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182.深奥
しおりを挟むジャニスティの生きてきた、過去。
人族よりも成長が三倍遅いとされるサンヴァル種族である彼が、得た教訓。それは“いついかなる時も冷静沈着”でいること。状況に応じて時には冷酷に――自身の心を殺し隠す術も、求められる。
そんな血も涙も感じないような者たちとばかり関わり生きてきた悲哀が彼の人格の多くを占め、それが当たり前だった。
終幕村で命の灯火が消えるのをただ待つだけだと息をしていた彼にとって、幼く無垢な少女――アメジストとの出会いは眩しすぎる、光。暗い闇の中を彷徨い続けた彼の人生はベルメルシア家のお嬢様付きとして従事してから、変わる。
身も心も透き通った美しい水に、浄化されるように。
彼は、変わっていったのだ。
そして今は可愛い妹となったクォーツと触れ合い、この満たされるような感情と自分の柔らかさが以前とあまりにも違い当然ながら、困惑していた。
(まさかこの私が、このような感情を持つとは)
「自分じゃないようだ、な」
ふわぁ~ッ!
「ねぇ、お兄様。これからどこかへ行くのですかぁ?」
「――んっ……あぁ」
ぼーっと自分の事について考えていたジャニスティはクォーツの声でハッと、我に返る。現実へ引き戻された瞬間これから先、この屋敷で起こると考えられる数々の事柄や予測される難題に自分がどう立ち振る舞えばベルメルシア家を護り、解決できるか。
「ん~んん? なうゅふ~?」
悩み考える固い彼の顔を覗き込み質問をしてきたその笑顔は心を安らげ、可愛くて仕方がない。感じるままに眉尻を下げ申し訳なさそうな表情でクォーツの言葉に、答えた。
「フフ……君は本当に。しかしクォーツ、すまないがこれから私はたくさんのお仕事があるんだ」
「お仕事! 分かるのです♪ んと、んーと“すまない”は“ごめんなさい”なのですか? そんなことないのです!」
ジャニスティは傍にいてあげられないことにきっと寂しく悲しいとまた、泣くのではないか? そう心配していたが以外にもクォーツは明るくぱぁ~っと花が咲くような満面の笑みで、ルンルンと返事をする。
(旦那様が初見で、クォーツの愛らしさの虜になるのも、納得だな)
「そう、ごめんなさいなのだが……はは、楽しそうで良かったよ」
「ハイ! もっとお勉強して、お姉様とお兄様と! みーんなで遊んだり、お話できるようになりたいのです!!」
微笑むジャニスティは自分の奥に眠る様々な“心”が今、目覚めてゆくことに幸せすら、感じていたのだった。
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