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88.哀情
しおりを挟む「何もありません、お母様に隠し事なんて……いたしませんわ」
ニコッと笑ったアメジストは自分の肩を力強く掴むスピナの手を握り、もう一言。
「お母様、何かご心配事があるのですか?」
アメジストは本気だった。いつもいつも邪険に扱われても継母の愛がいつかは見えてくると――解り合える日が来るはずだと、信じていたのだ。
――しかし。
パンッ!!
「なっ……この小娘が! 私に触らないでよ、調子に乗らないでちょうだい!!」
その手は激しく振り払われ彼女の思いは哀しくも一瞬で踏みにじられ、壊された。
「……お母様」
(やはりまだ……今の私では不足しているのでしょうか? このままずっと)
――解り合えないのでしょうか。
アメジストは心の中で哀しみの冷たい涙がツツーッと伝うのが、分かった。しばらく払われた手の平を見つめているとキラッと一瞬、何かが光る。
「アメジスト……お、お前まさか」
その小さな煌めきをスピナは、見逃さなかった。
「え? あ……ぅ、お母様?! 痛いです」
気付いたときにはアメジストの光る手の平、右の手首を身体が持ち上がりそうな程にスピナは、引っ張る。
「どうして、何故?!」
(この子が今更? 力に目覚めたというの!?)
「「「お、お嬢様!!」」」
数人のお手伝いが危険を感じ、叫ぶ。
「奥様、やめ――」
堪らずラルミは立ち向かおうと、走り出したその瞬間!
パシッ――……。
「奥様、これ以上はおやめください」
スピナの手を外しアメジストを守るよう前に出た声の主にざわついていた部屋は、一気に静まる。
――その人物は。
「……ジャニスティ、おーまーえぇ」
「お嬢様を、お護りするのが私の役目ですので」
シュルルル…………キュ。
スピナはジャニスティのネクタイを自分の手に巻き付け引き寄せると数センチという近距離まで、顔を近付ける。
そして先程とは明らかに違う高い声色で、一言。
「ジャニス~? お前は本当に言うことを聞かない、悪い子ねぇ」
(あっ、まただ)
その異様な雰囲気を感じたアメジストの身体は反応し、委縮してしまう。
それはあの時、ジャニスティの部屋の前で聞いた甘ったるい声風だったからだ。
昨日から早朝までに起こったジャニスティとの出来事にスピナは内心、発狂する程に激怒していた。しかしここで我を失い感情のコントロールが効かなくなると負けだ、と理性を保つ。
そしていつものニヤリ顔。あの鼻で笑うかのような余裕の表情を見せるといつも通りの高飛車な態度で、話し続けた。
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