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79.適正
しおりを挟む――「命の大切さは皆同じですわ」
(アメジストお嬢様が、私に改めて気付かせて下さった)
「もしあの時、あの一瞬をアメジストお嬢様が諦めていたら……止める私の間違いを正して下さらなければ。恐らく一生、この子を見捨てた事、助ける努力すらしなかった事に私は、良心の呵責に苛まれ苦しみ生きる事になったでしょう」
ジャニスティは強い意志を感じさせる声で話した。今の自分が置かれている立場も理解した上での覚悟が、オニキスの心へ届くようにと。
「そうか、やはりアメジストが――」
ずっと窓の外を見ていたオニキスはふと、横目で視線を二人へ戻す。
そこには優しく微笑みながら元気と勇気を与えてくれたクォーツの髪をふわりと撫で、自分の右横へ抱き寄せるジャニスティの姿があった。それに応えるかのように彼の足に抱きつく“妹”。
二人の仲の良い様子はまるで本物の、兄と妹のようだ。
(ジャニー、君をこのベルメルシア家に迎え入れた事こそが、本当の正しい選択だったと改めて確認できたよ)
朝陽を浴びながら窓枠に軽く座り直すと目を細めながらフフっと笑い、オニキスは口を開く。
「ジャニー」
「はい、旦那様」
少し大きめな声量で呼ばれ、ハッとした顔でジャニスティは返事をした。
「他に言う事はあるかな?」
その質問にクッと唇を締める。半ば諦めの境地に立たされた気持ちでジャニスティは最後の願いを込め、答え始めた。
「お嬢様は『助けられる命が目の前にある』、そう仰っただけ。今回の件、レヴシャルメ種族であるクォーツを助ける事が出来たのも奇跡的だったとしか言いようがありません」
「あぁ、そうだな」
――私は気付いているよ、ジャニー。君が自分を犠牲にした事。
「はい。ですので、どのような理由があろうと、お嬢様への教育・警護する立場である私が……このベルメルシア家にとって、リスクのある物事を勝手に許可し持ち込んだのは紛れもなく私の責任」
「その通りだよ、ジャニー」
朝陽の光と少しだけ俯き加減のオニキスの表情は、よく確認できない。不安と恐怖心が募るばかりのジャニスティであったがそれに勝る尊敬すべき彼女への忠誠心と強い信頼、そして――あの時に誓った、思い。
「しかし、救助した事は間違っていなかったと思っています。どのような処罰も、私が受ける覚悟はできております」
「そうか……」
空を仰ぎ答えたオニキスにジャニスティは、最後の言葉を伝える。
一切の責任は自分が取る、そう心に決めて。
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