上 下
62 / 91

第56話 ニャルラの提案

しおりを挟む
 魔王の話を聞いて「邪神教としても大事な時期にわざわざ危険を冒す必要ってあるのかしら」と言うヴァネッサ。
 長くなったが、今回の事件で一番大事なポイントがそこなのである。
 忙しく、慎重さを求められるタイミングでの邪神教のこの行動には意味があるのだ。

「意味があったのよ。フェイリスの復活を確実に成功させるためにね」

 フェイリスの復活がまだ終わっていなかった以上、邪神教にも待ち伏せをする必要があったのだと私は言う。
 それに対してスターチアが「魔王妃様方の対応に四天王を3人も割いていた邪神教は、人間達を刺激しない方がよかったのではないですか?」とお手本のような分析を披露した。
 たしかに彼女の言うとおりである。
 だが、それはあくまでも「人間達が攻めてこない」という前提のもと成り立つ話であった。
 おそらく、邪神教もそれくらいのことは考えているだろう。
 であるならば、それを承知の上で教国にちょっかいを出す必要が邪神教側にあったということになる。

「たぶん、教国側からも邪神教に対する調査が入っていたんじゃないかしら」

 グレイナル山脈側からは魔王軍が、教国の方からは人間達が邪神教のエリアを調査していたのではないかと私は推測した。
 人間達の対応にも戦力を裂かなければいけない状況が成立していなければ、教国には手出ししないのが得策であるからだ。
 つまり、余裕そうに「フェイリス様の復活は止められねえ!!」とか言っていた邪神教であるが、その実かなりギリギリの状況だったわけである。
 そこで、邪神教は「聖少女エレナ」と「魔王軍の隊長達」を使って上手い事両者をつぶし合わせる方法を考えたというわけだ。

「でも、何回も蒸し返すけど「待ち伏せ」が失敗したら「フェイリス復活」も失敗するわけよね?」

 そんなハイリスクハイリターンな作戦をとるしかない状況だったわけ?と納得のいかない様子のヴァネッサ。
 それに対してアドルが「結果的にはそういうことになりますね」と答える。
 玉座で難しそうな顔をする魔王も「にわかには信じられぬが」と自分たちの結論に半信半疑である様子であった。
 待ち伏せが必要だった理由までは私も考えたけれど、もしも自分がその作戦にOKを出す立場だったと考えると魔王と同様難しい顔をせざるを得ない。
 大勢の同胞の命を預かる身としては運任せの作戦にGOサインは出せないのだ。
 なんとなくスッキリしない状況に会場は沈黙に包まれる。
 そんな時、ここにきて初めてニャルラが発言のために手をあげた。

「難しいことはよく分からないけど、四天王以外が教国の人間と密談している風を装って待ち伏せするのは無しなのかニャ?」

 どうかニャ?と渾身の意見を絞り出したニャルラであったが、それを聞いたヴァネッサが「密談してるのがバハムートじゃなかったら、即決で生け捕りにしてるわよ」と彼女の案を却下するのだった。
 それに、沢山待ち伏せ部隊を設置した上で「偶然」その中から「バハムートとエレナ」を引き当てる確率を考えたら、ニャルラの言う作戦が決行された可能性は極めて低い。
 ヴァネッサに意見を否定されたニャルラであったが、この時彼女に天啓が下りるのだった。
 先ほどまでの調査の経験からか、このタイミングでニャルラは一つの可能性を閃く。
 またしても訪れた静寂の中、再び手をあげたニャルラに魔物たちは「今度はなんだ?」と若干の呆れを含んだ視線を向ける。

「そ、それじゃあ、「隠蔽魔法陣」で普通の魔物と人間を「エレナ」と「バハムート」に偽装していたらどうかニャ?」

 今までとは違うアプローチの仕方で問題に対して切り込むニャルラ。
 負けず嫌いの子供が苦し紛れに屁理屈をこねる様子に似ていたが、彼女の語る新発想が場の空気を変えた。
 彼女と同じく「隠蔽魔法陣」に苦しめられたシグマは「面白い考えだが、ヴァネッサ達に気づかれずに広範囲に魔法陣を作用させられる奴はおるかのう」と悩む。
 そんなことができるのは私たちと相対していた「フォルトゥナ」くらいのものではないだろうかというシグマ。
 魔力も申し分なく強く、魔力感知能力も儂の比ではないとヴァネッサを褒めるシグマにヴァネッサは「当然よね」と気分を良くする。
 しかし、それを聞いた魔王はハッとした様子でなにやら考え込む。
 そんな魔王の様子を見たスターチアも「まさか……」と青ざめた顔をしていた。
 会議に出席する魔物たちは目まぐるしく変化する展開についていけないといった様子で彼女たちを見ている。
 困惑する魔物たちと同様に、魔族事情を詳しく知らない私は「なんのことやら……」と状況を飲み込めずにいた。
 そんな私たちを置いてけぼりのまま、信じたくはないがと前置きをしたうえで魔王が話しはじめる。

「六星の一人であり、帝国創始者のマーリンならば可能だろうな……」

 私は魔王軍の書庫で読んだ本に書いてあった名前を魔王の口から聞くのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お飾り妻生活を満喫していたのに王子様に溺愛されちゃった!?

AK
恋愛
「君は書類上の妻でいてくれればいい」 「分かりました。旦那様」  伯爵令嬢ルイナ・ハーキュリーは、何も期待されていなかった。  容姿は悪くないけれど、何をやらせても他の姉妹に劣り、突出した才能もない。  両親はいつも私の結婚相手を探すのに困っていた。  だから受け入れた。  アーリー・ハルベルト侯爵との政略結婚――そしてお飾り妻として暮らすことも。  しかし―― 「大好きな魔法を好きなだけ勉強できるなんて最高の生活ね!」  ルイナはその現状に大変満足していた。  ルイナには昔から魔法の才能があったが、魔法なんて『平民が扱う野蛮な術』として触れることを許されていなかった。  しかしお飾り妻になり、別荘で隔離生活を送っている今。  周りの目を一切気にする必要がなく、メイドたちが周りの世話を何でもしてくれる。  そんな最高のお飾り生活を満喫していた。    しかしある日、大怪我を負って倒れていた男を魔法で助けてから不穏な空気が漂い始める。  どうやらその男は王子だったらしく、私のことを妻に娶りたいなどと言い出して――

乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか〜

ひろのひまり
恋愛
生まれ変わったらそこは異世界だった。 沢山の魔力に助けられ生まれてこれた主人公リリィ。彼女がこれから生きる世界は所謂乙女ゲームと呼ばれるファンタジーな世界である。 だが、彼女はそんな情報を知るよしもなく、ただ普通に過ごしているだけだった。が、何故か無関係なはずなのに乙女ゲーム関係者達、攻略対象者、悪役令嬢等を無自覚に誑かせて関わってしまうというお話です。 モブなのに魔法チート。 転生者なのにモブのド素人。 ゲームの始まりまでに時間がかかると思います。 異世界転生書いてみたくて書いてみました。 投稿はゆっくりになると思います。 本当のタイトルは 乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙女ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか?〜 文字数オーバーで少しだけ変えています。 なろう様、ツギクル様にも掲載しています。

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

異世界細腕奮闘記〜貧乏伯爵家を立て直してみせます!〜

くろねこ
恋愛
気付いたら赤ん坊だった。 いや、ちょっと待て。ここはどこ? 私の顔をニコニコと覗き込んでいるのは、薄い翠の瞳に美しい金髪のご婦人。 マジか、、、てかついに異世界デビューきた!とワクワクしていたのもつかの間。 私の生まれた伯爵家は超貧乏とか、、、こうなったら前世の無駄知識をフル活用して、我が家を成り上げてみせますわ! だって、このままじゃロクなところに嫁にいけないじゃないの! 前世で独身アラフォーだったミコトが、なんとか頑張って幸せを掴む、、、まで。

悪役令嬢になりたくない(そもそも違う)勘違い令嬢は王太子から逃げる事にしました~なぜか逆に囲い込まれました~

咲桜りおな
恋愛
 四大公爵家の一つレナード公爵家の令嬢エミリア・レナードは日本人だった前世の記憶持ち。 記憶が戻ったのは五歳の時で、 翌日には王太子の誕生日祝いのお茶会開催が控えており その場は王太子の婚約者や側近を見定める事が目的な集まりである事(暗黙の了解であり周知の事実)、 自分が公爵家の令嬢である事、 王子やその周りの未来の重要人物らしき人達が皆イケメン揃いである事、 何故か縦ロールの髪型を好んでいる自分の姿、 そして転生モノではよくあるなんちゃってヨーロッパ風な世界である事などを考えると…… どうやら自分は悪役令嬢として転生してしまった様な気がする。  これはマズイ!と慌てて今まで読んで来た転生モノよろしく 悪役令嬢にならない様にまずは王太子との婚約を逃れる為に対策を取って 翌日のお茶会へと挑むけれど、よりにもよってとある失態をやらかした上に 避けなければいけなかった王太子の婚約者にも決定してしまった。  そうなれば今度は婚約破棄を目指す為に悪戦苦闘を繰り広げるエミリアだが 腹黒王太子がそれを許す訳がなかった。 そしてそんな勘違い妹を心配性のお兄ちゃんも見守っていて……。  悪役令嬢になりたくないと奮闘するエミリアと 最初から逃す気のない腹黒王太子の恋のラブコメです☆ 世界設定は少し緩めなので気にしない人推奨。

黄金の魔族姫

風和ふわ
恋愛
「エレナ・フィンスターニス! お前との婚約を今ここで破棄する! そして今から僕の婚約者はこの現聖女のレイナ・リュミエミルだ!」 「エレナ様、婚約者と神の寵愛をもらっちゃってごめんね? 譲ってくれて本当にありがとう!」  とある出来事をきっかけに聖女の恩恵を受けれなくなったエレナは「罪人の元聖女」として婚約者の王太子にも婚約破棄され、処刑された──はずだった!  ──え!? どうして魔王が私を助けてくれるの!? しかも娘になれだって!?  これは、婚約破棄された元聖女が人外魔王(※実はとっても優しい)の娘になって、チートな治癒魔法を極めたり、地味で落ちこぼれと馬鹿にされていたはずの王太子(※実は超絶美形)と恋に落ちたりして、周りに愛されながら幸せになっていくお話です。  ──え? 婚約破棄を取り消したい? もう一度やり直そう? もう想い人がいるので無理です!   ※拙作「皆さん、紹介します。こちら私を溺愛するパパの“魔王”です!」のリメイク版。 ※表紙は自作ではありません。

乙女ゲームの悪役令嬢は断罪回避したらイケメン半魔騎士に執着されました

白猫ケイ
恋愛
【本編完結】魔法学園を舞台に異世界から召喚された聖女がヒロイン王太子含む7人のイケメンルートを選べる人気のゲーム、ドキ☆ストの悪役令嬢の幼少期に転生したルイーズは、断罪回避のため5歳にして名前を変え家を出る決意をする。小さな孤児院で平和に暮らすある日、行き倒れの子供を拾い懐かれるが、断罪回避のためメインストーリー終了まで他国逃亡を決意。 「会いたかったーー……!」 一瞬何が起きたか理解が遅れる。新聞に載るような噂の騎士に抱きすくめられる様をみた、周囲の人がざわめく。 【イラストは自分で描いたイメージです。サクッと読める短めのお話です!ページ下部のいいね等お気軽にお願いします!執筆の励みになります!】

モブはモブらしく生きたいのですっ!

このの
恋愛
公爵令嬢のローゼリアはある日前世の記憶を思い出す そして自分は友人が好きだった乙女ゲームのたった一文しか出てこないモブだと知る! 「私は死にたくない!そして、ヒロインちゃんの恋愛を影から見ていたい!」 死亡フラグを無事折って、身分、容姿を隠し、学園に行こう! そんなモブライフをするはずが…? 「あれ?攻略対象者の皆様、ナゼ私の所に?」 ご都合主義です。初めての投稿なので、修正バンバンします! 感想めっちゃ募集中です! 他の作品も是非見てね!

処理中です...