61 / 399
61.聡明 ✧
しおりを挟む――『その力が、ベリルから受け継がれたものだとしても』
アメジストの魔法がわずかにも開花し確認された、この時間。
幸いにも部屋に残っていたのはベルメルシア家の屋敷で古くから働き、生前のベリルと面識があり慕う者ばかりであった。
◇
ベルメルシア=ベリル。今は亡き、アメジストの母である。
ベルメルシア家の一人娘として大切に育てられたベリル。自身の十八歳の誕生パーティーの席で後に夫となるオニキスと出会い恋をする。それからゆっくりと愛を育み、二十歳で結婚。二十二歳の頃にアメジストを身籠り出産――が、しかしその夜。原因不明の病でこの世を去る。
真珠のように輝く美しいロングストレートに毛先だけはゆるくカールされ、ふわふわと優しい印象であった美髪と二重瞼で大きな瞳は同色、神秘と言われる翠玉色であった。生まれながらに持つその麗しき姿と聡明さは、皆が憧れる。それは風姿だけではなくかなりの努力家。それゆえ周囲の者からは全幅の信頼を、寄せられていた。
そしてジャニスティと同じ『治癒回復』を完璧にこなす魔法の使い手として、貴重な存在でもあったのだ。
◇
アメジストが昼食後の部屋で皆からの信頼を感じ前へ進み始めた、その頃。
謎多きレヴシャルメ種族であるクォーツの優れた頭脳に、ジャニスティは驚愕していた。
「良いかい、クォーツ。これから君が過ごしてゆく人族の中では“話し言葉”が必要となる。これから私が教える話し方を、よく聞いて覚えるんだ」
「うはゆ!」
クォーツはとても真剣な表情でジャニスティの話を聞き大きく頷きながら、返事をする。
「よし、良い返事だ。君がこれから先どのように進んで行くのか? まだ分からない。もしずっと人族として生きていくのであればとても必要な事だ。そして此処で暮らしていくには、レヴシャルメ種族だという事は言わない方が賢明だろう」
「うぅ……むん?」
――あぁ、眩い光のようだ。
ジャニスティが目を細める程にクォーツの瞳は大きく開かれ輝き、目を離させない。それは彼からの説明を待っているようにも、見えた。
「あぁ、無理もない。しかし自ずとその意味が見えてくるはずだ。なぁクォーツ、今は私の言葉を信じ、ついて来てはもらえないだろうか?」
基本重視と教え始めた、話し言葉。ひとまず明日に必要な最低限の挨拶と単語の指導に入る。すると驚きの速さで言葉を覚えていったクォーツは、ものの二時間で会話は全く違和感なく、通じるようになった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です
岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」
私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。
しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。
しかも私を年増呼ばわり。
はあ?
あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!
などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。
その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
王太子の子を孕まされてました
杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。
※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる