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116.意味

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「分かった、隣町からわざわざ来たのであろう。フォル、構わない」
「はい、承知いたしました。旦那様」

 おもむろに立ち上がるオニキスはフォルに横目で視線を送り溜息混じりに「仕方ない」と、返事をした。その様子から今回の新規開拓の話に乗り気ではないことがうかがえる。

 扉の前で話すスピナと奥様専属お手伝いであるノワが、こちらを見ていないのを確認したオニキスはゆっくり歩き出すと、アメジストの元へ向かう。

 とんっ。

「えっ、お父さ――」
「シィーッ。いいかい、アメジスト…………」

「……はい、分かりました」

 優しく肩に手を置かれ少し驚いたアメジストの言葉をやんわりと制止したオニキスはその耳元で、愛娘アメジストにしか聞こえぬよう何かを囁き、急ぎ伝える。
 それから一瞬だけ微笑むと後ろで待機するジャニスティにも一言ひとこと声をかけ、部屋を後にした。

「――今日はアメジストの学校がある。ジャニス、あの子を頼んだよ。エデにも、よろしく言っておいてくれるかい」

 その表情から読み取れるオニキスの思いは、一つだ。
――『アメジストの事を、何があっても護るように』

「はい、仰せのままに」

(お嬢様をお護りすること。それが此処にいる理由と役目でありしかし、今では私の意思でもあり、願いでもあるのだ)

「あの日、オニキスに……このベルメルシア家に拾われたお陰で私は立ち直った。そして、終幕村から生きて出られた」

 ポツリと心の声が漏れたジャニスティの瞳には辛く、哀しみに明け暮れた日々の記憶が蘇ろうとしていた。すると足に巻きつく温かな感触にふと、気付く。見下ろすとそこには自分と同じ髪色になったクォーツが温かい目で見つめ、微笑む。

「お兄様?」
「あぁ、ありがとう。クォーツ」

 スピナ以外のほぼ皆に認められたクォーツは晴れて、ベルメルシア家で暮らすこととなった。その可愛く無邪気な妹の笑顔が彼を、現実世界へと引き戻す。

(そうだ、昔の記憶に気落ちしてはならない。私には、護るべき大切な者が出来たのだから)

「とても、幸せなことだな」
「んあぅ~? あっ、いけない! えっへへ」
「良い、大丈夫だ」
(自分が思っているよりも、私は)

 たまに出てしまうそのレヴシャルメ種族の言語を愛おしいと感じる程に彼の中でクォーツは、“家族”となっていたのである。

 カチャン、キィ~……。
「あ~、そうだったわぁ」

 自室へ戻るオニキスの後ろをついて出て行ったスピナであったがまた、静かに扉を開け戻ってきた。
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