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38.足音

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 高く可愛いクォーツの声で一気に和やかな雰囲気になる。こんな短期間で三人の信頼関係はより深いものとなっていた。そしてジャニスティとアメジストの二人はいつの間にか、クォーツの明るさのおかげで心にゆとりを取り戻せている。

――幸せの感じられる時間。この時、忍び寄る気配に未だ三人とも気付いていなかった。

「レヴシャルメ種族にそのような秘密があったなんて。驚いたけれど……とても可愛いクォーツに変わりないわ」

 そう言ってアメジストはクォーツの手を取り「私達を受け入れてくれて、ありがとう」と想いを口にし言葉にして、伝えた。

 ふと視界に入った時計、時刻は十時をまわっている。
(もう戻らなくちゃ)

 何より二人が無事で、元気になって本当に良かったなと安心。アメジストは抜け出て来た事に後悔はなかった。

 名残惜しそうに……しかし満面の笑みで、ジャニスティとクォーツにしばしのお別れを言う。

「ではジャニス、私はお部屋へ戻ります」
「はい、お送り出来ない事が本当に心苦しいのですが……どうかお気をつけて」

 この度は本当にありがとうございました、とジャニスティは深々とお辞儀をつけ、お嬢様へ挨拶をして見送ろうとした。

 その時――。

 カツーン、コツーン、カツーン……。

「――!!」
(聞こえる、足音が……)

「まさか、この部屋の辺りに人は来ないはずだが。一体」

 近付いてくる恐怖。時間をかけて靴のヒール音を楽しむように歩くこの特徴ある足音が、アメジストには誰なのか? すぐに分かった。

「ジャ、ジャニ……ス。お母様よ」
「まさか奥様?! 此処にいらした事は、一度もありませんが」
 ジャニスティはとても不思議そうに答えつつ、アメジストとクォーツが部屋にいることに気付かれてはならないと、ベッドの上に二人を乗せ魔法を展開した。

「このベッドの中だけに『無音』の魔法をかけます。しかし所詮は私のような者が展開する魔法です。油断、安心は出来ませんので……絶対に声を出さぬよう気をつけて下さい」

 静かに頷くアメジストは今にも泣き出しそうだ。しかし腕の中にはしっかりクォーツが抱かれている。

「んなう?」
 どうしたの? と言わんばかりの表情で様子を窺ってきたクォーツに、ジャニスティは近くまで寄り優しく声をかけた。

「いいかい、クォーツ。お嬢様から離れてはいけない。そして何があってもおしゃべりしては駄目、いいね?」
 そのぷにぷに艶のある頬を撫でながら、諭すように教えていったのである。
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