をあげた。

「難しいことはよく分からないけど、四天王以外が教国の人間と密談している風を装って待ち伏せするのは無しなのかニャ?」

 どうかニャ?と渾身の意見を絞り出したニャルラであったが、それを聞いたヴァネッサが「密談してるのがバハムートじゃなかったら、即決で生け捕りにしてるわよ」と彼女の案を却下するのだった。
 それに、沢山待ち伏せ部隊を設置した上で「偶然」その中から「バハムートとエレナ」を引き当てる確率を考えたら、ニャルラの言う作戦が決行された可能性は極めて低い。
 ヴァネッサに意見を否定されたニャルラであったが、この時彼女に天啓が下りるのだった。
 先ほどまでの調査の経験からか、このタイミングでニャルラは一つの可能性を閃く。
 またしても訪れた静寂の中、再び手をあげたニャルラに魔物たちは「今度はなんだ?」と若干の呆れを含んだ視線を向ける。

「そ、それじゃあ、「隠蔽魔法陣」で普通の魔物と人間を「エレナ」と「バハムート」に偽装していたらどうかニャ?」

 今までとは違うアプローチの仕方で問題に対して切り込むニャルラ。
 負けず嫌いの子供が苦し紛れに屁理屈をこねる様子に似ていたが、彼女の語る新発想が場の空気を変えた。
 彼女と同じく「隠蔽魔法陣」に苦しめられたシグマは「面白い考えだが、ヴァネッサ達に気づかれずに広範囲に魔法陣を作用させられる奴はおるかのう」と悩む。
 そんなことができるのは私たちと相対していた「フォルトゥナ」くらいのものではないだろうかというシグマ。
 魔力も申し分なく強く、魔力感知能力も儂の比ではないとヴァネッサを褒めるシグマにヴァネッサは「当然よね」と気分を良くする。
 しかし、それを聞いた魔王はハッとした様子でなにやら考え込む。
 そんな魔王の様子を見たスターチアも「まさか……」と青ざめた顔をしていた。
 会議に出席する魔物たちは目まぐるしく変化する展開についていけないといった様子で彼女たちを見ている。
 困惑する魔物たちと同様に、魔族事情を詳しく知らない私は「なんのことやら……」と状況を飲み込めずにいた。
 そんな私たちを置いてけぼりのまま、信じたくはないがと前置きをしたうえで魔王が話しはじめる。

「六星の一人であり、帝国創始者のマーリンならば可能だろうな……」

 私は魔王軍の書庫で読んだ本に書いてあった名前を魔王の口から聞くのだった。

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