58 / 91
第52話 森の密会と尾行
しおりを挟む人間サイドの国家である「教国」について知っているかと聞かれた私は、ヴァネッサに話の続きを促す。
邪神教の情報を集める上で「教国」の話題が出てきたことと、それに関してスターチアが責任を感じるという状況に私は嫌な予感がした。
なにごともなければいいのだが。
「結論から言うと教国の人間が邪神教に攫われたわ」
静まり返った会議場にヴァネッサの声だけが響く。
周囲の魔物たちも暗い表情をして黙っているところを見ると、私やシグマ、ニャルラを除いた魔王軍の面々は既に知っているのだろう。
ヴァネッサの口から出た言葉に思わず「え?なんで?」と間抜けな声を上がる私。
「それが分かれば苦労しない」
疲れた様子で発言するのは魔王であった。
どうやら、彼らも「なぜ」邪神教の者たちが人間を攫ったのか考えていたようである。
しかし、今のところその答えは出ていないみたいであった。
そこで、私はふと疑問に思ったことを口にする。
「ねえ、あなたが私を攫うよう命令したときはどういう気持ちだったわけ?」
もはや魔王に対して敬語を使うこともない私の物言いに、魔王は少し腹を立てる。
しかし、私の言葉で何か思いついたのか「なるほどな……」と一人思案していた。
その様子を見たアドルもなにやら考え込むように押し黙る。
そして、なにやら問題解決の糸口を見つけたらしい魔王が口を開く。
「気持ちというのは分からんが、俺たちがメルヴィナを連れてくるときには事前に長い準備期間があったことは確かだ」
私を誘拐するために長いこと準備をしてきたという魔王。
それに捕捉するようにアドルが「メルヴィナ様が生まれた時からですから18年かかりましたね」ととんでもない情報を零す。
突発的なイベントではなく、組織ぐるみの計画的犯罪の被害者であったことを知る私であった。
赤子の時から監視されていたと聞いた私は、玉座に偉そうに座る魔王を軽蔑の目で見る。
「別に幼子が好きなわけではない!」
私の視線に気づいた魔王は強い口調でキッパリと誤解に対して弁明する。
それに対して私が「まあ、世間から見たら今の私でも十分ロリコンよね」と答えるとヴァネッサが爆笑してた。
魔王やアドル、各隊長やその時代に生きた者たちの関係は案外フラットなのかもしれないと思った瞬間である。
----
それから少し余計な痴話喧嘩のような応酬が続いたのち、少し柔らかくなった会議場の雰囲気の中で報告会は続く。
「結局、邪神教には誘拐の裏に何か別の目的があるということかしら?」
魔王の話をまとめるとそういうことになる。
そして、それに付随してスターチアの責任とやらも絡んでくると竜人のドレイクが補足した。
ドレイクの物言いにヴァネッサは少し怒っているが、この二人に話させるとまた問題が起きそうである。
それにスターチアも気づいたのか、彼女はおずおずと手をあげて発言許可を待つ。
もはや司会進行など関係なしに勝手に話し始める面々の中でも、こういった一挙手一投足にスターチアの真面目さが伺える。
発言を許可されたスターチアが当時の状況について語り出す。
私たち精鋭隊の調査期間と同時期に動いていたスターチアとドレイク、ヴァネッサの3人は教国と邪神教のエリアの境目辺りを調べていたという。
隊長クラスの3人が同時に動くとはなかなか豪華なメンバーだなと私は思いながら、話の続きを聞いていく。
「教国の外れにある森の中で、私たち3人は見てしまったんです……」
なんだか恐怖映像の導入みたいになってきたなと密かに私が思っていると、スターチアの口から驚きの情報が出てくる。
迫真の語り口で喋る彼女に私やシグマは「ゴクリ」と息を飲み続きを待つ。
そしてスターチアはゆっくりと口が開き、可愛らしいお人形のような白い顔を青くして重要なポイントを話すのだった。
「なんと、女の人間と破壊竜バハムートが密談していたのです!!」
ドンッ!と効果音がなりそうな雰囲気の元、驚くべき情報が彼女の口から出てきた。
「破壊竜バハムートって何?」と近くに座っていた料理長オーキンスに私が尋ねると「かつての大戦時にいた邪神教の四天王の一人です」と丁寧に答える。
この料理長、意外と博識である。
伊達に大戦時から魔王軍で飯を作っていない。
0
お気に入りに追加
1,680
あなたにおすすめの小説
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
[完結]18禁乙女ゲームのモブに転生したら逆ハーのフラグを折ってくれと頼まれた。了解ですが、溺愛は望んでません。
紅月
恋愛
「なに此処、18禁乙女ゲームじゃない」
と前世を思い出したけど、モブだから気楽に好きな事しようって思ってたのに……。
攻略対象から逆ハーフラグを折ってくれと頼まれたので頑張りますが、なんか忙しいんですけど。
出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です
流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。
父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。
無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。
純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。
悪役令嬢に転生したので落ちこぼれ攻略キャラを育てるつもりが逆に攻略されているのかもしれない
亜瑠真白
恋愛
推しキャラを幸せにしたい転生令嬢×裏アリ優等生攻略キャラ
社畜OLが転生した先は乙女ゲームの悪役令嬢エマ・リーステンだった。ゲーム内の推し攻略キャラ・ルイスと対面を果たしたエマは決心した。「他の攻略キャラを出し抜いて、ルイスを主人公とくっつけてやる!」と。優等生キャラのルイスや、エマの許嫁だった俺様系攻略キャラのジキウスは、ゲームのシナリオと少し様子が違うよう。
エマは無事にルイスと主人公をカップルにすることが出来るのか。それとも……
「エマ、可愛い」
いたずらっぽく笑うルイス。そんな顔、私は知らない。
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
裏切りの代償
志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。
家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。
連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。
しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。
他サイトでも掲載しています。
R15を保険で追加しました。
表紙は写真AC様よりダウンロードしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる