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99.機転
しおりを挟むとても和やかな雰囲気で笑い合う三人をガラス張りの廊下から差し込む穏やかな陽の光が、優しく包む。オニキスは「良い朝を迎えられた」と言いながら、動き出す。
「さて、クォーツ。お腹がすいただろう? そろそろ行こう」
オニキスはこれから“娘”となるクォーツの左手を取り、微笑む。するとクォーツはその愛情に応えるかのように満面の笑みで、元気良く返事をした。
「ハイッ! 旦那様、とても楽しみです」
二人が並び歩き出した瞬間お手伝いは開扉の位置に着く。表情はいつもと同じ冷静さを取り戻している。
が、しかし……いつもとは違うその振る舞いや声は柔らかく、優しくなっていた。
「改めまして、旦那様。おはようございます」
「あぁ、おはよう。今日もありがとう」
「えっと、えーっと、あの! 私も、ご挨拶したいです!!」
「「えっ?!」」
可愛く小さなお嬢様からの突然の申し出に二人は、驚く。
(なんて愛らしい……)
心の中がポカポカと温かくなるのを感じ幸せな気持ちになっていく。そこでハッとする機転の利くお手伝いは――。
「大変失礼いたしました。クォーツお嬢様、おはようございます」
「んにゃッ! んくっと。私の方こそ、ご挨拶が遅れました。ジャニスティの妹、クォーツと申します。よろしくお願いいたします」
自分に向けて発せられた言葉に戸惑ったクォーツは一瞬、レヴシャルメ種族の言語を話しそうになるのに気付きその言葉をごっくん! と、飲み込む。
「はい、もちろんでございます。よろしくお願いいたします」
「わぁ~い! ありがとうございます!!」
返事をもらえたことが嬉しく舞い上がる小さなお嬢様は両手を上げぴょんぴょんと飛ぶと喜びを全身で、表す。
「はっはは、クォーツ! 良かったな」
「はい! うっふふふ♪」
誰がどう見ても仲の良い親子にしか見えない、二人。笑顔で「とてもお利口さんだ」と褒めるオニキスの言葉にますます喜ぶクォーツはキラキラと、瞳を輝かせる。
(なんて素直な……まるで幼き頃のアメジストお嬢様のようで)
その様子に不思議と何の違和感も抱くことなく親子のようだと感じたお手伝いもまた、笑みを浮かべ扉の取っ手に手を置く。そしていつも通り部屋の扉を、開ける。
ガチャ、キィー……。
「「「おはようございます、旦那様」」」
「やぁ、おはよう。清々しい朝だ。今日もよろしく頼むよ」
いつもより機嫌の良いベルメルシア家当主の声に皆、顔を上げると部屋の中には愛に溢れる空気が流れていった。
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