幼女公爵令嬢、魔王城に連行される

けろ

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第11話 メルヴィナ VS 魔王

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 当代の魔王ラファエルは困惑していた。
 いや、魔王だけではない。
 食堂に集まっている魔物たち全員が首を傾げる事態であった。

「だから!!私を厨房に入れなさいって言っているのよ!!」

 小さな両手で食堂の大きなテーブルをバンバン叩く音が響いた。
 目の前で興奮した様子で叫ぶのは、昨日魔王城にやってきた「花嫁様」である。
 しかし、その姿は気品溢れる「公爵令嬢」ではなく、ピーチクパーチク五月蠅いただの「駄々っ子」であった。

 昨日の夜、謁見の間で魔王に殺気を向けた時もそうだが、メルヴィナは興奮すると周囲を圧倒する程の量の魔力が全身から噴き出すようである。
 これは「エルメリア王国」にいた時には隠れていた才能であった。
 そもそも、興奮してキレることなどとは無縁の生活であったためでもあるのだが。
 しかし、ここにきて二日連続で怒りを爆発させている幼女がいる。

「アリシア殿、メルヴィナ様は何故怒っているのでしょうか?」

 魔王とメルヴィナから少し距離を置いた位置で、アドルが困惑した様子でアリシアに聞く。
 苦笑いのアリシアは「お嬢様は、料理のプロですからね……」と言いながら肩を落とす。
 騎士であるガウェインは主人の暴走を止めようとしているが、彼女から溢れ出る魔力にビビってあたふたとしていた。


----


 事の発端は、魔王ルシフェルの一言であった。

「メルヴィナよ、もっとよく食べろ。流石にその小さな体では我が子を産ませられない」

 生前の私の感覚的にトリプルアウトでチェンジといった暴言をさらっと吐く魔王。
 彼のその発言に、私のこめかみ辺りで何かがプチンと切れる音がした。
 無言で佇む私の周囲の空気が黒く染まっていく。
 比喩なんかではなく、文字通り黒いオーラのようなものが現れているのだ。

「魔王様、お言葉ですがこのような「質素」な食事では「成長」など難しいのではないでしょうか?」

 ましてや「豊かな国」など作れるはずもありませんと言外に伝える私。
 「粗末」な食事とは決して言わない。
 そのような物言いは、この料理を作ってくれたシェフ達に申し訳ないからだ。
 猫ちゃんの口ぶり的にも、魔物たちは料理に満足しており、料理人たちも精一杯作っていることは伝わってくる。
 ならば、この怒りは責任者である魔王にぶつけるべきなのだ。

「ほう?小娘如きが王である俺を愚弄するのか?」

 魔王も気が短いようで、メルヴィナの挑発に真正面から答える。
 二つの巨大な魔力がぶつかり合う様子に、食堂のあちこちから食器がカタカタと揺れる音が鳴った。
 アドルが「魔王様!落ち着いてください!」と言うも、無言で威圧の魔力を強めていく魔王。
 対する私も彼に一歩も譲る気はなかった。

「ええ、あなたには何も見えていないわ!こんな愚王の妻になんかなるわけないでしょ!!」

 もはや敬語もなくなり、タメ口で口喧嘩に発展する私たち。
 魔王城に連れてこられた成り行きから、威圧的な魔王の態度、その他細かい気に入らない点などについて言及していく私。
 それに対して反論を重ねる魔王。
 会話のドッジボールは短い時間ではあったが、周囲の人間には無限の長さに感じられた。

 だんだんとお互いに言うこともなくなってきたのか、言葉に勢いを失ってくる。
 そのタイミングでうまく周りの者たちが会話に割り込んできた。

「お嬢様、結局魔王様に何を伝えたいのでしょうか?」

 アリシアがうまいタイミングでこの空間にパスを出した。
 アドルもその絶妙な空気を読み取って「それは私も気になりますね」と流れを変えるのに一役買う。
 さすが公爵家の一流メイドと魔王軍宰相である。

 こうして話は冒頭へとつながるのだが、ここからまたもう一悶着あった。


----

「ああ、もう好きにしろ」

 私のゴネに根負けした魔王は、面倒くさそうな様子でパタパタと手を振る。
 周囲では「ようやく終わったか……」と安堵の声が聞こえてきた。
 それを合図として、食堂のあちこちから食器を片付ける音が聞こえてくる。

「やったわ!」

 食堂での激闘の末、私は遂に「厨房へ出入りする権利」を魔王からもぎ取った。
 それはすなわち、魔王軍への「食事に対する要望」が可能になったということである。
 厨房に入れるようになって喜んでいる私は、おもちゃを買ってもらった子供のようにはしゃぐ。

「それじゃあ、早速厨房へ行きましょう!魔王軍のコックさんたちにも直接話を聞いてみたいわ!」

 さきほどまでの凶悪なオーラはすでになく、楽しそうに笑う私。
 そして、食堂で朝食を食べていたコックたちは、メルヴィナの興味が自分らに向いたことに気づきビクッと震えるのだった。



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