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96.感謝

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 そして。
――ベルメルシア家を守っていく。

 これは二人に共通する一番の思いである。
 歩き出す前にフォルは会釈程度の挨拶をすると顔を上げ、オニキスに話しかける。

「旦那様。一つだけ、よろしいでしょうか」
「ん? あぁ……」
 その言葉に一瞬、硬く真剣な表情になるオニキス。しかしすぐに笑いながら「ぜひ、何でも聞かせてくれ」と、答えた。

――その心情を、隠すように。

「お許し頂きありがとうございます。では、申し上げます。『道を外せば正す』、大切なことです。しかし私は、旦那様の目指す道、決めた道へは――何処まででもついて行く所存にございます」
 その優しく穏やかなフォルの口調には揺るぎない決意と強い安心感、そして笑った目尻のしわには貫禄すら感じる。

「しかし、フォル。私は――」
「大丈夫です、オニキス様。今まで通り、貴方が信じる道をお進み下さい」

「……そうか。いつもすまない」
「ご心配なさらずに。このフォルに、お任せ下さい」

(そうです、オニキス様。何があろうと、私はこのベルメルシア家に――ベリル様と貴方様に。生涯を捧げると誓ったのですから)

――貴方の未来は必ず、明るくなります。
 オニキスに伝わるように強く、心の中で呟く。

 言葉では言い表せないフォルの優しさを感じるがままに受け止めたオニキスはフッと、微笑む。それから爽やかな表情に戻ると柔らかな声で、返事をする。
「フォル、君には本当に心から感謝している」

「恐れ多いことでございます。それでは旦那様。私は先に参ります――」
 そう答えたフォルは再びお辞儀をしながら向き直ると食事の部屋へ、歩き出した。オニキスはその背中を見つめながらもう一度「ありがとう」と小声で感謝の意を、伝えるのであった。

 視界からフォルの姿が見えなくなるのを確認するとオニキスはホッと、溜息をつく。そして立ち止まった理由である自分の足元に、目を向ける。

「さて、どうしたのかね」
 そこには見覚えのある、あの『黒い布』が置いてあった。

「美しきシルクの上着マント。これが此処にある、ということは――」

 バサァッー!!

「ん、んあぁぅ?!」
 とても高い声で、驚いたのは。

(やはりな……)
「やぁ、可愛いクォーツ。先程ぶりだね」
「だ、だんなしゃま……」
 見つかった、と言わんばかりの顔で涙目になるクォーツであったが、しかし。

 オニキスは「どうしたのかな?」と話しかけ部屋で会った時と同じように優しく、抱き上げる。

 その表情はもちろん、満面の笑みだ。
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