上 下
55 / 91

第49話 四天王の情報

しおりを挟む


 地に臥すメルヴィナとガウェインを魔物から単身守り抜いたワタアメは、シグマとニャルラの到着に安心して眠ってしまった。
 二人の容態を確認するシグマと意識を失ったワタアメを拾いあげるニャルラ。

「魔王妃殿!ガウェイン!」

 地面にしゃがみ込んで二人の心音を聴くシグマにニャルラが「どうなんニャ!?」とワタアメを抱えて言う。
 それに対してシグマは「安心しろ、二人ともまだ生きている」と嬉しそうに答えた。
 しかし、氷柱が刺さったままのガウェインの方を見て難しい顔をするシグマである。
 ガウェインの傷口は未だ溶けぬ氷柱によって腹部の傷が冷凍状態になっているように見えた。
 ガウェインを殺そうとしていたフォルトゥナが、なぜ彼を止血状態にしていたのかというところに疑問が残るシグマ。

「とりあえず、急いで魔王城に戻るぞ」

 ニャルラの方を見て合図を送るシグマ。
 部隊編成時にあらかじめ「欠員が出た場合、出そうな場合は引き返す」というルールを決めておいた一同は、二人と一匹の負傷者が出たことで廃城へ向かうのをあきらめて帰還することになった。
 地面に倒れるメルヴィナを抱き上げたシグマは、ニャルラにガウェインを担ぐように指示する。
 それを受けてニャルラは荷物とガウェインをそれぞれ背負って出発準備を完了させた。


----


 来る時とは違い、敵と遭遇しても無視して全速力で魔王城へと走るシグマとニャルラ。
 本気のスピードで駆ける親子に追いつくことができる魔物などそうそういなかった。

「この分だと夜が更ける頃には城につく」

 夜まで走り続けるが、体力は大丈夫かとニャルラに尋ねるシグマ。
 それに対しニャルラは「任せるニャ!」と強気に答える。
 魔王軍の兵士の中でもかなり上位の戦闘能力にランクインするニャルラは、これでも一応「メイド」という扱いなのであった。
 シグマは娘の実力を認めてはいるが、やはり正規の兵士ではないので心配が残るようである。

「それにしても、パパも四天王とやらと会ったのかニャ?」

 彼女は特に疲れたそぶりも見せることなく、隣を走るシグマに声をかける。
 魔法陣探しではぐれた時に「四天王」のメンバーに会って、足止めを食らったというニャルラ。
 彼女が出会ったのは第二部隊隊長のドレイクのような「竜人」であったらしい。
 それを聞いたシグマは「名前は名乗っていなかったか?」とニャルラに問う。
 どうやら、シグマには邪神教の「竜人」に思い当たる節があるみたいだった。

「たしか、ティラミスとかそんな感じの名前だったニャ」

 走りながら進路をふさぐ魔物をキックで吹き飛ばして走り続ける二人。
 敵を処理しつつも「なんだか甘くて美味しそうな名前の竜人だった」とニャルラは言う。
 それを聞いたシグマは「やはりティアマトか……」と眉間に皺を寄せる。
 ティアマトという名を聞いたニャルラは「あっ、それだニャ!」とスッキリした様子であった。

「竜人ティアマト……大戦の時代からいる邪神教のナンバーツーだ」

 渋い口調で話すシグマは、なにやら大戦時の記憶を思い起こしているようだった。
 ティアマトは、500年前からフェイリスの右腕として邪神教をうまくまとめ上げていたやり手の竜人であるという。
 それを聞いたニャルラは「通りで強かったわけニャ」と納得した様子で頷く。
 竜人はまるで本気を出していないような感じだったというニャルラ。
 それを聞いたシグマはホッとした様子で「本気を出していたらお前は死んでいたのう」と答える。
 彼の口から出た言葉に、なんともゾッとしない話であるとニャルラは思うのだった。

「パパのところじゃなくて、なんで私の方にそんな強い奴がくるのニャ……」

 本来なら自分は弱い魔物と当たるべきだと主張するニャルラ。
 それを聞いたシグマは「儂の方にも厄介な奴が寄こされていた」と答える。
 シグマが言うにはもう一人の四天王である「戦闘狂のアレス」という奴と接敵していたらしい。

「こいつが邪神教一番の問題児でのう……」

 大戦当時から厄介な魔物だったという「戦闘狂アレス」とはいったいどんな奴なのかとニャルラは疑問に思うのだった。
 しかし、グレイナル山脈のふもとまでやってきた二人は今までのように会話をして進むわけにはいかない。
 山を徘徊する凶悪な魔物に見つからないように慎重かつ迅速に山越えをしなければならないのは、行きも帰りも同じであった。

「話の続きは帰ってからにするぞ」

 二人はメルヴィナとガウェイン、ワタアメの二人と一匹を抱えてグレイナル山脈へと向かうのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お飾り妻生活を満喫していたのに王子様に溺愛されちゃった!?

AK
恋愛
「君は書類上の妻でいてくれればいい」 「分かりました。旦那様」  伯爵令嬢ルイナ・ハーキュリーは、何も期待されていなかった。  容姿は悪くないけれど、何をやらせても他の姉妹に劣り、突出した才能もない。  両親はいつも私の結婚相手を探すのに困っていた。  だから受け入れた。  アーリー・ハルベルト侯爵との政略結婚――そしてお飾り妻として暮らすことも。  しかし―― 「大好きな魔法を好きなだけ勉強できるなんて最高の生活ね!」  ルイナはその現状に大変満足していた。  ルイナには昔から魔法の才能があったが、魔法なんて『平民が扱う野蛮な術』として触れることを許されていなかった。  しかしお飾り妻になり、別荘で隔離生活を送っている今。  周りの目を一切気にする必要がなく、メイドたちが周りの世話を何でもしてくれる。  そんな最高のお飾り生活を満喫していた。    しかしある日、大怪我を負って倒れていた男を魔法で助けてから不穏な空気が漂い始める。  どうやらその男は王子だったらしく、私のことを妻に娶りたいなどと言い出して――

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか〜

ひろのひまり
恋愛
生まれ変わったらそこは異世界だった。 沢山の魔力に助けられ生まれてこれた主人公リリィ。彼女がこれから生きる世界は所謂乙女ゲームと呼ばれるファンタジーな世界である。 だが、彼女はそんな情報を知るよしもなく、ただ普通に過ごしているだけだった。が、何故か無関係なはずなのに乙女ゲーム関係者達、攻略対象者、悪役令嬢等を無自覚に誑かせて関わってしまうというお話です。 モブなのに魔法チート。 転生者なのにモブのド素人。 ゲームの始まりまでに時間がかかると思います。 異世界転生書いてみたくて書いてみました。 投稿はゆっくりになると思います。 本当のタイトルは 乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙女ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか?〜 文字数オーバーで少しだけ変えています。 なろう様、ツギクル様にも掲載しています。

転生したので猫被ってたら気がつけば逆ハーレムを築いてました

市森 唯
恋愛
前世では極々平凡ながらも良くも悪くもそれなりな人生を送っていた私。 ……しかしある日突然キラキラとしたファンタジー要素満載の異世界へ転生してしまう。 それも平凡とは程遠い美少女に!!しかも貴族?!私中身は超絶平凡な一般人ですけど?! 上手くやっていけるわけ……あれ?意外と上手く猫被れてる? このままやっていけるんじゃ……へ?婚約者?社交界?いや、やっぱり無理です!! ※小説家になろう様でも投稿しています

異世界細腕奮闘記〜貧乏伯爵家を立て直してみせます!〜

くろねこ
恋愛
気付いたら赤ん坊だった。 いや、ちょっと待て。ここはどこ? 私の顔をニコニコと覗き込んでいるのは、薄い翠の瞳に美しい金髪のご婦人。 マジか、、、てかついに異世界デビューきた!とワクワクしていたのもつかの間。 私の生まれた伯爵家は超貧乏とか、、、こうなったら前世の無駄知識をフル活用して、我が家を成り上げてみせますわ! だって、このままじゃロクなところに嫁にいけないじゃないの! 前世で独身アラフォーだったミコトが、なんとか頑張って幸せを掴む、、、まで。

猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました

あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。 どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。

モブはモブらしく生きたいのですっ!

このの
恋愛
公爵令嬢のローゼリアはある日前世の記憶を思い出す そして自分は友人が好きだった乙女ゲームのたった一文しか出てこないモブだと知る! 「私は死にたくない!そして、ヒロインちゃんの恋愛を影から見ていたい!」 死亡フラグを無事折って、身分、容姿を隠し、学園に行こう! そんなモブライフをするはずが…? 「あれ?攻略対象者の皆様、ナゼ私の所に?」 ご都合主義です。初めての投稿なので、修正バンバンします! 感想めっちゃ募集中です! 他の作品も是非見てね!

変態王子&モブ令嬢 番外編

咲桜りおな
恋愛
「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」と 「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」の 番外編集です。  本編で描ききれなかったお話を不定期に更新しています。 「小説家になろう」でも公開しています。

処理中です...