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201.避役

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 出店しゅってん許可証をヒラヒラとさせながら不敵な笑みを浮かべるカオメドの動きにオニキスはさらに不信感を、抱く。
 そしてある答えに至りフォルにだけ聞こえる声で、呟いた。

「フォル」
「はい」
「彼は恐らく、商談時に見せた光……“あの魔力”を使っている」
「はい、仰る通りかと」

――オニキスがそう言うのには、理由がある。

 カオメドの言う“品出しをしている人”とはオニキスも良く知る人物であり、アメジストに新しい服飾を見繕ってやろうとの話を執事フォルと考えていた洋服店の、店主なのである。その店主が他の祭典運営者やオニキスに何の相談もなく独断で、しかも全く見知らぬ相手カオメドに許可証を出すなど皆の信頼を欠く行為をするとは、思えなかったのだ。

 その場に流れる冷たい空気は賑わう祭典の始まりを一時、静まり返らせる。

 何を言おうと動じそうにないオニキスの姿にカオメドはひるむどころか頬を赤らめる程の高揚感と、興奮状態。子供騙しなあおりではオニキスの感情を揺らがせる効果はない、通用しないことを改めて思い知る。そして彼の顔は一瞬で冷たく凍るような無表情に、変化した。

『あの商人、許可証を持ってるぞ』
『では、ベルメルシア様が言っていたのは?』

 沈黙が続くオニキスとカオメドの様子は寄り付けない程の、威圧感である。

 そのため一定の距離を保ち、取り囲んで話していた街の者たちであったが「どちらが正しいのか?」と悩み自然と発言に力が入り始めた。

「でも見て。あの、いつも温厚でお優しいベルメルシア様が、怒って言ってるのよ?」
「もしかして、あの許可証、偽物じゃないの?」
「いや、でも確かにあの紙は……」

 先程までひそひそと話していた者たちは次第に声量が、大きくなる。その疑問の詰まった皆の思いは一気に膨れ上がり視線は洋服店の店主へ向けられた。

「なぁ! どういうことだい?」
「ハッ!? あの、昨夜あの人が来て……その」
「どうして知らない奴に! 身辺調査もなく許可したんだ」
「いや、あの人が『ベルメルシア家と取引がある』と言うから……」

 聞こえてきた彼らの会話にオニキスは無言でゆっくりと、瞬きを一回。
 その動作を確認したフォルはさらに警戒、警護を強める。

(さすが、ですねぇ。ベルメルシア家の当主さ~ん)
「よーく、お仲間をいらっしゃる」
 ボソッと呟き視界に入る景色を愉快そうに見つめるカオメドの冷たい眼は再び、ニヤリと笑みを浮かべ「仕上げに」と、ゆっくりとした口調で話し始めた。
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