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第44話 ウサギ VS ウサギ

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 現状では私を守る唯一の盾であったガウェインが、ウサギの魔物によって腹部を氷で貫かれてしまった。
 地面に臥す彼からは、意外なことにそれほど多くは出血していない。
 しかし、極限まで低温になっている氷柱によって傷口が冷凍状態になっているのかもしれないと思うと大変危険な状態である。

「うへへ……」

 下卑た笑い声をあげながらのそりのそりと私に近づいてくるウサギを横目に、私はガウェインに駆け寄って彼の状態を確認する。
 彼の上体を小さな私が起こしてみるも、ガウェインからの返答はなかった。
 もしかしてガウェインは死んでしまったのだろうか?
 そんな考えが頭に浮かんできて、目には涙が浮かんでくる。
 ガウェインの身体を抱える私の腕はガタガタと震えていた。
 しかし、その震えが彼の死によるものなのか自らの死への恐怖から来るものなのかは分からない。

「もきゅ!」

 ガウェインに向かう私の背後からワタアメの威嚇する声が聞こえた。
 こちらへ向かって歩いてくるウサギから私を守るために、私よりも小さな身体で立ち向かっているのである。
 私はそんな彼女の声を聴いて、自分が今何をすべきかを思い出した。
 今はガウェインの状態を心配している場合ではない。
 敵から私とワタアメが生き延びるための方法を模索することが必要なのだ。

「あら?可愛いウサギちゃんね」

 私の前で敵を威嚇するワタアメを見て、ウサギの魔物はしゃがみ込んでワタアメに触れようとする。
 しかし、ワタアメはササっと避けてそれを回避した。
 自分と同じウサギ族のワタアメに拒絶された敵は、思いついたようにポンと手を叩く。

「そうね、ウサギちゃんも氷で刺しちゃおうかしらね」

 ニコリと笑ってそういうウサギの魔物に私もワタアメもゾクリとするのであった。
 そう呟いたウサギは、先ほどガウェインに攻撃したときと同じように早口でモゴモゴと何か口ずさむ。
 それを見たワタアメは一瞬私の方を見て「もきゅ!!」と何か声をかけて私から離れる。
 その次の瞬間、先ほどの岩がワタアメを狙って地面から突き出す。

「ワタアメ!!」

 その様子を見て、思わず彼女の名前を叫ぶ私。
 ガウェインに続き、ワタアメまで殺されてしまうと思ったら震えと涙が止まらなくなってしまった。
 しかし、そんな私の思いとは裏腹に余裕そうに岩を回避するワタアメ。
 小さくて身軽な彼女はガウェインよりも軽快に敵の攻撃をかわしていくのだった。

「この子、ワタアメちゃんっていうんだね」

 楽しそうに岩を突き出しながら喋るウサギ。
 そんな魔物は「でもワタアメって変わった名前だね~メルヴィナちゃん?」と言いながら私の方を見た。
 魔物に名前を呼ばれた私は、どうして彼女が私の名前を知っているかなんて気にすることもできない。
 ワタアメが必死に囮になっている間に現状の打開策を練らなければならないのだ。
 泣いて震えている場合ではない。

 ワタアメが私から離れていくとき、彼女は何か私に伝えようとしていた気がすると思った。
 この場合は「私が囮になるから逃げろ!」なような気もするけど、比較的聡明な彼女がそんなことは言わない気がする。
 今ここで私が走って逃げたとしても、確実に魔物はワタアメを殺して追いかけてくるだろう。
 隠蔽の魔法がかかっているうちは、いくら逃げてもこのエリアからは抜け出せない。
 ならば、今ここで逃げ出しても無駄なのだ。

「考えるのよ……ここで諦めたら私もガウェインも、ワタアメも確実に死ぬわ……」

 私が諦めたら99%くらいの確率で死ぬ状況が100%になってしまう。
 残された1%の可能性を掴み取ることを断念してはいけないのだ。
 それに、私が今ここで打開できなければシグマやニャルラだって隠蔽されたエリアから抜け出せない。
 つまり、精鋭隊は全滅してしまうというわけだ。

「ん?そういえば……」

 私はここまで考えてあることに気づいた。
 現状に怯えて小さく震えながらも、私は部隊がバラバラに分かれる前にシグマたちと話していたことを思い出す。
 そもそも作戦ではシグマとニャルラが急いで私たちのもとへ駆けつけることになっていたのである。
 つまり、作戦通りであれば彼らはもうそろそろ近くにきているはずなのだ。

「これよ、これしかないわ……」

 私はワタアメとともに時間を稼いで、シグマたちの到着を待つ以外に現状打破の方法は無いと考えるのだった。

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