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第51話 緊急会議

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 魔王城の医務室で目覚めて間もない私は、自らの元へ走ってくるアリシアを抱きしめていた。
 というより、アリシアが一方的に私にくっついている。

「お嬢様!ご無事でよかった……」

 顔に押し当てられる二つの柔らかいものが少し苦しかったが、目に涙をためるアリシアを見るに押しのけられる雰囲気ではなかった。
 なにより、フォルトゥナに襲われた死に間際に「アリシアに会いたい」と私も強く願っていたので悪い気はしない。
 そして、私とアリシアの再開を見守る一同は「姉妹っていうより親子みたいだな……」と思うのだった。


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 ガウェインはしばらく起きないということなので、彼を除くメンバーで謁見の間にて調査の報告会を行うことになる。
 医師であるラティスにガウェインを任せた私とアリシアは、彼の容態を心配しながらも魔王軍の緊急会議に出席するのだった。

 夜も更ける頃なので、謁見の間へ行く道中ではあまり魔物たちとすれ違わなかった。
 廊下で会った魔物たちは、私や魔王を筆頭とした錚々たる顔ぶれに「いったい何事だ!?」と壁際に寄る。
 気難しい顔をする魔王や隊長格達の後ろでは、アリシアが避ける魔物たちに丁寧に「ありがとうございます」とお礼を述べていた。
 その隣ではニャルラも「みんなおやすみニャ~」と軽そうに魔物たちに挨拶している。
 魔王や隊長格が夜中も会議で忙しくても、気にしないで休んでおけという彼女なりの気遣いなのかもしれない。

 程なくして会議場である謁見の間に到着する一行。
 先頭を歩く魔王に並び立つアドルが、巨大な魔物でも問題なく入れるようになっている大きな扉をあける。
 アドル達はあらかじめメイドや執事たちに準備するよう言い渡してから医務室へ向かってきたらしく、会場は既に準備が整っていた。
 たった今到着した私たちのほかには、今日の仕事を終えたあとの文官や執事たちが既に席に着いているのが見える。
 大きく開いた扉から入ってきた私たちに気づいた彼らは、急いで立ち上がってこちらへ一礼した。
 その中には料理長のオーキンスやラビアンローズの姿も見える。

「それでは、各自席についたら報告会を始めます」

 アドルの一声で全員が席に着いたのちに会議が始まる。
 まずは、邪神教の調査をしていた精鋭隊の報告から始まった。
 部隊長として活動していた私が、フェイリスは復活途中だったことや四天王に襲われたことを話す。
 すると、魔王やアドルは「やはりか……」とフェイリス復活に関して嫌な予感が的中したという顔をする。
 他の隊長格も「四天王って、あの四天王よね……?」とかつての大戦時にしのぎを削った宿敵達の顔を思い浮かべているようだった。

「やはりってことはあなたもしかして「フェイリスが復活していない」ことを知ってたわけ?」

 調査の報告をするも、すでにその結果を「知ってた」と言われた私は驚きと呆れ混じりに魔王に尋ねる。
 すると、眉間に拳を当てて悩ましそうにする魔王の代わりにアドルが答えた。

「そうではないかという疑惑があっただけです」

 可能性として考慮していただけであって、確信はしていなかったとアドルは言う。
 それに、私たちがいない間に調査していたヴァネッサやスターチアが持ち帰った情報からもそういう反応になったらしい。
 吸血姫とお人形さんが持ち帰った情報というのが気になると私が思っていると、私の疑問を感じ取ったのかスターチアが話し始めた。

「実は、魔王妃様が調査に行っている間に少し事件がありまして……」
「魔王妃様は「教国」って場所をもちろん知ってるわよね?」

 なにやら額の汗を陶磁器のような白い手で拭うようにして申し訳なさそうに言うスターチアと、彼女に割り込む様に話始めるヴァネッサ。
 その様子を見ていた竜人ドレイクは「ヴァネッサ、スターチアの報告中だぞ?」と静かに怒りを込めて言う。
 ドレイクの放つ重たく力強い威圧的なオーラは会議場を凍り付かせる。
 特に戦闘要員特有の刺々しさに耐性の無い文官たちは蛇に睨まれた蛙のようであった。

「このままスタチーに報告させたら彼女責任を感じるでしょ?」

 威圧的なドレイクに「それくらい察しなさいよね」と更に高圧的に感情をぶつけるヴァネッサ。
 立場的には彼女たちより上の魔王妃の私から見ても、なかなかに恐ろしい殺気をぶつけ合う二人であった。
 なにやら、私と一緒に行動してたシグマ以外の隊長達の間で何かあったのか、彼らは妙にピリピリとしている。
 正直、この二者の間に割り込みたくないとは思いつつもこのままでは埒が明かない。

「ちょっと、きちんと話してもらわないと分からないわ」

 とりあえず、スターチアに話させたくないならヴァネッサが報告して頂戴と私は声をあげる。
 魔王やアドルもヴァネッサが報告しろと、彼女に発言を許した。
 彼女は先ほど私に「教国」を知っているか?と尋ねてきたはずである。
 「教国」とは人間達が治める「五大国」の一つであり、私が住んでいた「王国」や皇帝が治める「帝国」と並ぶ大国であった。
 王政や帝政を敷いているこれらの国とは異なり、教国は人間達の間で最も崇拝者の多い「主神教」という宗教の教主が治める国である。

 しかし、なぜヴァネッサが人間の治める国を話題にあげたのか私は気になるのだった。





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