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142.異変

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 ジャニスティと自分が感じ取った、悪い空気。それはクォーツも同じではないのか? と彼女は、心づく。

(クォーツもきっと何かを感じているはず……怖がっているかもしれないわ)

 突然の出来事――アメジスト自身が感じている怖いという気持ちと、加えて急速に体調は悪化している。それでも可愛い妹クォーツへの気遣いが遅れたことを心の中で申し訳なく思いながら、言葉をかける……つもりだった。

(ふぅ、よしっ)
 苦しい胸に手を当て息を整える。

 そして彼女は気合を入れるように桃紫色の大きな瞳を煌めかせ、再度笑顔を作るとクォーツの方へ視線を向け、口を開いた。

「ごめんね、大丈夫? クォ……」
 しかし、アメジストはクォーツの顔を見た瞬間に驚きで言葉を失う。

「…………んぅ……ぅぅぅー」
「あ、え、どうしたの? ねぇクォーツ! どうしたの!?」
「お嬢様、いかが――クォーツ!?」

 この時、エデに声をかけていたジャニスティは二人に背を向けていた。そのためクォーツの異変に気付くことが出来なかったのだ。

「ジャニス! 急に、クォーツが……どうしたの、どこか痛いの!?」
 横に座るアメジストはクォーツを抱きしめる。ジャニスティはその間に膝をつき守るように、二人の肩を抱く。

(このクォーツの苦しみ様は、尋常でないっ!)
「一体、何が起こっているんだ」

 ほんの数分前から感じている不穏な空気――“ナニモノ”か分からない、辛く妙な気分にお互い声を掛け合い安心感を得ていた、アメジストとジャニスティ。
 それとほぼ同じ時にクォーツの状態は変化していた。今ではうずくまり倒れ込むように、苦しみ始めている。

「しっかりして……クォーツ!!」
 涙を浮かべクォーツの手を取るアメジストの声には、力が入っていく。

「エデッ!!」
「いいえ! まだです、ジャニスティ様。もう少し先へ、急いで移動いたします」

 ジャニスティの申し出を拒否し馬車をとめることなく進むエデの声色こわいろは低く、彼の耳へ重厚に響く。背筋に伝わるビリビリと走るようなエデの緊張感はジャニスティへ、間接的に危険を知らせていた。

「エデ……まさか?!」

 シャッ――!!

 閉めていた街側のカーテンを勢いよく開け、今通っている場所の確認をする。

「此処は――」
 見えてきた景色は馬車の中からでも感じる程に不気味な雰囲気を醸し出す、大きな建物。

(そういうことだったのか。それで『もう少し先』と……)
 エデの言った言葉の意味を理解した彼は顔をしかめ、愕然としてしまった。
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