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第52話 森の密会と尾行
しおりを挟む人間サイドの国家である「教国」について知っているかと聞かれた私は、ヴァネッサに話の続きを促す。
邪神教の情報を集める上で「教国」の話題が出てきたことと、それに関してスターチアが責任を感じるという状況に私は嫌な予感がした。
なにごともなければいいのだが。
「結論から言うと教国の人間が邪神教に攫われたわ」
静まり返った会議場にヴァネッサの声だけが響く。
周囲の魔物たちも暗い表情をして黙っているところを見ると、私やシグマ、ニャルラを除いた魔王軍の面々は既に知っているのだろう。
ヴァネッサの口から出た言葉に思わず「え?なんで?」と間抜けな声を上がる私。
「それが分かれば苦労しない」
疲れた様子で発言するのは魔王であった。
どうやら、彼らも「なぜ」邪神教の者たちが人間を攫ったのか考えていたようである。
しかし、今のところその答えは出ていないみたいであった。
そこで、私はふと疑問に思ったことを口にする。
「ねえ、あなたが私を攫うよう命令したときはどういう気持ちだったわけ?」
もはや魔王に対して敬語を使うこともない私の物言いに、魔王は少し腹を立てる。
しかし、私の言葉で何か思いついたのか「なるほどな……」と一人思案していた。
その様子を見たアドルもなにやら考え込むように押し黙る。
そして、なにやら問題解決の糸口を見つけたらしい魔王が口を開く。
「気持ちというのは分からんが、俺たちがメルヴィナを連れてくるときには事前に長い準備期間があったことは確かだ」
私を誘拐するために長いこと準備をしてきたという魔王。
それに捕捉するようにアドルが「メルヴィナ様が生まれた時からですから18年かかりましたね」ととんでもない情報を零す。
突発的なイベントではなく、組織ぐるみの計画的犯罪の被害者であったことを知る私であった。
赤子の時から監視されていたと聞いた私は、玉座に偉そうに座る魔王を軽蔑の目で見る。
「別に幼子が好きなわけではない!」
私の視線に気づいた魔王は強い口調でキッパリと誤解に対して弁明する。
それに対して私が「まあ、世間から見たら今の私でも十分ロリコンよね」と答えるとヴァネッサが爆笑してた。
魔王やアドル、各隊長やその時代に生きた者たちの関係は案外フラットなのかもしれないと思った瞬間である。
----
それから少し余計な痴話喧嘩のような応酬が続いたのち、少し柔らかくなった会議場の雰囲気の中で報告会は続く。
「結局、邪神教には誘拐の裏に何か別の目的があるということかしら?」
魔王の話をまとめるとそういうことになる。
そして、それに付随してスターチアの責任とやらも絡んでくると竜人のドレイクが補足した。
ドレイクの物言いにヴァネッサは少し怒っているが、この二人に話させるとまた問題が起きそうである。
それにスターチアも気づいたのか、彼女はおずおずと手をあげて発言許可を待つ。
もはや司会進行など関係なしに勝手に話し始める面々の中でも、こういった一挙手一投足にスターチアの真面目さが伺える。
発言を許可されたスターチアが当時の状況について語り出す。
私たち精鋭隊の調査期間と同時期に動いていたスターチアとドレイク、ヴァネッサの3人は教国と邪神教のエリアの境目辺りを調べていたという。
隊長クラスの3人が同時に動くとはなかなか豪華なメンバーだなと私は思いながら、話の続きを聞いていく。
「教国の外れにある森の中で、私たち3人は見てしまったんです……」
なんだか恐怖映像の導入みたいになってきたなと密かに私が思っていると、スターチアの口から驚きの情報が出てくる。
迫真の語り口で喋る彼女に私やシグマは「ゴクリ」と息を飲み続きを待つ。
そしてスターチアはゆっくりと口が開き、可愛らしいお人形のような白い顔を青くして重要なポイントを話すのだった。
「なんと、女の人間と破壊竜バハムートが密談していたのです!!」
ドンッ!と効果音がなりそうな雰囲気の元、驚くべき情報が彼女の口から出てきた。
「破壊竜バハムートって何?」と近くに座っていた料理長オーキンスに私が尋ねると「かつての大戦時にいた邪神教の四天王の一人です」と丁寧に答える。
この料理長、意外と博識である。
伊達に大戦時から魔王軍で飯を作っていない。
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