上 下
167 / 255

167.媚毒

しおりを挟む

 先程までスピナの顔色をうかがい慎重に話を進めていたカオメドは突然、躊躇ためらうことなく率直に――質問を始める。

「いやぁ~気になります、スピナ様!! それでその、オニキスさんに仕込んだ蜜というのは、一体?」

「やぁね、急にとぼけたような言い方しちゃって。あなたなら解るでしょ? オグディア」

「いえいえ! 僕のような勘の悪い男には到底。本当に解らない! ですからぜひ、スピナ様が持つ魅惑の秘密を――」

 ご機嫌取りな言葉を言うカオメドはスピナの目をじっと見つめ、離さない。それでも当然動じることのない彼女に、にこりと笑いかけた。

「あら、随分と積極的ね」
「えぇ、僕に貴女の全てを教えてほしい」

 少しだけ不機嫌な予兆を匂わせる彼女の表情に気付いてもカオメドは気にも留めず、言葉をかける。その態度はわざとらしく聞きだそうとしているのが見え見えであった。

 しかしその気持ちの良いくらいの爽やかな笑顔と声色の彼にスピナは逆に魅力を感じ惹かれ、心を許してしまうのだ。

「いいわ、教えてあげる」
「あぁ、嬉しい! 幸せですよ!!」

 私の魔法は高いわよといいながら次にスピナから発せられた、言葉。
「もう、大袈裟ねぇ……仕込んだ蜜。それは――“媚毒びどく”のこと」



媚毒びどく
 それは彼女が育てる自身の花スピナで作った媚薬――魔毒のことである。一歩間違えば致死量になるというその魔毒は彼女が最も得意とする草木花を悪用した魔法である。

 スピナは自分が持つ魔力について周囲にはほとんど話さず、隠している。



「では、オニキスさんはその魔法の毒力によって!?」
「んっふふ、そうよ。ベリルが死んで、身も心も弱り切ったところのオニキスに声をかけたの。『ベリルの良き友人』として、慰めるふりをして近付いたわ」

(な、何を言っているんだ……こいつスピナは、何を!?)
 隠れて話を聞くジャニスティは彼女の口から発せられる一言一言が信じられずそのたびに声を抑えるのに、必死だ。

「そして彼が……オニキスが少しだけ警戒を解いて、やっと瞳を見て言葉を交わしてくれた、あの日。この“わたくしだけを見るように”と、魔法を」

「それで彼の思いを操り、自分を愛するように仕向けるとは……貴女は本当に素敵だ! なんと素晴らしい力!!」

 自慢気な表情で話すスピナへ称賛の声で敬意を表すカオメドの声は、舞い上がっていた。そしてどことなく、嬉しそうである。その反応に満足した彼女はこれまで誰も知り得なかった情報を――驚きの真実を、話し続ける。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

聖女の魅了攻撃は無効です

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:2,365pt お気に入り:35

南洋王国冒険綺譚・ジャスミンの島の物語

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:455pt お気に入り:6

婚約者の義妹に結婚を大反対されています

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:43,431pt お気に入り:5,000

王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:24,719pt お気に入り:7,091

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:170pt お気に入り:9,958

私が異世界物を書く理由

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:221pt お気に入り:4

魯坊人外伝~魯坊丸日記~

SF / 連載中 24h.ポイント:391pt お気に入り:4

天に掲げよ!懸かり乱れの龍旗を!〜もし上杉謙信が天才軍師を得ていたら〜

歴史・時代 / 連載中 24h.ポイント:127pt お気に入り:338

処理中です...