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166.毒心
しおりを挟むすると辺りには異様な雰囲気が、漂い始める。
(この嫌な感覚……どこかで)
そもそも会ったこともない、どういった人物かも分からない訪問者のカオメドを監視するような厳しい目で見ていたジャニスティは、調子の良い話し方をする彼へ妙な違和感と怪しさを、感じる。
そして今まで以上に警戒を始めたジャニスティは、微動だにしない。
「それで! スピナ様。その元奥様であるベリルさんが、どうしたというのですか!?」
そう言い立ち上がると今度は力強く、興味津々な顔でスピナへ近付き問いかけるカオメドの瞳と声は再び変化し、期待に胸膨らませ楽しんでいるようだ。
そんな彼を見てニンマリと悦ぶスピナは微かにも躊躇なくサラッと、口を切る。
「フッ――死んだのよ」
「な……」
「やぁね~、最近じゃあないわよ? それはもう十六年も前の話。オニキスとの赤ん坊を産んですぐに、ね」
「な、なるほど。しかし、それが……」
一体、今のオニキスに何の関係があるのか? と言わんばかりである。さすがのカオメドもスピナの勿体ぶった話し方と流れについて行けないという表情をしていた。
「凄い、凄く、溺愛していたのよ。オニキスは――」
「あ、そのベリルさんを? それは相当悲しみに暮れたでしょうねぇ」
そのカオメドの言葉に一瞬ギロッとナイフのような視線を向けたスピナを慌てて宥めるように彼は、言葉を加える。
「んー、あぁ~! それで心優しきベリル様が! オニキスさんのお傍にいてあげている、というわけですね?」
「ふふん。オニキスはね、あまりのショックに半年程塞ぎ込んでしまったのよ」
「へぇ~、オニキスさんがですか?」
商談中の何事にも動じない、表情を変えなかったオニキスに会いその姿しか見ていないカオメドは「あの冷静沈着に見えた御方がですか。そんな弱いとこもあるんですねぇ」と口元は、ニヤリと笑う。
「そう! オッホホ!! 信じられない話よね? たかが小娘一人死んだくらいで、半年も! それでね私、空っぽになっていたオニキスに――あまぁい蜜を仕込んだのよ」
「“蜜”ですか……」
「そう! 魔力のない彼に。あの煩わしい執事がいなかったら、なぁ~んの防御力もないあの人に!! 隙を見て与えた“み~つッ”よ」
スピナは一体、何が目的なのか?
意図的に部外者であるカオメドにベルメルシア家の内部情報を話し続け、漏らしていく。
それらはベルメルシア=オニキスがここまで築き上げてきた威厳や、街での威信に関わる可能性があった。
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