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397.一齣

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 惹かれ向かった本棚。
 そこで一冊を手に取ると隠し扉内へ入り歩き進んだ、ジャニスティ。大切に抱いていたのは――『花の舞う言葉たち』との本だった。それが今、彼の目の前でキラキラと光輝くベリルの右手と共に煌めき、微弱の光を放つ。



(これは……)

 最終的に開かれた頁を見た彼の天色の瞳には、力が入る。顔色は変えないものの内心、とても驚いていた。

 ベリルはそんな彼を気にも留めず淡々と話し、そして尋ねる。

『この本は、私のお気に入りでした。本当に素敵で、花たちの声が聴こえてきて……どのような植物も、優雅でとても美しく、水を浴びて嬉しそうに揺れる。その舞いは心に悦びとゆとりを持たせてくれるようで……』

「私も、そう感じます」

『ふふ、ありがとうジャニスティさん。ところで、あなたがご覧になりたかった“マリーゴールドの花”は、これかしら?』

「そう……ですが、ベリル様? 何故、これだと」

 “ニコッ――”

「――っ?!」

『ふふ。どうしてでしょう……なんだかそんな気がしたのです』

(まさか! そのような偶然があるだろうか)

『たくさんのお色があり、そして様々な花言葉が。そう……この世にある生命すべてに意味があります』

 ジャニスティの言葉に優しく笑いかけ話す彼女の視線は再び本へ向けられ、その絵を指でなぞるように撫でる。

 そこに描かれているのは美しく鮮やかな色彩の“オレンジ色のマリーゴールドの花”。ジャニスティが昨晩の会合後から寝ずに探し続けていた花である。そこには知りたかった情報が数頁にわたり詳細に、記録されているのだ。

(私が何を知りたいのか、お見通しだと。そう貴女は仰るのか?)

 “ふわぁ~……”

『教えていただけますか?』

 思案する彼の心の隙間をふんわりとした風が、吹き抜けてゆく。そこからは先程までとは異なる、ベリルの深みある声と真剣な眼差しはまるで劇中の場面が一齣ひとこま変わるような感覚であった。

「はい……ベリル様がお望みであれば、何なりと」

『ありがとう。では、ジャニスティさん。貴方はなぜ、このお花についてお調べになっているのでしょう』

「それは……」

 この時、彼の脳裏に過ぎったのは――すでにベリルは全て(スピナの長きに渡る悪行)を悟っているのではないか? との考えだった。

 だとしてもベリルには自分が知る限りの情報を伝えそして何が真実かを明らかにするため彼女からは、“花について”聞く。

 その義務が自分にはあるとのだという答えに辿り着いた。
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