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196.不平
しおりを挟む「ちょっとそこ! 私の歩きを止めさせる気!? さっさと扉を開けなさいよ!!」
入口へ向かうスピナはわざと地響くようなヒールの音を立て、カツカツと歩く。そして扉前で開閉のため待機していたお手伝いを睨みつけながら肩を小突くといつもの圧する声で急いで開けさせ、部屋から出て行った。
スピナから発せられる様々な音以外は、静かである。その扉が閉まる瞬間まで皆、気を抜くことなく深いお辞儀で彼女を見送った。
――ギィィー……バタン。
『もう嫌。どうして、いつもあんな風に言うの?』
『そうよ、私たちの事、そんな馬鹿みたいに』
『旦那様も、いつまであのままでいる気なのかしら』
『シーッ!! ノワ様に聞こえるわよ』
スピナが部屋からいなくなったことを確認すると珍しく、不快感を露わにコソコソと話してしまう、数人のお手伝い。これまで心奥底に秘め押さえつけていた本心であろう、不平を鳴らし始めた。
加えてベルメルシア家当主であるオニキスについても「何故? いつも奥様の我儘を放置し続けているのか」という旦那様の理解不能な行動への疑問が、沸き上がる。
咄嗟に止めに入った一人の声も含め、聞こえているのかどうなのか? ノワは顔を上げるといつも通りの変わらぬ表情で向き直り、部屋にいる者全員の耳にスーッと響く声で指示を伝え始めた。
「皆さん、申し訳ありません。私はこれから席を外しますが――」
お手伝いたちに淡々と、本日中に完了させる予定の指示をする。それは夜の食事時間までにという極めて、無理難題な内容であった。
「以上です、ご質問は?」
「……」
何も言えず静まり返る部屋。
その沈黙を破ったのは――。
「えっと。恐れながら、ノワ様。あの、少し時間が足りない気もしますが」
終わらなかった時のため思い切って発言をしたのは、ラルミである。
「出来れば全て、終わらせて頂きたいです」
「し、しかし! 皆、通常の業務もありますし。もちろん! 精一杯……」
「ラルミさん」
意見を返そうとした彼女の声を遮るようにノワは、口を切る。そして最後に、ある言葉をかけた。
「ジャニスティ様が、後に手伝いへいらっしゃるとの事でしたので。それから皆さんに、私個人から一言申し上げたいことがございます――」
ザワ、ザワッ!!!!
「な、まさか、そうなのですかッ!?」
「俄かには信じがたい……ですが」
スピナ専属お手伝いであるノワから聞かされた、突然の話。
それは皆が驚き目を見開くような、衝撃の内容であった。
◇
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