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130.夢話

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「ラルミ、私はそんな……まだまだ何も出来ない、頼りないのです」

「そんなこと!! お嬢様は十分に――」

 その慎ましやかなアメジストの姿にラルミは目を瞑り過去の記憶に、思いを馳せる。閉じられた暗い視界の中で走馬灯のように流れゆくのは幸せだった頃に咲き誇っていた、色とりどりの花々。そしてベルメルシア家で過ごす皆の笑顔と、明るい声であった。

(お嬢様の優しさと温もりの全てが、亡きベリル様を感じさせるのです)

 ラルミが今感じているもの……それはあるはずのない“夢のような話”。

 なぜなら実母であるベリルはアメジストを産みすぐに、この世を去ったからである。普通の母子のような共に成長を分かち合う時間は送れずに――アメジストは、ベリルの美しい笑顔にも、皆が癒やしを求め愛したあの優しい声と言葉を交わすことも、ないまま。

――記憶の中にもベリルは、いない。

 しかしアメジストは成長するにつれ、その信念を曲げない性格や慈愛と言える優しさを持った心がまるで亡き母ベリルのようであったのだ。
 それは彼女が父オニキスから聞く母の話だけでは真似出来ない程の心情と、本質。

「ありがとう、ラルミは本当に優しいのね。でも今の私には日々、皆様が楽しく幸せでいられるようにと願い、祈ることしか出来なくて」

 その控えめなアメジストの言葉と表情に、胸が詰まる思いである。そしてラルミは自分の心の中にある思いを言葉にして、懸命に伝える。

「お嬢様は私たちの事を“ただのお手伝い”としてではなく、ちゃんと“生きる者”として、大切にして下さる。そう、そのお嬢様の想いに皆の心は救われ、身にしみて感じているのです」

「ありがとう、ラルミ。でもそれは、わたくしも同じなのよ」

「――!!」

 ふわぁっ――……。

 自然と湧いてくる“魔力”。
 しかし今はもう自分の手のひらに現れる丸い光にアメジスト自身驚くことは、なかった。それからふわりと浮かぶ光を優しくでるような仕草を見せるとアメジストは頬をピンク色に染めラルミへ微笑みかけながら、話す。

「皆様がベルメルシア家を大切に思う気持ちがこの心を育て、ずっとお世話をしてきて下さったからこそ! 私は笑顔で此処に、立っていられるのですから」

 そして丸く穏やかな光はアメジストの手からラルミの手へふわふわと飛び、煌めき始めたのだ。

「とても美しく、眩しいです! お嬢様の魔法、とても素敵ですね」
「本当!? ありがとう」

 それから二人は顔を見合わせ、笑い合った。
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