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183.派手
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皆が寄り付かない不穏な空気漂う裏中庭で密会をしていたスピナとカオメドは、奥様付きであるノワが呼びに来たことでしばしの別れとなる。
「奥様、ここまでお送りいただき、ありがとうございます」
「まぁそんな! カオメド様。これくらい当然ですわ」
屋敷を出てしばらく歩いた場所に位置する、ベルメルシア家の美しい門の前にはカオメドの迎え馬車が、待つ。別れが名残惜しいのかスピナは外まで付いていき、手を振る。
「なんと奥ゆかしい、やはりあの有名ベルメルシア家の奥様ともなると、格が……気品が違います」
「オッホホ、いやですわぁ。カオメド様ったら」
二人の関係はまだ知られてはならない――周囲にいるお手伝いたちや門番へお決まりの台詞を聞かせながらもそのスピナの視線は、愛を語る。
「では奥様、また……」
「えぇ……またぁ」
ギィー……。
開かれた馬車の扉、中からフワリとなびくレースのカーテンを見たスピナは改めて、キャビンを確認する。
「ほぉ~んと、きらびやかで素晴らしい馬車。ねぇ、そこのお前、そう思うでしょう?」
「ひっ――ッ?! ぅ、はい、奥様。きれ、いです」
入口で客人の見送りをしていたお手伝いは突然、スピナからの問いかけに動揺するが何とか、答える。そのご機嫌だが圧のあるスピナの言葉と鋭い視線はやはり、皆の恐怖そのものであった。
「お前……え~っと、ごめんなさぁい? 名前も知らないんだけど――アメジストと違って私、使用人のことなんて覚えてられないのよねぇ」
そう嘲笑しながら頭に手を乗せられたお手伝いの顔は顔面蒼白、消えそうな声で返事をする。
「ぃ、ぃぃぇ……」
「ンフフ、良い子ねぇ。お客様の馬車は『キレイ』のお答え、よ~く出来ました」
「あ、あぅ、恐れ……入ります」
その馬車がもし横を通れば気付かぬ者はいない、振り返らぬ者はいないだろうと言う程にギラギラと宝飾をあしらい、人目に付く御者の服装から馬の手綱までもが、派手に飾られていた。
(私の横で微笑むべき男は顔も資産も必要だけど、やっぱり見た目こうでなくてはねぇ)
『奥様、次は必ずご一緒しましょう』
『なんて魅力的な言葉なのかしら? 嬉しいわぁ』
コソコソと話した後カオメドを乗せた馬車は出発。軽い会釈で笑い見送るスピナへ右手を挙げた彼もまた笑顔で、ベルメルシア家の屋敷を後にした。
◇
ちょうどその頃、カオメドたちとはまた別の出入り口から出掛けるオニキスは迎えの馬車――御者のエデと話をしていた。
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