143 / 399
143.魔力
しおりを挟む「よろしいですね」
「……あぁ、エデ。すまなかった、急いでくれ」
「はい、承知いたしました」
目を瞑りカーテンを閉めたジャニスティはエデに返事をするとアメジストとクォーツへ再び向き合い膝をつき、座る。
「……うぅー」
「クォーツ!!」
悲痛な叫びにも聞こえるクォーツの声を受け止め自分の膝に寝かせたアメジストの手には、目覚めたばかりの魔力――丸く柔らかな光が、浮かぶ。
「大丈夫よ……傍にいるからね」
(私はあの大雨の夜に“この子”を守ると、誓ったの)
――だから、絶対に!
スッ……。
「ふ、あ。ジ、ジャニス?」
「お嬢様、体調の優れない中での魔力消耗はお身体に障ります。これから学校もございますので、今は私にお任せを」
アメジストの艶やかな手にそっと手を乗せ止めるジャニスティ。気遣う言葉は彼女の苦しさを、緩和させる。
「あ、りがと……。でも! ジャニスも辛いのでしょう?」
「私の事はお気になさらず、問題ございません」
そう言うとジャニスティはクォーツの髪をふわりと撫でおでこに手をかざした。そして囁くような声で癒し魔法を、唱える。
「ルポ(安らぎ)」
キラッ――。
アメジストが眩い光につい瞬きひとつした短い時間でクォーツの苦しむ姿は、一変。心地よさそうな表情ですやすやと、彼女の膝枕で眠り始めた。
「すごい、すごいわジャニス! なんて素敵な魔法なのかしら!!」
「身に余るお言葉、光栄に存じます。お嬢様」
一瞬の輝きを見せたジャニスティの魔力は優しく、そして強さを持つ。本当は自身も苦痛を感じていたにも関わらずクォーツに安らぎを与えるというその魔法を表情一つ変えずに、詠唱していた。
「それなのに私、お手伝いも出来なくて――」
「いいえ、貴女は十分にクォーツを守っています。今もこうして抱きしめ安心できる“場所”を作る。そう、『貴女様にしか出来ないこと』ですよ」
「あ、それは」
――『お嬢様には、他にやるべきことがあります』
三日後に開かれるお茶会の準備。
これをジャニスティが「手伝う」と言っていた、食事の部屋での出来事。皆が驚いたその時、自分にも何か出来ることはないか? と聞いた際に彼から言われた言葉を思い出したアメジストはフッと口元を緩め、気持ちよさそうに眠るクォーツを見つめる。
「お嬢様、ご安心を。だいぶ建物から離れましたので、恐らく私たちの体調も、徐々に戻ることと思います」
そう話したジャニスティは少し安堵した声になると、説明をし始めた。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
新米聖石細工師マイの店舗日記
深凪雪花
ファンタジー
貴金属宝石細工工を目指す宝石オタクの高校生・日下部舞は、ひょんなことから聖女召喚の儀式に巻き込まれて異世界転移してしまう。
元の世界へ戻れないことを知った舞は、聖石細工師を目指すことにして、恩人であり聖石細工師であるオーレリアに弟子入りする。
そして二年半後、ようやくオーレリアと一緒に働けるかと思いきや、なんとオーレリアは『旅に出る、店は任せた』と置き手紙を残していなくなってしまった。
というわけで、舞一人しかいないが、聖石店『クロスリー』開店します!
【二章完結】ヒロインなんかじゃいられない!!男爵令嬢アンジェリカの婿取り事情
ayame
ファンタジー
気がつけば乙女ゲームとやらに転生していた前世アラサーの私。しかもポジションはピンクの髪のおバカなヒロイン。……あの、乙女ゲームが好きだったのは私じゃなく、妹なんですけど。ゴリ押ししてくる妹から話半分に聞いていただけで私は門外漢なんだってば! え?王子?攻略対象?? 困ります、だって私、貧乏男爵家を継がなきゃならない立場ですから。嫁になんか行ってられません、欲しいのは従順な婿様です! それにしてもこの領地、特産品が何もないな。ここはひとつ、NGO職員として途上国支援をしてきた前世の知識を生かして、王国一の繁栄を築いてやろうじゃないの!
男爵家に引き取られたヒロインポジの元アラサー女が、恋より領地経営に情熱を注ぐお話。(…恋もたぶんある、かな?)
※現在10歳※攻略対象は中盤まで出番なし※領地経営メイン※コメ返は気まぐれになりますがそれでもよろしければぜひ。
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
婚約者が隣国の王子殿下に夢中なので潔く身を引いたら病弱王女の婚約者に選ばれました。
ユウ
ファンタジー
辺境伯爵家の次男シオンは八歳の頃から伯爵令嬢のサンドラと婚約していた。
我儘で少し夢見がちのサンドラは隣国の皇太子殿下に憧れていた。
その為事あるごとに…
「ライルハルト様だったらもっと美しいのに」
「どうして貴方はライルハルト様じゃないの」
隣国の皇太子殿下と比べて罵倒した。
そんな中隣国からライルハルトが留学に来たことで関係は悪化した。
そして社交界では二人が恋仲で悲恋だと噂をされ爪はじきに合うシオンは二人を思って身を引き、騎士団を辞めて国を出ようとするが王命により病弱な第二王女殿下の婚約を望まれる。
生まれつき体が弱く他国に嫁ぐこともできないハズレ姫と呼ばれるリディア王女を献身的に支え続ける中王はシオンを婿養子に望む。
一方サンドラは皇太子殿下に近づくも既に婚約者がいる事に気づき、シオンと復縁を望むのだが…
HOT一位となりました!
皆様ありがとうございます!
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
信用してほしければそれ相応の態度を取ってください
haru.
恋愛
突然、婚約者の側に見知らぬ令嬢が居るようになった。両者共に恋愛感情はない、そのような関係ではないと言う。
「訳があって一緒に居るだけなんだ。どうか信じてほしい」
「ではその事情をお聞かせください」
「それは……ちょっと言えないんだ」
信じてと言うだけで何も話してくれない婚約者。信じたいけど、何をどう信じたらいいの。
二人の行動は更にエスカレートして周囲は彼等を秘密の関係なのではと疑い、私も婚約者を信じられなくなっていく。
5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる