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302.境遇

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「共に生きてゆこうと決め、一緒になる時。幸せなはずの二人は互いの寿命に差を感じ、そして葛藤し続け、変えることの出来ない運命に……選んだはずの“幸せの結末”に……」

 それから数分間――ふぅっと息を整えるような吐息で黙りこくる彼女の瞼からのぞいたのはうっすらと光る、濃赤の瞳。それは消しているはずのノワの“気”が流れ出ている証だ。

 それからしばらくして彼女の視線は夜の空へと――。

 煌めく星とその傍らで浮かぶ月へと笑むように顔を向け眩しそうな表情で、目を細める。

「……」
(話を聞いているだけで、その者たちの切なさが伝わってくるようだ)

 サンヴァル種族の辛い生来と、境遇。この時、彼の頭にはスピナが吐き捨てた『血塗られた』との言葉が、ぎる。

「皆、苦しみ……もがいて」
 遅れて発せられた、ノワの声。

 しかしそれから続いた静寂はなぜか彼の心を、落ち着けていく。

 見上げた月からすーっと降りてくる光のリボンに導かれるように彼女は夜空へと、手を伸ばす。肩から落ちたそのあでやかな黒髪は美しく、サラリとなびき、感じた思い。

(あれは……)
 彼は、息をのんだ。

 その理由は今、目の前に立つ彼女の背中にエデが持つ漆黒の翼が見えてくるような錯覚をしたからだ。

「それでも。愛する彼らは最後まで傍にいたいと願い、一生添い遂げると誓い合う。そう決意した瞬間から、別れが来ることを常に念頭に置いて……深く、そして重く。お互いに強い意志と覚悟を持って、生き続けなければならないのです」

「覚悟……そうだな。しかし、その話と君の出生が隠されていたことと、何の関係がある?」

(この街にいる者が皆、仲が悪いという訳では決してない。だが確かに、種族が違うというだけで見えない距離感を感じることは、多々ある)

――だからこそ私は、驚愕したのだから。

 それは彼の人生を変えたあの夜、初対面のオニキスから連れられ初めて行ったエデの酒場。そこで見た“互いに別け隔てなく話す”他種族たちが楽しそうに酌み交わす光景が、信じられなかったことだ。

 他国ではこの街(地域)よりもっと他種族同士がバランスよく暮らし互いに交流を深め、平和な生活を送っているとジャニスティは聞いていた。

 しかし彼も実際、他の地域や国へ行き自分の目でその光景を確かめた訳ではない。そんな、かぜの噂のような話や彼が単に人より長く生きている間に学んできた知識など。

 それはどこからともなく耳に入り知った、情報ばかりである。
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