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125.愛心

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 スピナとノワが中庭で話をしている、ちょうどその頃――。

 食事の部屋ではお手伝いたちの落ち着きない声が聞こえいつもより慌ただしく朝食の片付けに、追われている。

 周囲の様子にジャニスティも胸ポケットにしまっていた懐中時計を出し見つめること、数秒。これから学校のあるアメジストの時間予定表を瞬時に頭の中で、組み直す。

(思ったより、時間がかかったな)
 
「アメジスト様、お時間が。外出の準備をなさって下さい」
「本当だわ、もうこんな時間!」

 そう言い足早に部屋から出ようとしたアメジストはふと、立ち止まる。

「あ、えっと」
「お姉様?」

――ぎゅうっ。

「クォーツ……どうしたの?」
「どこへ行ってしまうのですか?」

 歩き出せないくらい足に抱きついて全く、離れそうにもない。その寂しそうな表情でウルウルとアメジストを見つめ今にも、泣きそうだ。

 そこへゆっくりと抱き上げ声をかけたのは兄となった、ジャニスティである。

「良いか、クォーツ。お嬢様には行かなければならない所があるんだよ」
「行くの? えっと、お姉様が行かなきゃなの?」

 優しい口調でクォーツでも理解出来るようジャニスティは、話す。

「そう、お勉強だよ。昨日、クォーツも一緒に色々覚えたから、解るね?」
「んきゃとッ!」

 その言葉で泣きだしそうだったクォーツの顔は一気にぱぁーっと明るくなり頬はピンク色、すっかり笑顔に戻った。

(凄い……なんて素敵なジャニスとクォーツの信頼関係なのかしら! それに昨日よりも深い絆と、愛を感じるわ)

「クォーツ、ごめんね。一緒に過ごせなくて」

 申し訳なさそうに眉尻を下げ謝る姿を見たクォーツは「お姉様!!」と飛びつく。そして一瞬キラリと輝く光粒を放ちながらアメジストに抱きつくとその身体へ魔力を、送る。

「大丈夫ですわ、お姉様! だぁい好き!!」
「まぁ! クォーツ……私も大好きよ。ありがとう」

(なんて可愛いのかしら! それにすごく元気が湧いてくるみたいで)

「さぁ、クォーツ。お嬢様の邪魔をしてはいけ――」
「んっぱぁぁ♪ お兄様も、だぁ~い好きぃ!」

 ざわざわざわ――!?

「あ、あのジャニスティ様が笑って!!」
「クォーツお嬢様は天真爛漫な御方ですわね」
「えぇ、可愛い」
「しばらくと言わず、ベルメルシア家のお嬢様としてずっといて下されば良いのに」

 忙しいはずのお手伝いたち。しかしクォーツの小鳥のような声と無邪気さに目を奪われた皆の心には自然と余裕が生まれ、笑みが零れていた。
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