上 下
29 / 91

第23話 魔王軍と邪神教

しおりを挟む

 アドルに文字を習い、魔王軍の書庫で本を読み進めていく私とアリシア。
 とりあえず目についた「人魔大戦期の魔族の暮らし」から読み始めることにした。
 慣れた手つきで本を読み進めていく私を見たアドルは「やはり読むのも早いですね」とコメントする。
 新しく覚えた文字とは言っても、慣れてしまえば別段読むことに苦労はしないのである。
 ただ私の場合、慣れるまでの速度が尋常ではないだけだった。

「ん?これって……」

 静かで快適な書庫で本を読んでいた私は、流れてくる文章の中に気になるワードを発見した。
 その言葉とは、魔王とアドルが朝食の時に話していた「邪神教」という物騒な単語である。
 邪神教の内容が気になった私は、さらに文章を読み進めていく。
 すると、邪神教とは「約500年前に起きた大戦時の天敵」であるということが分かった。

「ねえ、さっき魔王とアドルが話してた邪神教についてなんだけど……」

 私がアドルに邪神教について尋ねると「邪神教について少しお話ししましょうか」と彼は言った。
 どこからか持ち込んでいた書類のチェックを一時中断した彼は、私とアリシアに魔族の世界情勢について語りだす。

 彼曰く、邪神教とは魔王軍のような「魔族の集団」であるという。
 ただ、平和を求める魔王軍とは異なり、邪神教は「破壊と再生」を至上命題にしているとのことだった。
 すなわち、彼らは「敵となるモノをすべて破壊し、邪神教の考える理想の世界を作ろう」としているとのことである。
 ここまで彼の話を聞いた私は「なんて排他的で過激な集団なんだ……」と困惑した。

 邪神教は今から約500年前の大戦で先代の魔王軍と人間の勇者率いる「連合軍」にやられたという話だった。
 邪神教の魔物の中には「破壊活動」が楽しいという理由だけで無差別に暴れまわる連中もいたらしい。
 つまり、平和を第一目標とする魔王軍とは水と油なわけである。

「では、邪神教が復活したとおっしゃってたのは……」

 アドルの話を聞いたアリシアが緊張した表情で問いかける。
 彼女が声が書庫に響いた後、無言でアドルがうなずいた。
 そして、それに続けてアドルは喋りだす。

「ええ、真偽のほどは未だ明確ではありませんが……」

 できれば嘘であってほしいと願うアドルの顔からは、この問題の深刻さが伺えた。
 なんだか時代の節目が訪れそうな話を聞きながら、私はひとつ疑問に思ったことがある。
 「邪神教」が復活したという言葉的に考えて、最近までは「邪神教」は存在していなかったのかという疑問であった。
 これについてはアリシアも同様に気になっていたらしい。

「いえ、正確には邪神教の教祖「フェイリス」の封印が解かれたということになります」

 疑問に対する答えとして、アドルの口から新しいワードが飛び出る。
 彼らの言う邪神教の復活とは、邪神教の教祖「フェイリス」という魔物が再び世に解き放たれたということであった。
 実際、教祖フェイリスがいない間は小さな破壊活動はあったらしいが、目立った暴走行為は見られなかったらしい。
 なので、平和を望む魔王軍としても調査はしつつも関わろうとはしてこなかったという。
 だが、ここにきて事情が変わってきたというわけである。

「訓練のないタイミングで第3部隊をはじめとした斥候部隊などを使役して調査を進めているのですが……」

 ビッケ達第3部隊を派遣して情報を集めている最中ではあるらしいのだが、過去の大戦経験者が隊長しかいない第3部隊ではなかなか踏み込んだ情報が入ってこないという。
 かといって第2部隊は戦闘部隊だし、そもそもこちらも部隊長しか大戦経験者はいないらしい。
 大戦経験者は既に多くが他界しており、なかなか人材が調査に充てられないという。

「ねえ、なんで大戦経験者じゃないといけないのかしら?」

 確かに諜報活動は高度なスキルと戦闘力が必要な行為であることはわかるのだが、どうして「人魔大戦経験者」に限って人材を探しているのかがわからなかった。
 アリシアもそのことは気になったらしく「それほどまでに邪神教の魔物は凶悪で恐ろしいのですか?」と不安そうに言う。
 しかし、それに対して「いえ、そういうわけではありません」とアドルから帰ってきた返答は思いもよらないものであった。
 確かに、一部の魔物はとんでもなく強いらしいのだが、それは魔王軍とて同じであるという。
 では、いったい何が理由なんだろうか。

「実は、大戦経験者程度に邪神教の実情を知っているものでないと務まらないのです」

 それに加えて「魔物たちは頭が悪すぎて……」と零しながら頭を抱えるアドル。
 彼の悩ましい本音のようなものを聞いた私とアリシアは「あっ……」と完全に状況を察したのだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お飾り妻生活を満喫していたのに王子様に溺愛されちゃった!?

AK
恋愛
「君は書類上の妻でいてくれればいい」 「分かりました。旦那様」  伯爵令嬢ルイナ・ハーキュリーは、何も期待されていなかった。  容姿は悪くないけれど、何をやらせても他の姉妹に劣り、突出した才能もない。  両親はいつも私の結婚相手を探すのに困っていた。  だから受け入れた。  アーリー・ハルベルト侯爵との政略結婚――そしてお飾り妻として暮らすことも。  しかし―― 「大好きな魔法を好きなだけ勉強できるなんて最高の生活ね!」  ルイナはその現状に大変満足していた。  ルイナには昔から魔法の才能があったが、魔法なんて『平民が扱う野蛮な術』として触れることを許されていなかった。  しかしお飾り妻になり、別荘で隔離生活を送っている今。  周りの目を一切気にする必要がなく、メイドたちが周りの世話を何でもしてくれる。  そんな最高のお飾り生活を満喫していた。    しかしある日、大怪我を負って倒れていた男を魔法で助けてから不穏な空気が漂い始める。  どうやらその男は王子だったらしく、私のことを妻に娶りたいなどと言い出して――

乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか〜

ひろのひまり
恋愛
生まれ変わったらそこは異世界だった。 沢山の魔力に助けられ生まれてこれた主人公リリィ。彼女がこれから生きる世界は所謂乙女ゲームと呼ばれるファンタジーな世界である。 だが、彼女はそんな情報を知るよしもなく、ただ普通に過ごしているだけだった。が、何故か無関係なはずなのに乙女ゲーム関係者達、攻略対象者、悪役令嬢等を無自覚に誑かせて関わってしまうというお話です。 モブなのに魔法チート。 転生者なのにモブのド素人。 ゲームの始まりまでに時間がかかると思います。 異世界転生書いてみたくて書いてみました。 投稿はゆっくりになると思います。 本当のタイトルは 乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙女ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか?〜 文字数オーバーで少しだけ変えています。 なろう様、ツギクル様にも掲載しています。

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

異世界細腕奮闘記〜貧乏伯爵家を立て直してみせます!〜

くろねこ
恋愛
気付いたら赤ん坊だった。 いや、ちょっと待て。ここはどこ? 私の顔をニコニコと覗き込んでいるのは、薄い翠の瞳に美しい金髪のご婦人。 マジか、、、てかついに異世界デビューきた!とワクワクしていたのもつかの間。 私の生まれた伯爵家は超貧乏とか、、、こうなったら前世の無駄知識をフル活用して、我が家を成り上げてみせますわ! だって、このままじゃロクなところに嫁にいけないじゃないの! 前世で独身アラフォーだったミコトが、なんとか頑張って幸せを掴む、、、まで。

悪役令嬢になりたくない(そもそも違う)勘違い令嬢は王太子から逃げる事にしました~なぜか逆に囲い込まれました~

咲桜りおな
恋愛
 四大公爵家の一つレナード公爵家の令嬢エミリア・レナードは日本人だった前世の記憶持ち。 記憶が戻ったのは五歳の時で、 翌日には王太子の誕生日祝いのお茶会開催が控えており その場は王太子の婚約者や側近を見定める事が目的な集まりである事(暗黙の了解であり周知の事実)、 自分が公爵家の令嬢である事、 王子やその周りの未来の重要人物らしき人達が皆イケメン揃いである事、 何故か縦ロールの髪型を好んでいる自分の姿、 そして転生モノではよくあるなんちゃってヨーロッパ風な世界である事などを考えると…… どうやら自分は悪役令嬢として転生してしまった様な気がする。  これはマズイ!と慌てて今まで読んで来た転生モノよろしく 悪役令嬢にならない様にまずは王太子との婚約を逃れる為に対策を取って 翌日のお茶会へと挑むけれど、よりにもよってとある失態をやらかした上に 避けなければいけなかった王太子の婚約者にも決定してしまった。  そうなれば今度は婚約破棄を目指す為に悪戦苦闘を繰り広げるエミリアだが 腹黒王太子がそれを許す訳がなかった。 そしてそんな勘違い妹を心配性のお兄ちゃんも見守っていて……。  悪役令嬢になりたくないと奮闘するエミリアと 最初から逃す気のない腹黒王太子の恋のラブコメです☆ 世界設定は少し緩めなので気にしない人推奨。

乙女ゲームの悪役令嬢は断罪回避したらイケメン半魔騎士に執着されました

白猫ケイ
恋愛
【本編完結】魔法学園を舞台に異世界から召喚された聖女がヒロイン王太子含む7人のイケメンルートを選べる人気のゲーム、ドキ☆ストの悪役令嬢の幼少期に転生したルイーズは、断罪回避のため5歳にして名前を変え家を出る決意をする。小さな孤児院で平和に暮らすある日、行き倒れの子供を拾い懐かれるが、断罪回避のためメインストーリー終了まで他国逃亡を決意。 「会いたかったーー……!」 一瞬何が起きたか理解が遅れる。新聞に載るような噂の騎士に抱きすくめられる様をみた、周囲の人がざわめく。 【イラストは自分で描いたイメージです。サクッと読める短めのお話です!ページ下部のいいね等お気軽にお願いします!執筆の励みになります!】

モブはモブらしく生きたいのですっ!

このの
恋愛
公爵令嬢のローゼリアはある日前世の記憶を思い出す そして自分は友人が好きだった乙女ゲームのたった一文しか出てこないモブだと知る! 「私は死にたくない!そして、ヒロインちゃんの恋愛を影から見ていたい!」 死亡フラグを無事折って、身分、容姿を隠し、学園に行こう! そんなモブライフをするはずが…? 「あれ?攻略対象者の皆様、ナゼ私の所に?」 ご都合主義です。初めての投稿なので、修正バンバンします! 感想めっちゃ募集中です! 他の作品も是非見てね!

転生したので猫被ってたら気がつけば逆ハーレムを築いてました

市森 唯
恋愛
前世では極々平凡ながらも良くも悪くもそれなりな人生を送っていた私。 ……しかしある日突然キラキラとしたファンタジー要素満載の異世界へ転生してしまう。 それも平凡とは程遠い美少女に!!しかも貴族?!私中身は超絶平凡な一般人ですけど?! 上手くやっていけるわけ……あれ?意外と上手く猫被れてる? このままやっていけるんじゃ……へ?婚約者?社交界?いや、やっぱり無理です!! ※小説家になろう様でも投稿しています

処理中です...