60 / 91
第54話 裏の裏を掻かれる
しおりを挟むバハムートによって魔王軍が悪さをしたと流布されてしまった瞬間である。
そして、ちょうどその時宮殿の広場にヴァネッサとドレイクも集合していた。
というのもバハムートが人間の方に向かったのを見て、彼女たちも一人で行動しているスターチアを援護するために駆けつける必要があったからである。
さらに厄介なことに、それに気づいていたバハムートは「同じく魔王軍の吸血姫ヴァネッサと竜人ドレイクよ!魔王城へと逃げるとするぞ!!」と超下手な芝居を打って魔王城の方角へと飛び去ったという。
「私たちが密談を見つけてしまったのは偶然だと思うのですが、まんまと邪神教に嵌められてしまったわけです……」
バハムートの下手くそな策は、魔物の区別がつかないだろう人間には効果的な演出だったというわけである。
ここで混乱した人間達を刺激するともっと厄介なことになると考えた3人は、急いでその場を離れるしかなかったという。
一連の流れを聞いた私は「ツッコミどころが多すぎる」と思うも、まずは一つ一つ話を整理していくことにするのだった。
初めはスターチア達3人が森で「エレナと呼ばれた女」と「破壊竜バハムート」を発見した。
そして3人は、別れた二人をバラバラに追跡し始める。
しばらくしてエレナが教国の宮殿前に着いた頃に、破壊竜バハムートがその上空に現れた。
バハムートを尾行していた竜人ドレイクと吸血姫ヴァネッサ、そしてエレナを尾行していたスターチアの3人ともが宮殿前の広場に集まる。
偶然バハムートの着陸先にいた人間の子供をスターチアが助けたことによって、バハムートに魔王軍の3人の存在がバレてしまったという。
聖少女エレナを誘拐したバハムートが、ちょうど現場にいたスターチア達3人に罪を擦り付けて自らを「魔王軍」と名乗った。
「そういうことで間違いないかしら?」
スターチアの話を簡単にまとめた私は彼女に問いかける。
それに対して「間違いありません」と神妙な顔で頷くスターチア。
付け加えて彼女は「私が人間の子供を助けてしまったばっかりに……」と自らの行動に責任を感じている様子であった。
そんなスターチアに対して私は丁寧な口調で声をかける。
「それは違うわ。話の初めから最後まで不自然なところが多すぎるのよ」
私はそう言って横にに座るアリシアの方に視線を送ると、アリシアも無言で私に同意する。
私の発言に対して会議場にいる魔物たちの多くは???と言った様子でこちらを見ていた。
それに気づいた私は魔王やアドルに「あなた達はわかるわよね?」と尋ねる。
すると、彼らも「いったい何のことだ?」とよく分かっていない様子であった。
それを受けて隣に座っているアリシアに「分かるわよね?」と私が言うと、アリシアは「はい、そもそもの話からおかしいということですよね?」と答える。
どうやら、アリシアはこの事件の不可思議な点を理解している様子であった。
「そこでゴチャゴチャやってないで、我々にも分かるように説明してみろ」
私達の方を見て面白くなさそうに命令する魔王。
魔王である彼は、魔王軍の魔物をそっちのけで人間同士でワイワイやっていることが気に入らないらしい
もはや慣れた彼の性格に構うことなく、私は改めて問題点について説明するのだった。
「まず、森の中でエレナとバハムートを目撃した時点からおかしいのよ」
私は開幕からこの事件がおかしなものであると指摘する。
それを聞いてヴァネッサが「ちょっと待って、バハムート達を発見したのは偶然よ?」と訝し気に声をあげた。
たしかに彼女の言う通り、ヴァネッサ達が二人を発見したのは「偶然」である。
たまたま、教国と邪神教のエリアの境目を調査していた時に発見したのだった。
しかし、その思い込みこそが間違えなのである。
「私たちが二人を発見したのが偶然ではないと仰るのでしたら、バハムート達は私たちが来ることを知っていたということですか?」
もしかして待ち伏せされていたのかと言うスターチアは驚きを隠しきれていなかった。
しかし、彼女の言っていることは「半分正解で半分間違い」である。
スターチアが驚いた様子で言った言葉に、漸く「待ち伏せ」の可能性を考慮し始めた魔物たちは説明の続きを待っていた。
「こんな風にね……」
突然、小さくちぎった紙をいくつか丸めた私はそれを指で弾いて正面の席に座るシグマにぶつける。
突然紙屑をぶつけられたシグマは「魔王妃殿!?」と驚いた様子であった。
その様子を見ていた周りの魔物たちも「魔王妃様が壊れた……!?」と驚愕の目でこちらを見る。
しかし、私の頭はおかしくなっていないし、この弾当ても説明の一環だった。
「ある程度方向が絞れたら、数さえ打てば「待ち伏せ」は成功するのよ」
バハムート達が「待ち伏せ」してはいたが、いつどこに私たちが現れるかまでは把握していなかったというわけである。
0
お気に入りに追加
1,680
あなたにおすすめの小説
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
裏切りの代償
志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。
家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。
連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。
しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。
他サイトでも掲載しています。
R15を保険で追加しました。
表紙は写真AC様よりダウンロードしました。
「本当に僕の子供なのか検査して調べたい」子供と顔が似てないと責められ離婚と多額の慰謝料を請求された。
window
恋愛
ソフィア伯爵令嬢は公爵位を継いだ恋人で幼馴染のジャックと結婚して公爵夫人になった。何一つ不自由のない環境で誰もが羨むような生活をして、二人の子供に恵まれて幸福の絶頂期でもあった。
「長男は僕に似てるけど、次男の顔は全く似てないから病院で検査したい」
ある日ジャックからそう言われてソフィアは、時間が止まったような気持ちで精神的な打撃を受けた。すぐに返す言葉が出てこなかった。この出来事がきっかけで仲睦まじい夫婦にひびが入り崩れ出していく。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
拝啓、私を追い出した皆様 いかがお過ごしですか?私はとても幸せです。
香木あかり
恋愛
拝啓、懐かしのお父様、お母様、妹のアニー
私を追い出してから、一年が経ちましたね。いかがお過ごしでしょうか。私は元気です。
治癒の能力を持つローザは、家業に全く役に立たないという理由で家族に疎まれていた。妹アニーの占いで、ローザを追い出せば家業が上手くいくという結果が出たため、家族に家から追い出されてしまう。
隣国で暮らし始めたローザは、実家の商売敵であるフランツの病気を治癒し、それがきっかけで結婚する。フランツに溺愛されながら幸せに暮らすローザは、実家にある手紙を送るのだった。
※複数サイトにて掲載中です
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる