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204.温情

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「店主、落ち着いて下さい。ここで何かを起こせば、あの商人の思う壺です」

「あ、あぁ。エデさん……か。あぁ……私は」
「さぁ、しっかり! 大丈夫ですよ、お心を強く持って」

 キラッ(『カルメ』)――。

「温かい……手だな」

「貴方の心は邪悪になど負けない、そう強いお方だ。思い出して下さい……この街で、皆が毎年楽しみにしている今日は、輝き溢れる祭典の日ですぞ」

「あぁ、綺麗な光を。そう、そうだ、大切な今日という日を――それなのに私は今、一体何をしようとして……」

 自身の行動が信じられない店主は他人を見るような気分で、一驚を喫していた。まるで自分の中に別人でもいるのではないかという恐怖とその顔は真っ青になりながら、その場に座り込む。

「貴方は何も悪くない、気になさるな。恐らく幸せの溢れるこの素晴らしき祭典を壊すこと。それがあの商人が此処に来た、目的なのかもしれませぬ」

「そうか……あんたが止めてくれて助かったよ。ありがとう、エデさん」

 小さく彼にだけ聞こえるように呟いたエデの話を聞いた店主は項垂うなだれたまま悲しそうにかすれた声を出すが決して、上を向くことはない。

 店主はエデの言葉を受け自分が誰かを傷付けそうになったのはカオメドの言葉に操られていたものだと理解し今の状況にも、納得はしていた。しかしそれでも自分の行いに罪悪感を感じ、苦しんでいたのである。

(へぇ~? あの老いた執事以外にも、厄介者がいたとは驚きですねぇ)
「素晴らしいですよ……仲間とは、本当に素敵だ」

 チラッと目だけで状況を見たカオメドはボソボソと、独り言を言う。そしてニヤッと笑む表情にはまだまだ心の余裕が、見えていた。

 一瞬のまばゆい光はエデが腕を掴む店主の瞳にだけ輝きを、与える。彼は怒りに任せカオメドに飛び掛かろうとした瞬間をエデは見逃さず、止めに入ったのだ。そのすぐ後、隠すことなくエデは自身の力を使い――『落ち着き、鎮めよ』との魔法を心で唱え店主を我に返らせ、助けた。

 エデの的確な判断でこの場は、事なきを得る。

 ここでオニキスはカオメドへの情けを捨て語気を強めながら、話し始めた。
「カオメド君。あまり我々の事を、軽く考えない方が良い」

「いーえいえ、そんなつもりは。まぁ、しかし! 良かった、良かった!! こうして許可証の確認も終わったわけですし、僕も正式に此処で店を出せるってわけですね?!」

 周囲のざわつきが増す中で笑顔で答えるカオメドに皆の視線は、釘付けだ。

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