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107.素直
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最後にオニキスもテーブルへ着く。そしていつもと変わらぬ朝が、訪れる。
――何事もなかったように。
「……良かった」
(どうやら皆には、気付かれなかったようだ)
ジャニスティがポツリと、呟く。それは密かに懸念していた、クォーツの力。
レヴシャルメ種族の持つ不思議な力である夢想の魔法で一瞬魅せた白い花の咲く、美しき世界。それはクォーツと唇を合わせたアメジストと、なぜか? ジャニスティにもその景色が、視えていたのである。
「お姉様、ごはんのお時間! 楽しみですわね」
「えっ? えぇ、そうね……」
忘れかけていた気持ち。食事とは本当は素敵な時間なのだという事をクォーツの素直な言葉で、思い出す。
「そう、うん。そうよね! 楽しみっ」
(今の私は、クォーツから学ぶことばかりだわ)
にっこりと笑い返事をした、アメジスト。ずっと感情を抑え込み続けてきたのはあの“圧力”に屈していたから。しかしもちろん何も知らぬクォーツは恐怖心などなく心から、はしゃいでいた。
その、純真無垢な姿は皆を笑顔にしていく。
――ただ、一人を除いては。
(うるさい、邪魔だわ。ジャニスの妹)
スピナは恐ろしくこんなことを、思っていた。『今日は初日、まぁいいわ。泳がせましょう』と、声に出さず心で呟く。
そしてニヤッと笑いながらクォーツに話しかけた。
「クォーツちゃん? 良かったわねぇ。もうすぐ準備ができるわよ~、いっぱい……お食べなさいよ」
背中がゾッとする声。アメジストはゆっくりと継母スピナの表情を、確認する。
(笑って……いない。お母様の目は、いつも!!)
「はぁ~いッ♪ ありがとうございます、伯母様」
「クォーツ!?」
「ちょっ……今何と言った!?」
「え?」
首を傾げる、クォーツ。
「まぁまぁ、君の事をクォーツはまだ知らないのだよ。紹介はこれからだ」
怒るな、と言いながらオニキスはスピナの次の言動を牽制する。
「クッ!! はは? ジャニスティの妹で間違いないようねぇ。躾が出来ておりませんわ」
(この私が厳しく、面倒見てあげますわ)
「妹が失礼を。申し訳ございません、スピナ様」
「あら、良いのよ」
カチャ……カチャカチャ。
食器の音は最小限の響きでテーブルまで運ばれる。その理由の一つは紛れもなくスピナの存在がお手伝いたちの心に恐怖として、棲み着いているからだ。
――しかし今、アメジストとジャニスティの内なる変化とクォーツの登場により現在進行形で皆の心情と見える状況は、変わってきていた。
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