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176.実感
しおりを挟むオニキスたちが書斎を出た、ちょうどその頃――。
カチャリ――ガチャッ……キィ。
急ぐジャニスティは自室へと、到着していた。
まだ眠っているかもしれないクォーツを起こさないようにゆっくりと鍵を解錠し、扉を開くと!!
タッタッタッ――“ぱふっ!”
「んっ!?」
「うっふぁわゅん! お兄様ぁ、みーっけぇ!!」
「あぁ、驚いたよ」
「ウフフ、わーい」
(良かった、クォーツ。笑って……とても元気そうだ)
部屋の外、通路を歩いてくる靴音で兄のジャニスティだと気付いたクォーツはこっそり扉近くに、隠れる。そして部屋へ入ってきた彼の背中へと思いっきり飛び乗り、勢いよく首元に抱きついたのだ。
一驚を喫した、ジャニスティ。
彼はこの時クォーツの気配に全く気付けず一瞬、警戒する程だった。
しかしすぐに可愛い妹の悪戯だと分かりその小さな身体を両手で抱え上げ、お姫様抱っこでクォーツの顔を見つめる。
彼の表情はどこか不安気だった。
この屋敷に来てからずっと側にいる彼が、解る範囲でのクォーツ。身体に異常はないか、体温や顔色、キラキラと潤み輝く美しい瞳までも変わりないかとクォーツの状態を注意深く、診る。
「になふぅ~♪ これ、楽しいのです!」
「……ん?」
集中するジャニスティの心に響く可愛らしい“声”。一体これのどこに喜ぶことが、『楽しい』とは何のことかと、少し首を傾げその言葉を考える。
「るなぅ~なっふあぁ~♪」
その間、嬉しそうに足をパタパタさせ楽しそうに歌うクォーツを見てジャニスティは自分の悩みは大したことではないと思え、全ての不安が消えてゆく、不思議とその心は軽くなっていくような感覚を、覚える。
そして――。
「なるほど」
どうやらクォーツの『楽しい』は――抱っこされ高い位置に持ち上げられていることのようだと気付いた。
(クォーツの無邪気さには、心が救われるようだ)
自分の腕の中でいつまでもキャッキャと笑って喜ぶクォーツの姿に眉を下げると目を細めフッと、微笑んだ。
――『私たち三人、身体の中から繋がっているんだわ』
ふと、アメジストの言葉が彼の頭を、過ぎる。
「“まるで家族”……か」
――そう、私にとって二人は。大切な存在だ。
「んあぅ、そうでした! えーと……お兄様ぁ、お帰りなさいませ~!!」
「あぁ……うん、ただいま」
震え苦しんでいた馬車の中での時間が嘘のようにクォーツの調子は、良さそうである。その幸せに笑うもちもちふわふわの頬は、桃色に染まっていた。
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