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348.魔毒
しおりを挟むしかし、やはり。
あの密会を発見した瞬間から彼の心の中は嫌悪感で、いっぱいなのだ。
「ジャニー、よいか? このような重要な話を自らすると決めた以上、自我を見失うことは許されない。肝に銘じ、冷静に述べよ」
「はい、申し訳ありません」
師であるエデは厳たる態度でジャニスティへ自らの行動を律することを、教育してきた。今もそう『大事な時だ、間違うな』と心奥深くへ響かせる声でエデは釘をさす。
「二人ともすまない。ジャニー、続きを聞いてもよいかね」
オニキスは変わらず無表情で、訊ねる。その言葉に頷くジャニスティの瞳は鋭く真剣な眼差しに変化し「では改めて」と当主を見つめ、話を再開した。
「愛する奥様を失い、憔悴しきっていた旦那様へ、ベリル様の良き友人としてスピナ様は貴方へと近付き、慰めたと言っていた。そして警戒が緩んだほんの一瞬、貴方は心の隙をつかれ、彼女から――ある毒を盛られたようです」
「……毒?」
「えぇ。それはどうやら、彼女が特別に調合し作った媚薬効果のある魔法が施された媚毒――いわゆる“魔毒”によるものです」
「彼女は……スピナは自分の持つ力を我々に話すことは無かった。そのような力があったとは」
「私も、これまでスピナ様の魔力がどの程度で、どのようなものなのか? 全く知り得ませんでしたので」
――ただ一つ。
(お嬢様への異常なまでの態度も含め、私はあの女には不快感しか抱いたことがない)
ふと、ジャニスティは声に出せぬ思いを心の中でそう呟いてしまう。
「私も、同じく。スピナ様には専属御者の方がおられます故、あまり関わらなかったのですが。ふむ……その“毒”の話、少々気になりますな」
エデは顔色を変えず様々な視点から相手の正体、目的を推測し考え始める。
「続けますが、彼女の創作だというその魔毒には――『自分を愛するように』との恐ろしい“魔法の言葉”を混ぜ、何らかの方法で貴方へ刺したと思われます。そうして、自分の言う事を黙って聞くよう仕向け、操ってきたのだと」
「なんという……」
ジャニスティの話にオニキスは口に手を当て言葉を失う。これまでなぜ? 自分が厳しく彼女へ言えないのか、アメジストへの異常な躾にも口を出せなかったのか。自身の理解できない行動の原因が今はっきりと見えていた。
「まさか、そこまで卑劣な手段を……信じられませぬな」
横に座るエデもあまりの衝撃的な事実に「んんー」と唸る声を出し腕を組むと、天井を見上げていた。
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