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31.心音

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「ジャ……ニス……私、怒られるものとばかり」
「そんな事、有り得ません」
 ジャニスティのアメジストを抱きしめる腕がさらに強くなる。心から安心できる包容力に嬉しく、しかし恥ずかしい気持ちが溢れてくる。

(あぁ、胸がドキドキして止まらなくて)
 アメジストもそれに応えるように彼の背中へ遠慮がちに触れるとその瞬間、彼女の血液は一気に身体中を流れ熱く火照り始めた。

「お嬢様の手は、温かいですね」
「え……う、うん。ジャニスも温かい」

 二人はしばらくの間、お互いの優しい温もりに幸せを感じるほど近く、抱き締め合う。
(ジャニスの心音しんおん、すごく早くてドキドキって大きく聞こえる)

――この日、いつもと違う想いを抱いた二人。

 昨日の夜からは想像もできない、彼女はこうして三人元気で生きていられる事への感謝と、同じ想いをジャニスティと共有出来ていることが心から嬉しく、今まで以上に存在を感じていた。

(私、いつからこんなに寂しがり屋さんになったのかしら)

 部屋にいて勉強をしていたはずの自分が気付けば柔らかな陽射しの当たるこの部屋で、優しいジャニスティの鼓動に耳をあて穏やかな時間を過ごしている。

(心がぽかぽかして幸せ過ぎて……ずっとこのままでいたい)

「ジャニス……」
 無意識に小さく彼の名を、呟く。

 すると突然アメジストは、お腹や腰に違和感を感じた。何やら動いてくすぐったくて仕方がない。

「ん……や、待って? うっふふふ」
 それは抱き締め合う二人の間に挟まれていた、クォーツだった。

「うむむにぃ~♪」
「クォーツ!!」
「やぁ、クォーツ。あっはは、忘れてなんていないよ。君もまた、これからは私の大切な主人だ」

 にかにかっと可愛い笑顔で二人を見回す。その姿を見たジャニスティは少し深めの溜息をつき、話し始めた。

「お嬢様の仰っていた疑問について、ですが」
「あ、どうしてクォーツと通じ合えているのかというお話?」
「えぇ。今のクォーツの身体は、ほぼ私の魔力によって復元されたものです。予測の域を出ませんが恐らくそれが理由で私との繋がりが強くなっているのではないかと」
「なるほど……でも私は何も」

 自分はクォーツとの繋がりは何もないのではと考え、寂しそうな表情をするアメジスト。しかしクォーツの気持ちが分かる気がすることが不思議、という顔をしていた。

「お嬢様。その謎は、先程」
「えっ?」

 そう言うとジャニスティはフッと微笑み、アメジストの髪を撫でながら続きを話した。
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