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202.演劇
しおりを挟む「あぁ~何ということでしょうか。僕はただ、この街で平和に過ごす皆様にぜひ! 素敵なお召し物を着て頂きたくて。出店をしようと思っていただけだというのに!!」
まるで悲劇の主人公のように自己憐憫な振る舞いで大きく動き回るカオメドの瞳はギラっと光り、ふと目が合った相手。
その瞬間に右口角だけ上げ妖しい笑みを、見せる。
「あ、あんた! 嘘だったのか!? ベルメルシア様と取引があるって――」
視線がぶつかったのは洋服店の店主であった。彼は皆に責められる原因となったカオメドへ憤慨し、なぜ? 自分がそんな勝手をしてしまったのか理解できないという自責心に真っ青で冷や汗をかき顔を、歪める。
(ハハッ、思う通りに進むねぇ)
その怒る姿にしめしめとカオメドはさらに大きな身振り手振りで周囲の者たちを、煽り続ける。
「そんな~、店主! 僕はあなたに『恐らく取引が出来る』と、きちんと申し上げたはずですよ?」
「そ、そんなはずは――」
「嫌ですねぇ。この期に及んで何を仰るかと思えば……なるほど! やはり、よそ者は仲間外れということでしょうか!? このような疑いをかけられるなんて」
「私は、聞いて……いないぞ」
(だが、発行時は私とこの男の二人だけ。これでは、証拠がない)
店主は心の中でそう気付き、弱気になる。水掛け論になっていく中でカオメドの自信満々な態度は相手の自信を喪失させ、自身を優位に立たせるのだ。そのため普段声を荒げることが滅多にない優しく穏やかな店主はすぐに、意気消沈してしまった。
ざわざわざわ……。
『何だか、すごいわね。あの人』
『圧倒されちゃう、というより聞き入ってしまうわ』
両手を広げ悲しみを表現し胸を押さえる彼の芝居に周囲はまるで演劇を観ているかのような、気分になっていた。
そうして皆から警戒心を解くことは簡単だと言わんばかりの自負を持った彼の顔に、悪びれた様子はない。
「あぁー! 僕の心は悲しみに暮れています」
堂々とした態度で信じられない程に流暢な話しぶり。そして悲嘆の思いをわざとらしく言いながら頭を抱えるカオメドの姿にオニキスとフォル、そして後ろに待機するエデさえも経験のない、不気味さを感じる。
――この男は、私がこれまで生きてきた長い人生の中でも。
「一番、危険なようだ」
この場にいる誰よりも長い時代を越えてきたであろうエデの、直感。その身体に流れ張り巡らされるサンヴァル族の血と魔力が重大さを強く知らせ、頭と心へと伝ってきた。
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