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第54話 裏の裏を掻かれる

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 バハムートによって魔王軍が悪さをしたと流布されてしまった瞬間である。
 そして、ちょうどその時宮殿の広場にヴァネッサとドレイクも集合していた。
 というのもバハムートが人間の方に向かったのを見て、彼女たちも一人で行動しているスターチアを援護するために駆けつける必要があったからである。
 さらに厄介なことに、それに気づいていたバハムートは「同じく魔王軍の吸血姫ヴァネッサと竜人ドレイクよ!魔王城へと逃げるとするぞ!!」と超下手な芝居を打って魔王城の方角へと飛び去ったという。

「私たちが密談を見つけてしまったのは偶然だと思うのですが、まんまと邪神教に嵌められてしまったわけです……」

 バハムートの下手くそな策は、魔物の区別がつかないだろう人間には効果的な演出だったというわけである。
 ここで混乱した人間達を刺激するともっと厄介なことになると考えた3人は、急いでその場を離れるしかなかったという。
 一連の流れを聞いた私は「ツッコミどころが多すぎる」と思うも、まずは一つ一つ話を整理していくことにするのだった。

 初めはスターチア達3人が森で「エレナと呼ばれた女」と「破壊竜バハムート」を発見した。
 そして3人は、別れた二人をバラバラに追跡し始める。
 しばらくしてエレナが教国の宮殿前に着いた頃に、破壊竜バハムートがその上空に現れた。
 バハムートを尾行していた竜人ドレイクと吸血姫ヴァネッサ、そしてエレナを尾行していたスターチアの3人ともが宮殿前の広場に集まる。
 偶然バハムートの着陸先にいた人間の子供をスターチアが助けたことによって、バハムートに魔王軍の3人の存在がバレてしまったという。
 聖少女エレナを誘拐したバハムートが、ちょうど現場にいたスターチア達3人に罪を擦り付けて自らを「魔王軍」と名乗った。

「そういうことで間違いないかしら?」

 スターチアの話を簡単にまとめた私は彼女に問いかける。
 それに対して「間違いありません」と神妙な顔で頷くスターチア。
 付け加えて彼女は「私が人間の子供を助けてしまったばっかりに……」と自らの行動に責任を感じている様子であった。
 そんなスターチアに対して私は丁寧な口調で声をかける。

「それは違うわ。話の初めから最後まで不自然なところが多すぎるのよ」

 私はそう言って横にに座るアリシアの方に視線を送ると、アリシアも無言で私に同意する。
 私の発言に対して会議場にいる魔物たちの多くは???と言った様子でこちらを見ていた。
 それに気づいた私は魔王やアドルに「あなた達はわかるわよね?」と尋ねる。
 すると、彼らも「いったい何のことだ?」とよく分かっていない様子であった。
 それを受けて隣に座っているアリシアに「分かるわよね?」と私が言うと、アリシアは「はい、そもそもの話からおかしいということですよね?」と答える。
 どうやら、アリシアはこの事件の不可思議な点を理解している様子であった。

「そこでゴチャゴチャやってないで、我々にも分かるように説明してみろ」

 私達の方を見て面白くなさそうに命令する魔王。
 魔王である彼は、魔王軍の魔物をそっちのけで人間同士でワイワイやっていることが気に入らないらしい
 もはや慣れた彼の性格に構うことなく、私は改めて問題点について説明するのだった。

「まず、森の中でエレナとバハムートを目撃した時点からおかしいのよ」

 私は開幕からこの事件がおかしなものであると指摘する。
 それを聞いてヴァネッサが「ちょっと待って、バハムート達を発見したのは偶然よ?」と訝し気に声をあげた。
 たしかに彼女の言う通り、ヴァネッサ達が二人を発見したのは「偶然」である。
 たまたま、教国と邪神教のエリアの境目を調査していた時に発見したのだった。
 しかし、その思い込みこそが間違えなのである。

「私たちが二人を発見したのが偶然ではないと仰るのでしたら、バハムート達は私たちが来ることを知っていたということですか?」

 もしかして待ち伏せされていたのかと言うスターチアは驚きを隠しきれていなかった。
 しかし、彼女の言っていることは「半分正解で半分間違い」である。
 スターチアが驚いた様子で言った言葉に、漸く「待ち伏せ」の可能性を考慮し始めた魔物たちは説明の続きを待っていた。

「こんな風にね……」

 突然、小さくちぎった紙をいくつか丸めた私はそれを指で弾いて正面の席に座るシグマにぶつける。
 突然紙屑をぶつけられたシグマは「魔王妃殿!?」と驚いた様子であった。
 その様子を見ていた周りの魔物たちも「魔王妃様が壊れた……!?」と驚愕の目でこちらを見る。
 しかし、私の頭はおかしくなっていないし、この弾当ても説明の一環だった。

「ある程度方向が絞れたら、数さえ打てば「待ち伏せ」は成功するのよ」

 バハムート達が「待ち伏せ」してはいたが、いつどこに私たちが現れるかまでは把握していなかったというわけである。
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