幼女公爵令嬢、魔王城に連行される

けろ

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第47話 アルテミシアの脅威

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 このまま全滅するくらいだったら、アルテミシアに私の命を預けて死んだ方がマシだと思った私は彼女の言い分を受け入れることにした。
 魔王軍の魔王妃的にこの選択は正解ではないかもしれないが、人間界で生活していた時からの家臣を一人失う選択よりはマシだと思う。
 それに、私とガウェインが死んだら魔王城に残されたアリシアはどうなってしまうのだろうか。
 それを考えると、ここは一か八かで古の魔女の力を借りるしかないのである。

「わかったわ、私はあなたを信じる」

 私は体内に潜んでいるであろうアルテミシアに返答した。
 今は彼女を信じるしかない。
 というより、どう転んでも私に選択権などない以上、あくまでもアルテミシアと対等っぽい取引ができるうちにしておいた方がいいのだ。

「うんうん、それでいいのよメルヴィナちゃん」

 邪悪ではあるが、どこか嬉しそうな彼女の声が私の脳内に響く。
 そして、アルテミシアは「先代のメルちゃんもいい子だったけど、この子もいい子ね」と懐かしそうに呟いていた。
 私はその呟きを聞き、先代の魔王妃も魔力過多の「アルテミシア」だったとシグマが言っていたことを思い出す。
 もしかしたら、先代のメルヴィナもこの「魔女」を体内に飼っていたのかもしれない。

「それじゃあ、メルヴィナちゃんの身体を少しの間借りるわよ」

 アルテミシアがそう言うと、私はだんだんと身体の感覚がなくなっていった。
 それと同時に恐ろしいほどの高揚感を感じながら、私の肉体がアルテミシアに支配されていく。
 そして、全身の自由が利かなくなり私は意識だけ覚醒した状態になる。

「よし、うまくいったわね」

 私の体内の制御魔法陣をうまいことすり抜けてこれたというアルテミシアは、私の口を動かして声を出していた。
 意外にも簡単に私の身体に魔力を充填させたアルテミシアは、私の全身からあり得ないほど凶悪な魔力を吹き出す。
 そんな「暴力の塊」のような彼女に対して私は「ガウェインとワタアメは傷つけたらダメよ」と一応念を押しておく。
 まあ、彼女が暴走したらもうどうしようもないのだが。
 そのときは潔くすべてを諦めるしかないだろう。


----


 アルテミシアに私の身体の操作権が移ったところで、世界は色を取り戻した。
 そして、スローモーションだった環境も元に戻り再びウサギの持つ氷の剣がガウェインへと振り下ろされる。

「可愛いウサちゃんだけど、容赦はしないわよ?」

 私の視界はめまぐるしく動き、気づいたら氷柱を振りかざしているウサギが目の前にいた。
 全身から漆黒のオーラを吹き出している私をアルテミシアが動かしているのだが、私はどうやら地面を複数回蹴りつけて一瞬で敵とガウェインの間に入り込んだらしい。
 そして、私はノーモーションでウサギのがら空きの胴体にグーパンチを入れる。
 知覚できているのかも怪しいスピードで腹部に強烈な拳を受けたウサギは、そのまま勢いよく直線的に後ろへと吹き飛んだ。
 そして、空中を飛ぶウサギを走って追いかけ、二発目、三発目と邪悪に輝く両手で追撃を加えていく。
 ボロ雑巾のように殴られていくウサギに反撃の隙などなく、最後には宙に浮いたまま地面に向かって思いきり蹴りを入れられた。
 私に蹴りぬかれたウサギは、地面に小さなクレーターのような窪みができるほどのダメージを追う。

「ぐふっ……急になんなのね……」

 地面に倒れ伏すウサギは口からゴボッと血を吐いて瀕死の状態であった。
 勝負は一瞬である。
 というより、アルテミシアによる一方的な暴力はあっという間に終わったのだった。
 しかし、私の肉体がアルテミシアの強大な魔力に耐えられなかったのか、だんだんと足取りは重くなっていく。

「やっぱり小さい体だとこれくらいが限界かしら」

 一歩一歩ゆっくりと踏みしめるようにウサギに近づく私とアルテミシア。
 私に体の感覚はないが、全身の軋むような疲労感はなんとなくわかるのだった。
 これ以上あのスピードで戦闘をすれば、身体が千切れてしまうだろう。

「……あなた、もしかしてアルテミシアなのね?」

 そして、血まみれで足をプルプルさせながらもなんとかその場に起き上ったウサギはこちらを見ていた。
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