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50.翠玉
しおりを挟むその頃アメジストは「何か不思議な事が起こるかもしれない」と、期待に胸を膨らませていた。
◇
書庫でジャニスティが見つけた、隠し扉。その先に続く通路には埃一つない程の美しさだ。そのうっとりと見惚れてしまう翠玉色の絨毯床はアメジストが歩みを進める一歩一歩の足音全てを吸収し、まるで防音対策でもされているかのような、静かな空間であった。
ニコニコご機嫌に歩く彼女はふと、ある事に気付く。
「あら? そういえば、聞いていた風景と少し違う気が――」
何度かこの通路を使い安全確認をしたというジャニスティの話で「床も壁も何の装飾もなく静寂、殺風景」と聞いていたアメジストは心なしか、疑問を抱いた。
――私にはお花柄の模様が、見えるような気がするの。
今現在、魔力が感じられずに魔法が使えないアメジスト(はたまた力が覚醒していないだけなのか)。
ベルメルシア家のお嬢様は母ベリルとは違いその能力はないのでは? と密かに取り沙汰されていた。そんな彼女と一緒に扉の向こうへ行けない事がジャニスティにはとても気がかりで、仕方がなかった。
しかし当の本人であるアメジストはというと「ベルメルシア家を受け継ぐ者にしか――」という彼の言葉を良い意味に受け止め、楽しそうにしているのだった。
「あっ! そうだわ、のんびりなんてしていられないのに」
そんなアメジストの性格をよく知り尽くしているジャニスティは、彼女に懐中時計を持たせていた。首からかけていた時計を開き確認すると、お昼時に迫る針、少し慌てるアメジスト。
(次はきっと、ジャニスティとクォーツと三人でゆっくり。素敵なこの隠れ通路へ……)
そんな願いにも似た思いを夢に見ながら時間を気にしつつ、足早に出口を目指した。
(パタパタパタ……)
そしてジャニスティの言った、“三つの約束”。
後ろを振り返らない。
進行方向へ意識を向ける。
そして――。
「声が聞こえたとしても、知らないふり! ねッ」
彼の言っていた注意事項を改めて心の中で復唱し、守りながら進む。真っ直ぐと続く道の先は近くに見えて、遠くも見える。それをアメジストはドキドキとしながら歩いていた。
「どうしてかしら? 初めて来たはずなのに懐かしい気がするの。それにこの場所、とても心地良くて……私には良い所だという気配しかしないわ」
そう思った事を口に出すとアメジストはニコッと微笑み、今まで以上に足取りしっかりと美しい翠玉色の絨毯を踏みしめながら、進んでいった。
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