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167.媚毒
しおりを挟む先程までスピナの顔色を窺い慎重に話を進めていたカオメドは突然、躊躇うことなく率直に――質問を始める。
「いやぁ~気になります、スピナ様!! それでその、オニキスさんに仕込んだ蜜というのは、一体?」
「やぁね、急に惚けたような言い方しちゃって。あなたなら解るでしょ? オグディア」
「いえいえ! 僕のような勘の悪い男には到底。本当に解らない! ですからぜひ、スピナ様が持つ魅惑の秘密を――」
ご機嫌取りな言葉を言うカオメドはスピナの目をじっと見つめ、離さない。それでも当然動じることのない彼女に、にこりと笑いかけた。
「あら、随分と積極的ね」
「えぇ、僕に貴女の全てを教えてほしい」
少しだけ不機嫌な予兆を匂わせる彼女の表情に気付いてもカオメドは気にも留めず、言葉をかける。その態度はわざとらしく聞きだそうとしているのが見え見えであった。
しかしその気持ちの良いくらいの爽やかな笑顔と声色の彼にスピナは逆に魅力を感じ惹かれ、心を許してしまうのだ。
「いいわ、教えてあげる」
「あぁ、嬉しい! 幸せですよ!!」
私の魔法は高いわよといいながら次にスピナから発せられた、言葉。
「もう、大袈裟ねぇ……仕込んだ蜜。それは――“媚毒”のこと」
◆
【媚毒】
それは彼女が育てる自身の花で作った媚薬――魔毒のことである。一歩間違えば致死量になるというその魔毒は彼女が最も得意とする草木花を悪用した魔法である。
スピナは自分が持つ魔力について周囲にはほとんど話さず、隠している。
◆
「では、オニキスさんはその魔法の毒力によって!?」
「んっふふ、そうよ。ベリルが死んで、身も心も弱り切ったところのオニキスに声をかけたの。『ベリルの良き友人』として、慰めるふりをして近付いたわ」
(な、何を言っているんだ……こいつは、何を!?)
隠れて話を聞くジャニスティは彼女の口から発せられる一言一言が信じられずそのたびに声を抑えるのに、必死だ。
「そして彼が……オニキスが少しだけ警戒を解いて、やっと瞳を見て言葉を交わしてくれた、あの日。この“私だけを見るように”と、魔法を」
「それで彼の思いを操り、自分を愛するように仕向けるとは……貴女は本当に素敵だ! なんと素晴らしい力!!」
自慢気な表情で話すスピナへ称賛の声で敬意を表すカオメドの声は、舞い上がっていた。そしてどことなく、嬉しそうである。その反応に満足した彼女はこれまで誰も知り得なかった情報を――驚きの真実を、話し続ける。
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