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91.思慕

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「お嬢様」
「……えっ」
 落ち着かない様子のアメジストに気付いたジャニスティは安心できるように、言葉をかける。

「大丈夫ですよ。どうか、ご心配なさらないで下さい」
「――!」
(目が合うと、何だか恥ずかしくて。その瞳を見ていられないの)

 穏やかで優しい彼の声はますます、アメジストの鼓動を早める。

「ジャニス。あ……ありがとう。えぇ、そうね」
(今までとは違う、とても幸せな気持ちが、溢れてくるみたい)

 そう気付いたアメジストは違和感のないようにゆっくりと、視線を逸らし返事をした。幼い頃から一緒に過ごしてきた彼の事を思い慕う気持ちが今、うっすらと形を変え心奥しんおうで、視え始める。

 その高鳴る想いを気付かれぬように軽く呼吸を整えると、まるで子供のように。はにかみ「エヘヘッ」と、微笑んだ。するとジャニスティはいつになくアメジストの頭を抱きしめるように撫で、笑みを返してくれる。

 そして――。

「アメジスト様、やはり貴女にはその美しい笑顔が、良く似合います。まるで部屋一面に色とりどりの花畑が見えるような……」
 何かを言おうとしてジャニスティはハッとした表情で、口をつぐむ。そして突然アメジストに背を向けた。

(私が……お嬢様に私情を? 何を言おうとしているのだ)
 彼は自分の心が感じた“ある感情”を、自制する。

――そうだ、そんな事あり得ない。あるはずがない。

「ジャニス、あの……いつも素敵な言葉をありがとう」
 話し途中で後ろを向いてしまった彼の顔は、横顔も見えない。
 しかしその広く背中から伝わってくるジャニスティの心を感じ――アメジストは先程よりもさらに顔を赤らめ、声をかけた。

「いえ、私などの声は……」
 いつもであれば心の中で呟く気持ちを思わず、自然と口に出してしまいそうになり言葉に詰まる。

「そう、お嬢様が皆の事を大切になさる心。発せられるお言葉や、その笑顔に救われる者はこれまでも、そしてこれからも。たくさんいるはずです」
 冷静そうに話すジャニスティの顔は悲しいわけではないが、なぜか? 少しだけ眉尻を下げ、答えていた。そのあまり見たことのない困ったような彼の表情はアメジストの笑いを、誘う。

「うふふ! ジャニスったら、可笑しな顔をしてる」
「えっ、いえ! そのようなことは」
 慌てる仕草をするジャニスティの様子にアメジストの笑いは、止まらない。

――そこに流れる幸せな時間と、空気。

「あっ」
 その時ふと、アメジストはある事が気になり周囲を見渡した。
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