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115.複雑

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「なんと、あのスピナ様をもしずめるとは。アメジストお嬢様の立派な御姿が、亡きベリル様への思いを馳せますな」
 執事のフォルは小さな声であるじであるオニキスに、話す。

「確かに目覚ましい成長ではある。が、しかし私は、いささか心配なのだ」
「心配、でございますか」
「あぁ、いや。いい、フォル」

 どうつくろってもフォルにはすぐ解るような愛想笑いを浮かべ「気にしないでくれ」と返事をしたオニキスは視線を落とし、固い表情になる。いつかは訪れる、訪れてほしいとも願っていた娘の“能力”。しかしいざ目の当たりにしたオニキスの心情は思っていた以上に、複雑であった。

――我が愛娘アメジストよ、一体何がその内なる力を開花させたのだ?

 その間もスピナは自身の中に疼く何かと戦っているようにアメジストの瞳には、映る。継母の変化は一目瞭然、その様子に「まさか」という思いを感じさせまた、ある考えがアメジストの頭をぎった。

「お母様、あの」
 コン、コン、コン、コン。

 アメジストは感じた不安を明確にし解決させるためスピナへ声をかけようとするがしかしその矢先、部屋の扉を叩く音がしたのである。それはとても均等な響きでアメジストの声を、かき消す。

「あっ。もう良いかしらねぇ? アメジスト」

 その瞬間スピナは何かを思い出したかのように眼光は戻りアメジストの手を払うと離れ、扉へ向かい歩き始めた。

(お母様はきっと何か、とても重要な思いを抱えているんだわ)

 カッカッカッ、カツーンッ!
「ちょっと、そこをどきなさい」
「んあ、は、はい」

 扉の前にいた者へ命令をする継母スピナの空気はいつものあの姿であった。その言葉と振る舞いに硬直する、お手伝いたち。
 そしてなぜか、スピナ自身が扉を開けるその行動には皆、違和感を持つ。

 ガチャ、キィ……。

「あら、ノワじゃない。どうしたのかしら?」
「奥様、おはようございます。旦那様へ、お客様がお見えでございます」

 そのお手伝いはスピナ専属の者であった。あまりにも都合良い登場に少し不信感を抱いたフォルであったが胸ポケットに入れた懐中時計を取り出すと、時間を確認する。

「カオメド様か……しかし時間が少々早いようだが」
「はい、重々承知の上でとのことです。そのお客様は出来れば早く旦那様にお会いしたいと申されまして」

 フォルの厳しい指摘にも全く動じることのない、スピナ付きお手伝い。その立ち姿や抑揚のない声には感情がまるで感じられず、本物の人形のようであった。
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